告白
あれから数日が経ち日曜日となった。今日は一花と二人で遊びに行く約束をした日だ。
「それじゃあ、紫音。行ってくるね」
「うん!いってらっしゃい!」
紫音は私のことを笑顔で見送ってくれるが、私は彼女と離れるのが寂しくてなかなか部屋を出ることができない。
(紫音はこの後、もしかしたら雅と二人で出かけるかもしれないんだよね…)
そう考えると、雅が紫音を好きとは限らないが、少しだけ焦ってしまう。
私は我慢できずに、思わず紫音に抱きつく。
「おっと。白玖乃、どうしたの?」
「紫音を充電してる」
「ふふ、そっか。なら、私も白玖乃を充電しようかな」
紫音はそう言うと、私の背中に腕を回し、優しく抱きしめ返してくれた。
ずっとこうしていたい気持ちに駆られるが、そろそろ出ないと一花を待たせてしまうので、私は渋々体を離そうとする。
しかし、紫音の方が私を離してくれず、逆に腰を引き寄せてくる。
私が彼女の行動に驚いていると、紫音はさらに顔を近づけてきて、頬にキスをしてくる。
「今日が白玖乃にとって良い日になることを願ってるよ」
「あ、ありがと」
彼女の言葉の意味は分からなかったが、紫音が私にキスをしてくれたこと、そして優しさのこもった瞳に私だけが映っていることが嬉しくて、胸が大きく高鳴る。
「さぁ、白玖乃。一花も待ってるだろうし、そろそろ行っておいで」
「うん。行ってきます」
心臓がまだドキドキしているが、私は改めて紫音に見送られてアパートを出るのであった。
一花との待ち合わせ時間は12時で、場所は最寄駅から数駅ほど離れた場所だ。
今日何をするのかは聞いていないが、一花と二人で出かけることはあまりなかったのですごく楽しみだ。
私は待ち合わせ場所に着いて辺りを見渡してみるが、まだ一花は来ていないようでどこにも見当たらなかった。
スマホで時間を確認してみると、待ち合わせ時間10分前だったので、しばらくここで待ってみることにした。
「あれ、今日は白玖乃の方が早かったんだ」
それから5分ほど経った頃、私に声をかけながら一花が近づいてきた。
「みたいだね。紫音が早めに起こしてくれたからかも」
「あぁー、なるほどね」
その風景が想像できたのか、一花はクスクスと楽しそうに笑いながら納得してくれた。
「今日はどこに行くの?」
「そうだねぇ。白玖乃は星に興味はある?」
「星?」
「ついてきて」
それから少し歩いて連れてこられたのは、すごくおしゃれな建物で、所々に星のような星座のような絵が描かれた場所だった。
「ここって…」
「プラネタリウムだよ。来たことある?」
「昔、学校行事で一度だけ」
「そっかそっか。んじゃ、さっそく中に入ろうか」
一花はそう言うと、入場券を買いに向かう。何故ここに来たのかは分からないが、私も黙って彼女についていった。
「カップルシートなんてあるんだ」
「ん?興味ある?」
「少しだけ」
「なら、今度紫音と一緒に来た時にでも利用するといいよ」
「今日は使わないの?」
「そんな事したらうちが怒られるから勘弁してくれ」
誰に怒られるのかは気になったが、一花はそれ以上話してくれなさそうだったので、私も深く聞こうとはしなかった。
館内に入り席についた私は、一番聞きたかったことを尋ねてみることにした。
「一花。今日は何でプラネタリウムに来たの?」
「特に理由はないよ。何となく来たかったからって感じかな」
「ふーん」
「お、そろそろ始まるみたいだよ」
一花のその言葉を合図に、照明が暗くなっていき、天井には綺麗な星空が浮かび上がる。
そしてアナウンスが入ると、季節ごとの星座について説明がされていくのであった。
それから50分ほどで星座鑑賞が終わると、暗かった照明が明るくなっていき、周りの人も少しずつ帰っていく。
「いやー、結構面白かったね」
「そうだね。季節ごとにいろいろな星座が見られて楽しかった」
「あの説明によれば今は冬に近いし、もう少ししたら冬の星座が見られるのかも」
「でも、この辺は夜でも明かりが多いし、あまり見れないんじゃないかな」
「あー、確かに。ここら辺でまともに星を見たことないもんね」
お互いにプラネタリウムの感想を話しながら、私と一花も外に出る。
「さてと、んじゃ次はお昼でも食べに行こうか」
「いいね。私もお腹すいた」
次の目的地も決まった私たちは、近くの飲食店を調べると、回転寿司のお店があったのでそこに行くことにした。
「寿司を食べるのは久しぶりだね」
「私も。最近はずっと紫音が作ってくれてたし、食べる機会なんてなかった」
私たちはお互いに久しぶりのお寿司ということで、浮かれながら何を食べるか決めていく。
「回転寿司って面白いよね」
「なにが?」
「お寿司屋なのに、ラーメンやケーキもあるから」
「確かに。それに割と美味いしね」
そんな話をしながら、二人で食べたいものを注文しつつ、好きな寿司のネタや学校でのこと、紫音と雅の話などをしていく。
「ふぅ。私はもう大丈夫かな」
「うちも満足かな。…っと、そろそろいい頃かな」
「どうかしたの?」
「いや、お腹もいっぱいになったし、そろそろ帰ろうか」
「わかった」
一花は時間を確認すると、突然帰ろうと言ってきた。急なことで少し違和感を覚えるが、私としてもこの後行きたい場所はとくになかったので従うことにする。
それからしばらく歩いて駅に戻ってきた私たちは、ここで別れることにした。
「よし。うちは別の電車だから、ここでお別れだな」
「そうだね。今日は楽しかった。また遊ぼう」
「うん。それじゃ、また明日学校で」
「ばいばい」
私は一花のことを見送ると、自分も電車に乗ってアパートまで向かうのであった。
電車を降りた私は、暗くなりつつある街中をアパートまで歩いていく。
「ただいま」
アパートに帰ってきた私は、部屋の扉を開けて中に入るが、紫音はまだ帰ってきていないのか部屋の中は真っ暗だった。
私はそのことに少しだけ寂しさを感じながらも部屋の中に入っていくと、突然部屋の明かりがついた。
「白玖乃!お誕生日おめでとう!!」
パンッ!
「え…?」
突然のクラッカーの音と、綺麗に飾り付けされた部屋。
そして、笑顔で出迎えてくれた紫音が私の視界に入ってきたが、情報量が多すぎて処理しきれない。
「たん、じょう…び?」
「うん!今日は白玖乃の誕生日でしょ!」
「…あ」
そういえば、11月7日の今日は私の誕生日だ。最近は紫音のことで頭がいっぱいで、自分の誕生日のことなんてすっかり忘れていた。
「は、白玖乃?!どうして泣いてるの?!」
「…え」
私は紫音に言われて頬を触ってみると、確かに涙が頬を濡らしており、それで自分が泣いていることに気づいた。
紫音が私の誕生日を覚えていてくれたこと、こうしてサプライズで祝ってくれたことが嬉しくて感情が溢れてしまったようだ。
紫音はそんな私を心配してか、私のことを優しく抱きしめてくれた。
しばらくの間、紫音に抱きしめられながら彼女の腕の中で泣いていると、ようやく落ち着くことができた私はお礼を伝える。
「ありがとう、紫音。すごく嬉しい」
「ふふ。よかった!料理とケーキも頑張って作ったから、早く食べよう!」
「うん」
私は紫音に手を引かれながら、料理が並べられたテーブルに向かう。
そこに並べられた料理はいつもよりも豪華で、紫音の気持ちがたくさんこもっているのが感じられる。
「それじゃ、食べようか!」
「うん。いただきます」
その後は、紫音が作ってくれた料理を二人で食べながら、今日一花と出かけた時の話をして楽しい時間を過ごした。
そして、私はこの時に一つの決心をする。
(今日、紫音に告白しよう)
もしかしたら振られてしまうかもしれないし、せっかく誕生日を祝ってくれたのに雰囲気が台無しになるかもしれない。
それでも、この溢れてしまった気持ちをどうしても今日この日に伝えたいと思った。
「あ、あのね、紫音」
「なぁに?」
「前に、聞いて欲しい話があるって言ったの覚えてる?」
「うん」
私が真剣な話をしようとしているのを感じ取ったのか、紫音も真剣な表情で私を見つめ返し頷いてくれた。
「わ、私ね。紫音のことが…」
覚悟を決めたはずなのに、いざ伝えるとなるとなると緊張で胸が痛いくらいにドキドキしてくる。
「紫音のことが、好きなんだ!」
それでも何とか自分の気持ちを伝えることができた私は、目を瞑って紫音の返答を待つ。
すると、突然私の唇に何か柔らかいものが触れる。私は驚いて目を開けてみると、紫音の顔が目の前にあり、私はどうやらキスをされているようだった。
紫音は数秒間私とキスをした後、唇を離して私の方を見つめてくる。
「ありがとう。私も白玖乃のこと好きだよ」
そして、紫音から返ってきたのはとても嬉しい言葉だったが、まだ現実を理解できなかった私は改めて確認をしてしまう。
「ほ、本当に?その、私の好きは友達としてじゃなくて、恋愛的な意味での好きなんだよ?」
「うん。私も友達としてじゃなくて、白玖乃のことが一人の女の子として好きだよ」
紫音はそう言うと、私のことをもう一度抱きしめてくれた。
しかし、そこには先ほどとは違い、私への確かな愛情が感じられた。
「嬉しい。紫音、私すごく…きゃ?!」
すごく幸せだと言おうとした瞬間、私は何故か床に押し倒され、紫音が上に跨っていた。
「し、紫音?」
「私ね。ずっと待ってたんだ。白玖乃が私に告白してくれるの。ずっとずっと我慢してきた。でも、もう我慢しなくて良いんだよね」
紫音はそう言うと、私のことを見下ろしながら舌なめずりをする。
(あ。この視線は…)
紫音が私をみる目は、たまに感じていた肉食獣のような視線と同じで、私のことしか見ていないことがわかる。
(つまり、たまに感じてたあの視線は全部紫音だったってこと?!)
状況を少しずつ理解してきた私は、何とか紫音を落ち着かせるために必死で声をかける。
「ま、待って紫音。まだこうゆうのは早いと思う!まずは手を繋いだりしてから…」
「毎日してるよね」
「あ…。じゃ、じゃあ、一緒に寝たりとか、一緒にお風呂に入るとか、段階を踏んで…」
「全部してるよね?なんならキスもしたし、あと踏むべき段階なんてないと思うけど?」
「うっ…!」
紫音の言う通り、私たちは付き合ってからするべきことをほとんど付き合う前からやってきた。
だから私の言ってることは、何一つ抑止力としての意味をなさない。
「せ、せめてお風呂に入らせて…」
「だめ。ずっと我慢してきたんだから、今さら我慢なんてできないよ。白玖乃、今夜は寝れると思わないでね」
そうして私は、紫音という飢えた獣が満足するまで何度も食べられ続けた。
一つだけ言えることは、この時の紫音は凄かったという事だけだ。
何がとは言わないが、とにかく凄かった。私は多分、この日を生涯忘れることはできないだろう。
だって、この日から私の幸せな日がずっと続いていくのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
まだ完結ではないです。
よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。
『すれ違う双子は近くて遠い』
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