星が好き side一花
いつから雅に恋をしたのかと聞かれれば、うちは正直に分からないと答える。
例えば人は呼吸をする時、意識して呼吸をするわけではないし、歩き方だって小さい頃に気づけばできるようになっている。
そんな感じで、うちは気付けば雅のことが気になっていたし、恋に落ちていた。
最初うちが雅にあった時、正直にいえばどう接すれば良いのか分からなかった。
容姿はあの紫音と並んでも引けを取らないほど美人だし、話し方もすごく丁寧で、何というかお嬢様って感じがした。
だからあまり二人でいることはなかったし、話をするにしても紫音や白玖乃と一緒にいる時だけだった。
そんな深くない関係だったうちたちだが、あることをきっかけに仲良くなった。
入学して一ヶ月ほど経った頃、うちと雅は紫音に相談があると言われて呼び出された。
「あのね、二人には話しておきたいことがあるんだ」
「改まってどうしたの?」
その日は、いつも元気な紫音が珍しく言葉を選んで話しており、かなり話しづらそうな雰囲気だった。
雅も紫音がいつもと違うことを感じ取ったのか、いつもより優しい声で話しかける。
「あの、驚かないで聞いて欲しいんだけど。私…白玖乃のことが好きなんだ」
紫音から言われた言葉を聞いて、うちと雅はしばし黙る。
紫音と白玖乃と知り合ってからの一ヶ月間、彼女が白玖乃のことを大切にしているのは分かっていた。
ただ、紫音が優しくて同じ部屋で暮らす同居人だからだと思っていたし、恋愛対象として好きだからだとは思わなかった。
「…そう。別にいいと思うわよ?応援するわ」
「うちも応援するよ」
「…ありがと。でも、二人は私を気持ち悪いと思わないの?」
「思わないわ。人の気持ちなんでそれぞれだもの。それに、同性愛者も最近は増えてきているし、私は紫音ちゃんの気持ちを尊重するわ」
「うちも別にその辺は気にしないよ。それにうちは二人のことが好きだし、その二人が幸せになってくれたら嬉しいよ」
紫音はうちたちの言葉を聞くと、あまりにも嬉しかったのか泣き出してしまった。
確かに同性愛者が少しずつ受け入れられてきているとはいえ、まだまだ世の中の目は厳しい。
それに紫音は田舎出身だ。きっと田舎の方が同性愛に対する忌避感は強いだろうし、そういったことからずっと一人で不安を抱えてきたのだろう。
そんな状況なのに、うちと雅に本当のことを話してくれたのは嬉しかったし、素直に彼女の勇気すごいと感じた。
雅はそんな紫音を宥めるため優しく抱きしめ、背中を優しく摩っている。
うちはそんな二人を眺めながら、これから自分が二人のためにできることは何かを考えるのであった。
しばらくして紫音が落ち着くと、うちと雅はいつから白玖乃のことが好きなのか尋ねてみる。
「紫音ちゃんは、いつから白玖乃ちゃんが好きなの?」
「実は、入学する前からずっと好きだったんだ」
「入学する前?てことは、アパートに入居した日とか?」
「ううん。もっと前。白玖乃は覚えてないみたいだけど、受験の日に私と白玖乃は会っててね。私が道に迷ってた時に助けてくれたのが白玖乃だったんだ。それで、その時に白玖乃の可愛さに一目惚れしちゃって…」
そう話す紫音は、これまで見たことがない女の子の顔で好きになったきっかけを話してくれた。
彼女の話の通りなら、紫音と白玖乃は本当に運命のような何かで結ばれている気がする。
数百人といる受験生の中で二人は出会い、さらに合格したうえで同じ部屋になだったのだ。
これが運命でなければ何だというのか。
その後も紫音や白玖乃の日常生活の話を聞いたり、どうやって白玖乃にアピールするかなどの話をしながらその日の話は終わった。
紫音の話を聞いたその日の放課後。急用があるとかで紫音と白玖乃は急いで帰って行ったので、うちと雅は二人で教室に残っていた。
「それにしても、紫音ちゃんの話は驚いわたわね」
「確かにね。でも、白玖乃が紫音さんを好きになるかな?」
「多分大丈夫よ」
「何でわかるの?」
「何となくね」
雅はそう言うと黙ってしまった。彼女は何を考えているのか分からないので、二人でいるといつも話が続かない。
(雅と止まらずに話せる紫音さんはほんと凄いな)
「私たちもできる限り協力してあげましょう」
「そうだね。大切な友達だし」
「ふふ。そうね」
その日から、うちと雅は二人で協力して紫音のサポートをするようになった。
そして、二人をサポートしていくうちに、以前よりもうちと雅の中は深まった。
前は二人でいるとなかなか話が続かなかったが、今は共通の話題がある。
「紫音さんがあんなにアピールしてるのに、何で白玖乃は気づかないんだろ?」
「多分、一緒に生活しているせいね。それに、紫音ちゃんはもともと距離感が近いから、なかなか気づきにくいのかもね」
雅と二人で話すことはいつも紫音と白玖乃のことばかりだったが、その時間がとても楽しかった。
何というか、部活で仲間と一緒に目標のために頑張っている感覚に近い。
紫音と白玖乃が結ばれることを目標に、うちと雅は協力し合う仲間だった。
それからは、うちと雅はよく二人で話をするようになったし、寮では互いの部屋を行き来するようにもなった。
最初はどうやって接したら良いのか分からず距離を置いていたが、今では雅といる時間が楽しかったし、何だかすごく安心した。
彼女は割と表情が豊かで、話し方は相変わらず丁寧だが、冗談もよくいうし面白い。
日を重ねるごとに雅の新しい一面を知ることができたのはすごく嬉しかったし、そんな彼女に惹かれてしまうのは必然だったのだろう。
気付けばうちは雅のことを紫音と白玖乃のために協力する仲間ではなく、一人の女の子として好きになっていた。
紫音に協力するようになって半年ほど経ったある日のこと、うちは雅の部屋で寛いでいた。
「ねぇ、雅」
「何かしら?」
「雅の好きなものってなに?」
「唐突ね。どうしたの?」
「特に意味はないよ。それで?」
「んー。そうね。昔から星が好きだわ」
「星?」
星が好きだと言った彼女は、天井で見えないはずの空を見上げながら、何かを懐かしむように教えてくれた。
「えぇ。小さい頃に家族で田舎の方に旅行に行ったのだけれど。その時に見た星がすごく綺麗でね。
その時にお父さんが星座とか星の逸話を教えてくれて、すごく面白かったわ。だから私は星が好きなのよ」
ここまで饒舌に彼女が話したことは無かったので、私は少し驚いてしまった。
それに、彼女の言葉からは本当に星が好きだという感情が伝わってきたので、うちも少しだけ興味が湧いた。
(星か…)
しかし、星を見たくてもここら辺は夜も明るいのでなかなか見ることは出来ないし、図鑑などを見てもいまいちよく分からない。
(すぐは無理かもだけど、時間のある時に方法を考えてみよう)
雅のことをまた一つ知れたうちは、その日はいつもより上機嫌で自分の部屋へと戻った。
さらに数日後、私と雅は紫音にお願いがあると言われて呼び出された。
「どうしたの?紫音」
「今回は二人にお願いがあってね。11月7日なんだけど、その日は白玖乃の誕生日なんだ。
それで、雅には今度誕生日プレゼントを選ぶのを手伝って欲しいのと、一花には当日白玖乃をどこかに連れ出して欲しいの」
「つまり、サプライズがしたいってこと?」
「そう。私はまだこっちにきたばかりだし、好きな人にプレゼントとかしたことないから分からなくて…。だからお願い。手伝ってくれないかな!」
紫音はそう言うと、真剣な顔をしながらうちたち二人に頭を下げてきた。
「分かったわ」
「任せて」
「ありがと!」
しかし、その日から数日後。恋心を自覚した白玖乃が急激に紫音にアピールするようになり、うちと雅は紫音という獣を抑えるので大変だった。
うちたちがいなければ、白玖乃はとっくに紫音に食われていただろう。
そのくらい大変だった。
途中、誕生日のサプライズを考えていた紫音が、逆に白玖乃からサプライズで誕生日を祝われたなんてのもあったが、そんな話を聞かされた時は二人とも似たもの同士だと思った。
そして迎えた白玖乃の誕生日当日。私は紫音にお願いされた通り白玖乃を連れ出した。
行く場所はとっくに決めており、雅が好きだと言っていた星のことを知るためプラネタリウムに行くつもりだ。
白玖乃が星を好きかは分からないが、いつも二人のために行動してるのだ。たまにはうちの方に付き合ってもらってもバチは当たらないだろう。
そうしてプラネタリウムで星を見たわけだが、確かにすごく綺麗で面白かった。
季節ごとに空を彩る星々はとても魅力的で、雅が好きだと言っていた理由もよくわかる。
(いつか雅と二人で、本物の星を見に行きたいな)
綺麗な星を見上げる雅は、どんな星よりもきっと綺麗なことだろう。
そんなことを考えながら寮に帰ってきたうちは、ベットに横になりながら紫音と白玖乃、そして雅のことを考える。
紫音と白玖乃は今頃二人で誕生日をお祝いしているはずだ。
もしかしたら、明日の二人は今までよりも仲が深まっているかも知れないが、大切な友達がそうなってくれるなら嬉しい限りだ。
もしそうなったら白玖乃に聞いてみよう。好きな人と付き合うとどんな気持ちになるのか。
うちは雅が好きだ。でも、雅がうちをどう思っているかは分からない。
ただ、彼女のためにしてあげられることはしてあげたい。
だから紫音と白玖乃が付き合ったら、今度はうちに協力してもらえるようにお願いするのもありかも知れない。
とりあえず細かいことは明日の状況を見てから決めることにして、うちは眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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