文化祭 その四

 午後の忙しい時間も終わり、ついに文化祭二日目が終わりを迎えようとしていた。

 この後は後夜祭があり、それが終わると高校生初の文化祭は終了する。


 私たちは後夜祭が始まるまで、出来る限りの片付けをしていく。


「雅、ゴミはどこに捨てればいい?」


「前の方で集めてるみたいだから、そちらにお願い」


 私は言われた通り、黒板の前に置かれたゴミ袋のところへゴミを持っていく。

 すると、そこには紫音と一花もおり、どうやらゴミ袋を捨てに行こうとしているようだった。


「あ、待って紫音。私もゴミ捨てたい」


「りょーかい!今捨てられるようにするから待ってね!」


 紫音はそう言うと、結んでいたゴミ袋をもう一度開き、捨てやすいようにしてくれる。


「ありがと。これからゴミ捨てに行くんだよね?」


「そうだよ!一花と一緒にね!」


「あ、そーいえばうち、雅に呼ばれてたんだ。白玖乃、悪いけど代わってくれる?」


「別にいいけど」


「んじゃ、お願いね!」


 一花はそう言うと、私にゴミ袋を渡して雅の方へと行ってしまった。


「まぁ、とりあえず行こうか!」


「うん」


 こうして、私と紫音はゴミを捨てにいくため、教室を出て指定されたゴミ捨て場へと向かうことになった。





 私と紫音はゴミ袋を持って歩いる途中、気になるものを教室の中に見つけたので近づいてみる。

 そこには、赤い紙で作られた花をいくつも使い、ハート型にしたいかにもカップルが写真を撮りそうな場所があった。


 私たちがここに来たことに気づいたのか、一人の生徒が教室の隅から私たちのもとへと近づいてくる。


「おぉ、これはまた可愛いらしい執事さんとメイドさんだね。よかったら写真、撮っていくかい?今ならタダで撮ってあげるよ?」


「あの…あなたは?」


「これは失敬。私は写真部部長の氷室帷ひむろ とばりだ。どうだい?撮っていくかい?」


「どうする?白玖乃」


「せっかくだし撮りたいかも」


「そうかい!ではさっそく、そこに立ってくれ」


 私たちは氷室先輩の指示に従い、ゴミを部屋の隅に置いた後、先ほど見ていた大きなハートの前に立つ。

 氷室先輩は私たちが位置に着いたのを確認すると、スマホではない本格的なカメラを構える。


「いいね。凄くいい。今日来た子たちの中で一番いいよ!あ、メイドの君、もう少し執事の子に近づいてくれ。…おーけー!では撮るよ!3…2…1…」


カシャ


 その後も、氷室先輩に指示されながら私が後ろから抱きしめられたり、逆に私が抱きしめて上目遣いで見上げたりと、いろいろなポーズで写真を撮っていく。


「ありがとう。すごく良いのが撮れたよ!あとで君たちにも撮った写真をあげようじゃないか。楽しみにしておいてくれ!」


 氷室先輩は最後にそう言うと、私たちから離れていき、また教室の隅っこの方へと戻って行った。


「行こうか、白玖乃」


「そうだね」


 これ以上ここに居ても仕方がないと思った私たちは、またゴミ袋を持ってその場所を離れた。


「あ、そうだ白玖乃」


「なに?」


「今日、ゆーちゃんが止まっていくらしいんだけど大丈夫?」


「…え?」


「ゆーちゃん、新幹線のチケット間違えて明日の分買っちゃったみたいで、急遽泊まるところが必要になったみたいでさ。

 それで、ホテルとか行かせるわけにもいかないから、うちに泊まるように誘ったんだ」


 どうやら今日は、多賀城さんが私たちのアパートに泊まりにくることになったようだ。

 そこで私は、お昼休憩後に二人が腕を組んでいたことを思い出し、また胸がモヤモヤしてくる。


「…わかった。でも、うちってベット一つしかないけど、どうするの?」


「そこなんだよね。最悪、私が床で白玖乃とゆーちゃんがベットかな。でも、いきなり知らない人と一緒は辛いよね」


「茜さんに布団を借りられないから聞いてみる?」


「あ、それいいかも!なら、帰ったらさっそく聞いてみよう!」


 なんとか布団を用意する目処がたったころ、ちょうどゴミ捨て場についた私たちは、持ってきたゴミを捨てると教室に戻った。





 教室に戻ってから15分ほどすると、後夜祭の準備が整ったため体育館に集まるよう放送が入る。

 私たちはいつもの4人で体育館に向かうと、すでに多くの生徒が集まっていたが、なんとか見やすい場所を確保して始まるのを待つ。


「後夜祭って何があるんだっけ?」


「確か最初に生徒会の引き継ぎ、次に軽音部とお笑い同好会が発表して、あとは自主発表だった気がするわ」


 どうやら後夜祭でもいろいろなことをやってくれるようで、始まるのがとても楽しみだ。


「私、ライブとか見るの初めてなんだよね。どんな感じ?」


「そうなんだ。私もちゃんとしたライブには行ったことないけど、軽音部のやつは中学の時にも見たことあるよ。みんなで盛り上がれるから結構楽しい」


「みんなで盛り上がれるのは良いね!すごく楽しみになってきた!」


 紫音はそう言うと、目を子供のように輝かせながらステージを見る。そんな姿が可愛いと思いながら、しばらくの間彼女のこと眺める。

 それから少しすると、後夜祭開始のアナウンスが入り、そこからはとても楽しい時間を過ごすことができた。





 後夜祭が終わり、私と紫音は二人でアパートに向かいながら後夜祭の時のことを話していた。


「軽音部のライブ凄かったね!初めて見たけど、白玖乃が言った通りみんなで盛り上がれて楽しかった!

 でも、最後にギターの子がステージからダイブしてたけど大丈夫だったのかな」


「多分大丈夫じゃないかな。すぐに保健室に運ばれてたし」


 紫音が言う通り、軽音部の演奏はすごく盛り上がった。

 ただ、演奏していた側も興奮しすぎたのか、突然ステージからダイブしてしまい、周りが思わず避けてしまったがために床に受け止められたのだ。


「お笑い同好会も面白かったね!動物をモデルにした弱肉強食ネタ!

 特に、犬を釣るために骨投げたら、仲間のオオカミも釣れちゃったシーンとか可愛かった!」


 私たちはその後も、お互いにあれが面白かったとかここが良かったとかを話しながら歩いていく。


「あ、そうだ。ゆーちゃんに連絡しないと。ちょっとごめんね」


「うん。わかった」


 紫音はそう言うと、私から少しだけ離れて行き電話をする。

 私は彼女が戻ってくるまで、この後のことを考える。


(アパートに戻ったら、まずは茜さんに布団を借りられるか聞かないと。

 ダメだったら他の部屋の子に聞いてみるしかないかな。ご飯は紫音が作ってくれるだろうし、あとは何かあるかな…)


 そこまで考えた時、また二人が腕を組んでいた時のことを思い出すが、頭を振って意識しないようにする。


「ごめん、お待たせ。私、これからゆーちゃんの迎えに行こうと思うけどいいかな」


 電話をした結果、どうやら紫音はこれから多賀城さんの迎えにいくことになったようだ。

 まぁ、どこにアパートがあるのか分からないだろうし当然のことだとは思うので、私は了承した。


 そして、紫音とは一度別れ、私は一人でアパートまで戻った。





 アパートに帰ってきた私は、すぐに茜さんのもとへ向かい、布団を借りられないか相談してみた。

 すると、ちょうど使っていない布団があるらしく、それを貸してもらうことができた。


 私は借りた布団を頑張って部屋まで運ぶと、紫音が帰ってくる前にお風呂の準備や軽く部屋の片付けなどを済ませる。


 一通り終わった頃、ちょうど紫音と多賀城さんが帰ってきたので、私は出迎えるために玄関まで向かった。


「あ、白玖乃!ただいま!」


「橘さん。今日はよろしくお願いします!」


 帰ってきた紫音たちは、今度は手を繋いでおり、それを見ただけで胸がざわめく。

 しかし、それが表情に出ないように耐えながら、なんとか言葉を返す。


「う、うん。よろしく」


 その後は紫音がご飯を作り、多賀城さんから昔の紫音の話を聞いたりと楽しい時間を過ごすことができた。


 そしてこの日私は、ようやく自分の気持ちに気づくことができる運命的な機会を得ることが出来たのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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