文化祭 その一

 翌日。目が覚めると、その日は朝から紫音が落ち着かなく動き回っていた。

 おそらく、文化祭当日になった事で余計不安になったのだろう。


 私はベットから降りると、そんな彼女に近づいてそっと後ろから抱きしめる。

 どうやら私が起きた事にも気づいていなかったようで、彼女は少し驚いたようだった。


「な、なじょした?白玖乃」


「落ち着いて、紫音。昨日もあったけど、紫音の料理は美味しい。人もちゃんと来てくれるから安心して」


 私がそう言うと、紫音もようやく落ち着いたのか、一度深呼吸をすると私の方を向いて抱きしめ返してくれた。


「ありがと、白玖乃。おかげで少し落ち着けた」


「ううん。気にしなくていいよ。それより、早く朝ごはん食べよ?」


「そうだね!あと少しでできるから、座ってまってて!」


 紫音はいつもの明るい笑顔で笑うと、また朝食の準備に戻った。

 私は洗面所で顔を洗ったあと、紫音に言われた通りテーブルの前に腰を下ろして彼女が来るのを待つのであった。





 教室に着くと、クラスメイトたちはほとんど揃っており、文化祭に向けての最終確認を行なっていた。

 私たちもすぐにみんなのもとへと向かい、最終確認の手伝いをしていく。


「おはよ、一花。私たちも手伝うから何したらいいか教えて」


「あ、おはよ白玖乃、紫音さん。じゃあ、雅が食材の数を確認しているから、そっちを手伝ってきてもらえる?」


「わかった。行こう、紫音」


「うん!」


 一花に言われた通り食材を置いている場所に向かうと、雅たちが数の確認を行なっていた。


「雅、おはよ。一花にこっちを手伝うように言われたんだけど、何をしたらいい?」


「あら。おはよ、二人とも。なら、そっちにあるポテトが足りてるか確認してもらえる?」


「任せて」


 私はそう言うと、紫音を連れて二人でポテトの数がちゃんとあるか確認していき、問題がなかったので雅に報告をしに戻る。


「雅、大丈夫だったよ」


「ありがとう。他も問題ないようだし、一花たちのもとへ戻りましょうか」


 雅が最終確認を行い、こちらにはとくに問題がなかったので、報告も兼ねて一花のいる場所へと戻ることにした。


「一花、食材の方には問題なかったわよ。こっちはどう?」


 一花たちは現在、テーブルの配置や飾り付けの確認を行なっており、埃などがないかの確認も行なっていた。


「こっちも問題ないよ」


「じゃあ、あとは着替えて準備をするだけね」


 どうやら一花の方も問題は無かったようで、あとは着替えて文化祭が始まるのを待てばいいだけのようだ。

 なので、私たちは衣装係の子の指示に従い各々用意された衣装へと着替えていく。





 最初に着替え終わったのはメイド組の私たちで、私と雅はお互いの姿を見て感想を言い合う。


「可愛いわね、白玖乃。結構似合ってるわよ」


「ありがとう。雅もよく似合ってる」


 今私たちが来ているメイド服は、スカートの丈が長いクラシックなタイプのメイド服だ。

 最初は丈が短いメイド服という案もあったのだが、衣装係の子が謎のこだわりを見せたため、このメイド服に決まった。


「キャー!」


「やばいやばい!すごくかっこよくない?!」


 しばらくお互いのメイド服や紫音たちの執事服について話をしていると、突然クラスの女子たちがざわめきだす。


「どうやら来たみたいね。私たちも見に行きましょうか」


「うん」


 私は雅に連れられて、クラスメイト達が集まっている場所へと向かう。するとそこには、執事服をきっちりと着こなし、髪を後ろで一本にまとめた紫音の姿があった。


(か、かっこよすぎる…)


 そんな紫音の姿を見た私は、思わず胸が高鳴り顔が熱をもつ。

 あまりのかっこよさに見惚れてしまった私は、その場から一歩も動くことができなかった。


 そんな私を見かねてか、雅が私の背中をそっと押す。


「ほら、行ってきなさい」


 私が紫音に向かって歩き出すと、さっきまで集まっていた人たちが横にずれてくれて、紫音までの道を作ってくれた。


「あ!はく…の…」


 紫音は私の方を見ると、いつものように笑いながら動きを止める。

 私は不思議に思いながらも彼女に近づいていき声をかけた。


「紫音。どうしたの?」


「い、いや。あまりにも可愛すぎて見惚れちゃった」


 そう言って照れながら笑う彼女は、これまで見たことがないほど顔が赤く、その言葉が本心からくるものだとすぐに分かった。


 私はそんな紫音の反応が嬉しくて、彼女のことも褒める。


「ありかと。紫音も凄くかっこいいよ」


「えへへ、ありがと。あ、そうだ!せっかくだし写真撮ろうか!」


「そう言うことならうちが撮ってあげるよ」


「ありがと!」


 紫音が一花にスマホを渡すと、彼女は私の方に寄ってくる。


「ポーズはどうしようか」


「普通でいいんじゃない?」


「はい!では、ポーズのリクエストをしてもいいですか?!」


 ポーズのことで話し合っていると、衣装係の子が手を挙げてリクエストをしていいかと尋ねてくる。


 私たちは特に決まっていなかったので、彼女の提案に乗ってお任せする事にした。


「では!まずは白玖乃さんは壁を背にして立ってください!

 次に、紫音さんは壁に肘をついて体を白玖乃さんに寄せてください!

 そして、白玖乃さんの足の間に紫音さんの片足を挟み込むようにして入れていただき、白玖乃さんは紫音さんの腰に腕を回して抱き寄せるようにお願いします!…はい!そんな感じで大丈夫です!」


 そうして出来たのは、いつも以上に紫音の顔が近くにあるという状況だった。


(これ、少し動いただけで紫音の唇に触れちゃいそう…)


 今の紫音は執事服なので、いつも以上に男の子っぽいかっこよさがあってドキドキしてしまう。


「やばい。凄く尊い」


「早く写真撮らないと!」


「あとで私も一緒に撮ってもらおう」


「一花さんと紫音さんバージョンもぜひ欲しいわね!」


 何やら周りが色々と言っている気がするが、今は紫音のことで頭がいっぱいいっぱいでそれどころではない。


「それじゃ、撮るよー。はい、チーズ」


 一花の合図で一気にシャッター音がいくつもなる。どうやら一花だけでなく、他の子たちも私たちの写真を撮っているようだった。


 それからしばらくの間その状態で写真を撮られていると、みんな撮り終わったのか、衣装係の子がもう離れて大丈夫だと言ってきた。


 私が紫音の腰に回していた腕を離し、紫音が私から体を離すと、今度は紫音と一花が写真を撮る事になった。

 周りの子たちはさっき以上に盛り上がり、中には泣きながら連写する子までいた。


 私はその輪からなんとか抜け出して雅のもとへ戻ると、彼女が声をかけてくれる。


「お疲れ様。どうだった?」


「凄く良かった。あとドキドキが止まらなかったよ」


「ふふ。確かに今の紫音にあれだけ近づかれたら誰だってドキドキしそうね」


「雅でも?」


「さぁ。私はどうかしらね。とくに意識したことないから分からないわ」


 そう言いながら、未だいろいろなポーズで写真を撮られている紫音と一花のことを二人で眺める。


「あ、そうだ白玖乃。私たちも写真を撮りましょうか」


「ん。いいよ」


 私が了承すると、雅は私の方に体を寄せて自身のスマホで写真を撮る。


「うん。よく撮れたわね。あとで白玖乃にも

送ってあげるわ」


「ありがと」


「それじゃ、そろそろあの子たちを止めに行かないとね。あと少しで文化祭が始まってしまうもの」


 雅はそういうと、クラスメイトたちが集まっている場所へと向かっていき、実行委員の子や他の子たちに文化祭が始まりそうだと説明していく。


 私も残りの準備を済ませようと思った時、後ろから紫音に声をかけたので振り向くと、スマホを私の方に向けた彼女がいた。


カシャ


「可愛いから撮っちゃった」


 そう言って照れながら笑う紫音は可愛かったが、私だけ勝手に写真を撮られるのは腑に落ちないので、私もスマホを取り出して彼女の写真を撮る。


「お返し。私も紫音の写真撮ったからね」


「え?!まって、今絶対変な顔してたし撮り直して!」


「やだ。ずっと大切にするからね」


「うぅ。ならせめて二人で撮り直そ」


「それならいいよ」


 私が了承すると、紫音は私に近づいてきて隣に並ぶと、スマホを取り出してカメラに切り替える。


 写真を撮り終わると、紫音は満足げな顔をしながら私の方を見る。


「今日は頑張ろうね」


「うん。頑張ろう」


 私たちが今日の文化祭に向けて改めて気合を入れるのと同時に、文化祭の始まりを告げる放送があり、いよいよ文化祭が始まった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

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