文化祭に向けて
夏休みが明けてから数日が経ち、9月になった。今月は文化祭という一大イベントが待っており、現在私たちはそれに向けて何をするかを話し合っていた。
「それでは、クラスの出し物として文化祭で何をやるか話し合っていきたいと思います。
なお、文化祭は二日間行われ、一日目は生徒のみ、二日目は一般の人を向かいれて行われます。
二日目は学校紹介も踏まえているので、多くの人に楽しんでもらえるものを提案してください。それでは、何か案のある人は挙手をお願いします」
文化祭実行委員の子が説明を終えると、何人かが手を挙げてやりたい事を述べていく。
お化け屋敷やメイド喫茶、演劇など定番のものから、執事喫茶や自作映画の視聴会、ゲーム場など面白そうなのもいくつか上がる。
「では、まずメイド喫茶についてですが、こちらは保留にします。
女子校でメイド喫茶をやっても需要があるか分かりませんが、二日目にはもしかしたらお客さんもくる可能性があるので。
次に自作映画ですが、面白そうではありますが時間がありません。同様の理由で演劇も無しです。残すはお化け屋敷とゲーム場ですが…ゲーム場ってなに?」
そこまで張り切って話していた実行委員が、本当に理解できなかったのか素で聞き返してくる。
すると、ゲーム場を提案したらしき子が立ち上がり、ゲーム場についてのプレゼンが始まった。
「ゲーム場についてですが、視聴覚室からテレビをいくつかお借りして、ゲーム大会を行うというものです!
事前に出場者を募り、トーナメント形式で勝負を行って優勝した人には賞品をあげます!」
「なるほど、面白そうではあるね。ちなみに、競うゲームは?」
「最近コースが新しく追加されたマ○カーです」
「でもそうなると、コントローラーの数とか足りなくない?」
「大丈夫です。そこは私にお任せください!」
「ふむふむ。とりあえず保留にしよう」
どうやらゲーム場は熱烈なプレゼンにより保留となったようだ。
「次にお化け屋敷についてですが、こちら場所的問題と準備時間の無さ、そして担任の桜井先生が大のお化け嫌いという事で却下になりました」
お化け屋敷はまさかの先生による全力拒否で却下される。
「最後に執事喫茶についてですが、こちらの立案者の方、説明をお願いします」
「はい。私が提案しました執事喫茶についてご説明いたします。
執事喫茶とは、簡単に言って仕舞えばメイド喫茶の逆バージョンです。接客をする私たちが男装をしてお客様たちをもてなします。
そして、ご要望があった場合には甘く囁くなどのサービスもオプションとして付けるというものです」
「なるほど。女子校だからこそ男装をして接客をすると。面白そうだけど、甘く囁くとか恥ずかしくない?」
実行委員のその一言に同意する声は割と多く、このままいけば執事喫茶は却下され、ゲーム場が出し物として決まる。
そう確信させる雰囲気が出始めたそんな時だった。立案者の発した次の一言に、場の雰囲気が覆されたのは。
「紫音さんの男装…」
それだけで、先ほどまで恥ずかしいとか言っていた人たちが一気に静まり返る。
確かに、少し高めの身長にすらりと伸びた長い手足。肩あたりで切り揃えられた髪を一本にまとめれば、男装した紫音はかなりかっこよくて映えることだろう。
「執事喫茶にしよう。ただ、全員が男装というのも華がないので、メイドと執事を半々ということでどうだろう」
終いには、実行委員の子が多数決を取る前に執事喫茶に決めようとする。
「仕方ありません。紫音さんの男装のためなら、ゲーム場を諦めるのもやむなし」
ゲーム場を立案した子も、もはや口調を変えながら紫音の男装の前に屈した。
こうして、私たちの文化祭での出し物は、満場一致−1で執事喫茶兼メイド喫茶に決まった。
なお、当事者の紫音は周りの展開についていけず、無投票となった。
お昼休みになり、私と紫音、一花と雅の四人は、いつものようにお昼を食べていた。
「それにしても、まさか紫音さんの男装が決め手で出し物が決まるとは思わなかった」
「ほんとうだよ。私が男装したってそんなに需要ないと思うのに…。それよりゲーム場がやりたかった」
「あら、私は良いと思うわよ?紫音の男装、すごく似合うと思うわ。ね、白玖乃」
「うん。絶対似合う。一緒に写真撮ろうね」
私が瞳を輝かせながらそう言うと、紫音は観念したように溜息を吐き苦笑する。
「まぁ、もう決まったことだし仕方ないか。それに、一花も道連れにできたし」
紫音の言う通り、実は一花も執事役をすることになったのだ。こちらも同じクラスの子たちからの希望で決められたため、一花に拒否権はなかった。
逆に私と雅はメイド服を着ることが決まったわけだが、雅に関していえばメイドというよりお嬢様の方が似合いそうな気もする。
ただ、本人は割と乗り気だったのでそんなことを言うのは野暮だろう。
文化祭での出し物が決まった次の日から、私たちは準備のために忙しい日々を送るようになった。
執事やメイドの格好をするとはいえ、基本は喫茶店なので飲み物や軽い食べ物も用意しなければならない。
飲み物は無難にオレンジジュースやグレープジュースで、食べ物は料理やオムライスやポテトを提供する予定だ。
最初、料理を出すのは材料費の問題により難しいのではという話にもなったのだが、紫音が野菜やお米を実家から送ってもうことを提案してくれたので、何とか提供する見込みが立ったのだ。
そして、私たちは今日、執事服やメイド服のための採寸をする予定となっており、放課後の教室に残っていた。
「それじゃあ、まずはメイド組の子から図っていくね」
衣装を担当してくれている子がそういうと、メンド組の子を集めて一人ずつ図っていく。
「それじゃ、次は橘さんね」
私もみんなと同じように採寸を図ってもらうと、胸が少しだけ大きくなっていた。
私はそれが嬉しくて、あとで紫音に報告することに決める。
「それじゃ、次は執事組を図るから集まってくださーい」
その声を合図に、今度は紫音と一花たちが採寸を図りに集まっていき、しばらく経つと紫音の番になる。
「それじゃ、紫音さんはっと……え?」
紫音の採寸をしていた子が、バストを図ると同時に動きを止める。
「あの、紫音さんって、結構大きいんだね」
「そう?ちなみにどれくらいだった?」
彼女がそう尋ねると、さすがに周りに人がいる状況では言いづらかったのか、耳元に口を寄せて小声で伝える。
「え?!また大きくなってる…。だから最近キツかったんだ…」
採寸をしてくれた子が具体的な数字を隠してはくれたが、紫音の大きくなった発言でほぼ台無しになってしまった。
(よし。自慢するのはやめよう。惨めになるだけだ)
私は残酷な現実にうちひしがれ、急にさっきまでの自分が惨めに思えて来たので、何も無かったことにした。
その後、私の精神的ダメージ以外は何事もなく進み、無事に全員分の採寸を終えることができたのであった。
それから二週間の間、机の配置や教室の飾り付け、料理の作り方などをみんなで考えて少しずつ準備を進めていき、ようやく明日から文化祭が始まる。
「はぁ。いよいよ明日かぁ。お客さん来てくれるかな?」
「大丈夫だよ。紫音がいるから必ずくる」
「流石にそれはねぇべ」
私と紫音は現在、アパートの部屋で私が紫音に抱きしめられながらそんな話をしていた。
紫音はそんな事ないと言うが、実は紫音には密かにファンクラブが出来ている。
というのも、球技大会のあったあの日、あまりにも活躍しすぎた紫音はその容姿も相まって、一躍有名人となった。
その結果、紫音ファンクラブなるものが出来上がり鋭意活動中なので、おそらくその子たちが情報を聞きつけてやってくるだろう。
ちなみにだが、私もそのファンクラブには所属しているが、何故か名誉会長の座をいただいており、会員番号も0番だ。
「うぅー。料理美味しくないとか言われたらどうしよう…」
「心配しすぎ。紫音の料理は美味しいから大丈夫。クラスのみんなも美味しいって言ってたでしょ?」
「でも、やっぱり不安なものは不安だよ」
料理のレシピについては、紫音がみんなに教えており、実際に紫音が作ったものを試食もしている。
それはみんなからの評価も高く、また紫音が運動だけでなく料理も得意な事を知り、スパダリと呼ぶ人までいた。
その後も何かと不安がる紫音をなんとか寝かしつけた私は、明日が楽しみだと思いながら自分もベットに横になり、すぐに眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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『人気者の彼女を私に依存させる話』
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