付き合った私たち
紫音と付き合い始めてから半月が経った。付き合う前から私たちの距離感はおかしかったと思うが、付き合ってからの距離感は更におかしくなった。
まず、アパートを出るときは必ずと言っていいほど腕を組む。
そして、教室に着けばカバンを置いた後私は紫音のもとに行くのだが、そのまま彼女に腕を引かれて膝の上に座らせられる。
当然、紫音が私の後ろになるわけで、当たり前のように後ろから前に腕を回して抱きしめると、チャイムが鳴るまで私を離そうとしない。
さらには、お昼の時は必ず紫音が私に食べさせてくれるし、口に何かつけば拭いてくれる。
(なんかもう、ダメ人間になりそう…)
それがここ最近の変化に対する、私の率直な感想である。
ただ、良いことばかりでもない。それは、金曜日と土曜日の夜がとても疲れるということだ。
私が紫音に告白して襲われたあの日以降、紫音は我慢することをやめた。
さすがに次の日に学校がある日は我慢してくれるが、休みの日は容赦なく彼女に食べられる。
さらに、私が慣れてきたからなのか、それとも変な体力がついたからなのかは分からないが、一回一回の時間がどんどん長くなり、最近では紫音が満足する朝方まで止まらない。
そんな紫音の最近のお気に入りは目隠しだ。といっても、目隠しをされるのは私で、紫音は焦らしながら私を攻めてくる。
最初こそ目隠しをする意味が分からなかったが、付けてすぐに分かった。
あれは本当にやばい。視覚を失うだけで体の感覚が鋭くなり、軽く触られるだけでゾワゾワとした快感が押し寄せてくる。
しかもそのまま耳を攻められれば、いつも以上に水音が脳を溶かして、あっという間に彼女を受け入れる準備が整う。
だが、紫音はどこで覚えてきたのか分からないが、さらにそこから私を焦らし続け、言葉攻めまでしてくる始末だ。
そのせいで何度恥ずかしいセリフを言わされたことか。思い出しただけでも顔が熱くなる。
(ただ、紫音とすること自体は嫌じゃないんだけどね…)
日中の紫音も私のことを大切にしてくれているし、好きだという気持ちをたくさん伝えてくれる。
しかし、夜の紫音はもっとすごい。耳元で好きだよ、愛してるなんて囁かれた時には、思わずお腹の奥がキュンとした。
そんな大変だか幸せな半月を過ごした私たちは、昨夜の紫音との行為のせいで、せっかくの日曜日だというのにお昼過ぎまで寝ていた。
(今日も紫音の寝顔かわいい)
私はこの時間が好きだ。いつも私の方が気を失って先に眠るから、紫音よりも先に目が覚める。
だから紫音の寝顔が見放題だし、これは彼女である私だけの特権だ。
もちろん誰かに譲る気もないし、紫音はずっと私のものだ。
最近の私は、自分でも思うが変わったと思う。前よりも紫音のことを一番に考えるようになったし、彼女に対する独占欲が強くなった。
でも、それも仕方のないことだろう。だって、紫音から向けられる愛はとても心地よく、仮にこれを他の人に向けられたらと思うと想像しただけで怒りが湧いてくる。
(好きだよ。紫音)
そして私は、今日も寝てる紫音に愛を込めてキスをする。
「…んん」
すると、唇に私が触れたことで起きたのか、紫音は少しだけ身じろぎする。
「…はくの〜。キス〜」
最近知ったことだが、寝起きの紫音はとても甘えん坊だ。
こんな姿を見れるのも、彼女としての特権だと思うと愉悦感がすごい。
私は紫音が求めてきた通り、もう一度優しくキスをする。
触れるだけのキスだったので、すぐに唇を離すと、紫音は幸せそうにふにゃりと笑ったあと、目が覚めたのか話しかけてきた。
「ねぇ、白玖乃」
「なに?」
「冬休みになったら、私の実家に来ない?」
それは突然のお誘いだった。しかし、前にも誘われたことはあったし、私個人も紫音の生まれ育ったところには行ってみたいと思っていた。
「親に許可もらえたら行きたい」
「わかった。でも、無理そうだったら大丈夫だからね?」
「うん」
まだ行けるか分からないが、行くとなれば初めて紫音の実家にお邪魔することになるので、とても緊張する。
「私、ご両親に嫌われたらどうしよう」
「ふふ。大丈夫だよ。お母さんとかも白玖乃に会ってみたいって言ってたから、そんな事にはならないよ」
「だといいけど」
友達の家に行くだけならここまで気にしたりはしないが、相手は恋人の家族だ。
出来れば良い印象を持ってもらいたいし、良好な関係を築いていきたい。
(あとで手土産とかお母さんに相談しよう…)
分からないことは親に尋ねることにした私は、とりあえず今は紫音との時間を大切にする。
今はお互い下着すら付けてない状態なので、彼女の肌の柔らかさが直接伝わってくる。
その温もりが心地よくて、私は彼女をギュッと抱きしめると、そのまま胸元にキスをする。
すると、紫音は何を思ったのか、私のことを強く抱きしめると、耳元で甘く囁く。
「白玖乃。そんな事されたら我慢できなくなるよ」
「…え?」
「誘ってきたのは白玖乃だし、いいよね?」
「いや、でもまだ昼間だよ?」
「時間なんて関係ないよ。またたくさん気持ち良くしてあげるから」
紫音はそう言うと、私のことを見て舌なめずりをする。
その目は昨夜も見た獣のそれであり、瞳に映る私は食べられる前のウサギのようだった。
その後、結局夕方まで私は紫音という獣に食べられ続けるのであった。
翌日。私と紫音はいつものように腕を組んで登校する。最初こそ私たちのことを見てくる人も多かったが、今では皆んなスルーだ。
もはやこんな私たちが皆んなの日常となっており、一度腕をくまないで登校した日には喧嘩をしたのかと周りからすごく心配された。
それ以来、特に理由がなければ必ず腕を組むようになった。
そんな感じで教室に入ると、こちらも最近では見慣れた光景が目に入る。
「一花、今日も雅に話しかけてるね」
「うん。多分アピールしてるんだと思う」
半月前、一花が私に付き合ったらどんな感じか聞いてきたあの日、一花に私と紫音は呼ばれた。
『どうかしたの?一花』
『うん。突然だけど、うち、雅が好きなんだ』
この言葉を聞いた時、私は何となく分かっていたからあまり驚きはしなかったが、紫音はすごく驚いていた。
『そうなんだね!すごく良いと思う!』
『うん。応援する。何か手伝うことはある?』
『ありがとう、二人とも。でもまだ大丈夫。最初は自分だけの力で頑張りたい』
『わかった』
あの日から一花は、私たちがいない時も積極的に雅に話しかけるようになった。
その姿が少し前の私と重なり、お願いされた時には出来る限り協力してあげたいと思っている。
「おはよ、二人とも」
「おはよう、紫音、白玖乃。今日も仲がいいわね」
「うん!私と白玖乃はずっと仲良しだよ!」
「あはは。確かに二人が喧嘩するの想像できない」
いつものやり取りをした私たちは、カバンを置いて四人で話をする。
「そういえば、もうすぐ冬休みよね?みんなはどうするの?」
「うちは普通に実家に帰るかなぁ」
「私と白玖乃は二人で私の実家に行くよ!」
「紫音の実家?」
「うん!」
二人は紫音が言った言葉に少しだけ驚いたのか、何も言わずに黙ってしまった。
しかし、すぐに気を取り直すと「いいわね」とか「楽しんでね」と声をかけてくれた。
その後も私たち四人は、お互いの冬休みの予定について話をすると、チャイムがなる少し前に自分たちの席に戻る。
私と一花も自分の席に戻ってくると、今度は二人だけで話をすると。
「白玖乃は冬休み、紫音の実家に行くんだよね?」
「うん」
一花は私の返事を聞くと、少しの間黙って考え事をする。
そして、何かを決意した瞳で私のことを見ると、真剣な表情でお願いをしてきた。
「白玖乃、お願いがある」
「なに?」
「詳しいことはあとで話すけど、私も紫音の実家に行かせて欲しい」
「一花を?」
「うん。正確には私と雅をだけど」
私は一花からお願いされたことは嬉しかったが、さすがに紫音の家に彼女たちを連れて行くことを私が勝手に決めることはできない。
「紫音に聞いてみないとなんとも言えないかな」
「わかってる。あとで紫音にも話すから、少しだけ時間ちょうだい」
「わかった」
具体的に彼女が何を望んでいるのかはまだ分からないが、一花からは確かな覚悟が感じられた。
私が一花の話に了承するのと同時に始業のチャイムが鳴り、今日も長い一日が始まるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『すれ違う双子は近くて遠い』
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