文化祭 その三
文化祭二日目。この日はみんないつもより早めに登校していた。
かくいう私も、いつもより早い時間に紫音に起こされ、眠いのを我慢しながら支度をした。
学校に到着後は、昨日と同じで各自が材料や席の確認などを行なっていく。
昨日の時点で足りないと予想されていた食材も、今朝食堂の方から少しだけ分けてもらったので何とか午前は持ちそうだった。
そして、全員が着替えて準備を終え、実行委員の子がみんなを集めた。
「みなさん!今日が文化祭最終日になります。今日は一般の方も来られるので、昨日より多くの方が来ることが見込まれます。
昨日は材料が足りなくなるという懸念もありましたが、先生と食堂の方たち、そして紫音さんのご家族の協力のもと、何とかなりそうです。
あとは私たちが頑張って接客をして盛り上げるのみ!頑張っていきましょう!」
『おぉー!』
実行委員の子を激励した結果、クラスは一致団結し、昨日以上にみんながやる気を出した。それは紫音も同じで、いつも元気な彼女がさらに元気に腕をあげていた。
そして、文化祭開始の放送が入ると、私たちはそれぞれの持ち場に向かっていき、人がいつ来ても良いように備えるのであった。
文化祭が開始されてから数分で、私たちのクラスはお客さんでいっぱいになった。
どこで聞きつけたのかは分からないが、近くの高校からも女子生徒が多数来ており、みんな執事服組と一緒に写真を撮ったりしていた。
逆にメイド服組は男子生徒から人気があり、そちらも写真を要望されることが何度かあった。
中にはそのまま口説かれる子もいたが、忙しいのでそんなのを相手にする余裕はないのか、やんわりと断っていた。
そんな慌ただしい午前を過ごした私たちは、現在は交代で休憩に入っていた。
「いやー、最初に休憩させてもらったけど、みんな大丈夫かな?」
「大丈夫じゃやいかな?雅と紫音がいれば何とかなりそう」
「あはは。確かに!」
私は今、一花と二人で休憩に入っており、お昼を買うため外を歩いていた。
「それにしても、うちたちのクラスはすごい人気だね。これも紫音や雅さまさまだ」
「それを言うなら一花もでしょ?女の子たちからの人気すごいじゃん」
「たはは。何であんなに人が来るのか分からないけど。まぁ、ありがたいことにね」
笑いながら何故なのかと問う一花だが、それはやはり彼女の人柄によるものだろう。
彼女はいつも明るくて裏表がないため、結構人気がある方だ。
「そういえば、こうして白玖乃と二人で行動するのは初めてかも?」
「そう言われてみるとそうかも。二人で話すことはあっても、どこかに出かけるとかはなかったね」
「だよね。よし!ならせっかくだし、二人でいろいろ見て回ろうか!」
「そうだね。楽しそうだしいいよ」
一花に誘われた私は、お昼を買った後も二人で文化祭を見て回ることにした。
といっても、昨日も一通り見て回ったので特に変わったところはなかったが、それでもかなり楽しむことができた。
そして、時間を確認するとそろそろ交代の時間だったので、私たちは教室に戻ろうとする。
しかし、その途中で突然後ろから女の子に声をかけられた。
「あの、すみません!」
「はい?」
私が振り向くと、そこには紫音と同じで雪のように肌が白く、少し幼さはあるが私たちと同じ年くらいの女の子がいた。
「どうかしましたか?」
「あの、実は行きたいところがありまして。ただ場所がわからないので教えていただきたいのですが」
「わかりました。どこに向かってたんですか?」
「友人が執事兼メイド喫茶をやっておりまして、そちらにいきたいのですが…」
「それなら、ちょうど私たちのクラスですね。一緒に行きますか?」
「ほんとですか?!ぜひお願いします!」
どうやらこの子は、道を尋ねるために声をかけてきたようだった。
そして、何の偶然か目的地は私たちのクラスだったようなので、折角だからと一緒に向かうことにした。
教室に戻ると、だいぶ落ち着いて来てはいたがいまだに人の数は多かった。
紫音は私たちが戻ってきたことに気づくと、声をかけるために近づいてくる。
私も紫音に話しかけようと思い近づこうとした時、後ろから声が聞こえた。
「あ!しーちゃん!」
それは一緒に連れて来た女の子で、最初は誰のことを言っているのか分からなかったが、紫音がその声を聞いた瞬間動きを止めたことで、彼女のことだとすぐに分かった。
「あれ?ゆーちゃん?」
「やっぱりしーちゃんだ!」
紫音はその子のことを見て少し驚いた様子だったが、誰なのかは知っているようだった。
そして、女の子は紫音だと確信を持つと、私たちの横を通り過ぎて紫音のもとへと向かい、勢いよく抱きつく。
「おっと。あぶねぇべ、ゆーちゃん」
「そすたなこといっだっで、しーちゃんさ会えでうれしがったんだもん。しゃーねぇべ?」
その後も紫音と女の子は二人だけで会話を進めていくが、私たちがその様子を見ていたことに気づいたのか、紫音は私たちに説明を始めた。
「あ、ごめんね。この子は
「改めまして、多賀城悠里です。よろしくお願いします」
「もしかして、多賀城さんが会いにきたのって…」
「はい!しーちゃんに会いにきました!」
改めて詳しく話を聞いたところ、どうやら多賀城さんは紫音の幼馴染で、彼女に会うために宮城の学校が休みなのを利用してこちらに遊びにきたらしい。
「紫音、せっかくだし多賀城さんを案内してあげたらどうかしら?ちょうど休憩に入る所だったでしょ?」
「それはありがたいけど、雅は大丈夫?」
「大丈夫よ。多賀城さんも、私も一緒に行っていいかしら?」
「はい!大丈夫です!」
「ありがとう。それじゃあ一花、白玖乃、行ってくるわね」
「二人とも、案内してくれてありがとうございました!」
その言葉を最後に、三人は文化祭を見て回るため教室を出て行った。
残された私と一花は改めて気合を入れると、みんなのもとへと戻っていき接客をしていくのであった。
それから一時間ほど経った頃、紫音たちの休憩が終わり戻ってくる時間になったが、何故か戻ってきたのは雅一人だけだった。
「あれ?紫音は?」
「紫音なら、まだ多賀城さんといろいろ見て回ってるわよ。せっかく幼馴染が来てくれたのだから、もう少し一緒にいてもらおうと思って」
どうやら紫音と多賀城さんは、雅の気遣いによって二人で文化祭を見て回っているようだった。
それから30分ほど経った頃、紫音と多賀城さんは一通り見て回ったのか、楽しそうに話ながら教室の方に戻ってくる。
「あ、白玖乃。ただいま!ごめね、遅くなって」
「ううん。大丈夫だよ。それより…」
私はそれより、二人が腕を組んで戻ってきたことの方がすごく気になる。
幼馴染とは言っていたが、少し距離が近くはないだろうか。
腕を組んだ二人を見た瞬間、私の胸の中にはモヤっとした今まで感じたことのない違和感を覚える。
「どうかした?白玖乃」
「…何でもない。それより、お客さんもまだいるし早くお願い」
「わかった!」
紫音はそう言うと、多賀城さんと組んでいた腕を離し、自分の持ち場へと戻っていく。
多賀城さんは紫音がいなくなると、空いていたテーブルに座ってメニュー表を眺め始めた。
私も何とか気持ちを落ち着かせて接客に戻ろうとするが、さっきの光景が頭から離れず、モヤモヤとした感情だけがずっと残り続けるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『人気者の彼女を私に依存させる話』
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