久しぶり

 家を出た後アパートに帰ってきた私は、まず最初に鍵を受け取るため、茜さんのもとへ向かった。

 茜さんは管理人室の近くいある受付に座っており、今日も暑さでぐったりしていた。


「茜さーん、ただいま戻りました」


「あら、白玖乃ちゃん。おかえりなさい。久しぶりの実家はどうだった?」


「すごく落ち着きました。今まで実家での生活が当たり前すぎて気付きませんでしたが、家族の温かみを知ることができました」


「おぉ~、素晴らしい回答ね。私も初めて帰省した時はそう感じたわ。

 家事をすべて親に任せてだらけることのできるありがたさを知ることができたのよね。今じゃあ、すべてを一人でやらないといけないから大変だわ」


 理由が私と違う気もするが、確かに家事を一人ですることの大変さを知ることはできたので、そういった点では母親の大変さを知るいい機会となった。


「それで茜さん。紫音はもう帰ってきていますか?」


「紫音ちゃんはまだ帰ってきていないわね。なので……はい。部屋の鍵よ」


「ありがとうございます。それじゃ、私は部屋に行きますね」


「えぇ。疲れただろうし、お部屋でゆっくり休むといいわね」


「はい。では失礼します」


 茜さんへの挨拶を済ませた私は、階段を上って自分の部屋に向かう。

 鍵を開けて中に入ると、そこには一週間しか離れていなかったにも関わらず、懐かしく感じる私と紫音の部屋がある。


「一週間しか離れてなかったのに、なんだかすごく久しぶりな気がする」


 私はそんなことを考えながら荷物を床に置き整理した後、紫音が帰ってくるまで部屋の掃除をすることにした。

 窓際やテーブルを拭いたり掃除機をかけたりと少しずつ部屋の掃除を進めていく。


(早く紫音帰ってこないかな。私が掃除したって言ったら褒めてくれるかな)


 紫音に早く会いたいという気持ちを抑えながら、黙々と掃除をしていく。

 そして一通りの掃除が終わり、一休みしようとしたとき、玄関のドアをノックする音が聞こえた。


コンコンコン


 私は急いで玄関の方に向かって行きドアを開けると、そこにはずっと会いたかった紫音がいた。


「ただいま、白玖乃!」


「…おかえり、紫音」


 久しぶりに会った彼女は前と変わらず明るい笑顔で私に微笑みかけてくれた。私はそれが嬉しくて、思わず紫音に抱き着く。


「おっと。…どうしたの?白玖乃」


「紫音。私、会えなくて寂しかった」


「そっか。私も白玖乃に会えなくて寂しかったよ」


 紫音はそう言うと、私のことを優しく抱きしめてくれる。しばらくの間抱きしめあった私たちだが、紫音がまだ荷物を降ろしていないことに気付いた私は、慌てて彼女から離れた。


「ご、ごめん。荷物持ったままで辛かったよね」


「ううん。嬉しかったから大丈夫!」


 紫音は嬉しそうに笑った後、靴を脱いで部屋の中に入った。


「わぁ!部屋が掃除してある!」


「私が掃除したよ。紫音が帰ってくるまで暇だったから」


「ありがとう白玖乃!すごく綺麗に掃除できてるよ!」


 その後、紫音も荷物の整理を済ませると、私たちは夕食を作るまでまったりと過ごした。





 夕食を食べ終えた私たちは、いつものようにくっついて各々の好きなことをして過ごしていた。

 私は紫音の足の間に座って漫画を読み、紫音はベットに寄りかかりながらスマホを使っている。

 すると、ベットに寄りかかっていたはずの紫音が、突然私の方に体を寄せてきてスマホを持っている手を前に出してきた。

 私はその行動の意味が分からずスマホの方を見てみると、「カシャ」っとシャッター音が鳴った。


「へへ。白玖乃と一緒の写真撮っちゃった」


「突然どうしたの?」


「スマホのロック画面を変えようかなって思ってね。せっかくだから白玖乃との写真がいいなって」


「なら、せめて声をかけてからにして。変な顔してたらやだし」


「大丈夫だよ!白玖乃はいつも可愛いから気にしないで!」


「そういうわけにはいかない。ちゃんとするからもう一回撮ろう。あと私にも送って」


 紫音は撮った写真をスマホのロック画面にするといった。つまり、今撮った写真を常に見るということになる。

 どうせ見られることになるなら、できるだけ可愛く写った私を見てほしかったので、撮り直しを提案する。

 ついでに撮った写真を私にも送ってもらい、私もその写真をロック画面にするつもりだ。


「わかった。じゃあ撮るよ…。はい、チーズ」


 そうして撮った写真はお互いに満足のいくものだったので、その写真を私にも送ってもらい、ロック画面その写真に変更した。


(また一つ宝物ができた)


 これまでは、紫音に気付かれないようにこっそり撮った写真しかなかったが、今回のは初めて二人で撮った写真なので、ずっと大切にしようと心に決めた。

 その後は久しぶりに一緒にお風呂に入り、これまでの寂しさを埋めるかのように抱きしめあいながら眠りについた。





 アパートに帰ってきてから二日後。私はいつものように紫音に起こされて目を覚ます。


「起きて、白玖乃。今日から学校なんだからそろそろ起きないとダメだよ」


「…はぃ」


 私は目を擦りながら起き上がると、ベットから降りて洗面所に向かい、顔を洗った後はテーブルついて紫音と一緒に朝食を食べる。


「じゃあ、私は食器とか洗うから、白玖乃は学校にいく準備をしてね」


「私も手伝うよ」


「大丈夫だよ、すぐに終わるから。それより、白玖乃はまだ制服にすら着替えてないんだから早く着替えてね」


「わかった」


 私も紫音と一緒に皿洗いをしようと思ったが、彼女の言う通り私はまだ制服にすら着替えておらず、このままでは遅刻してしまうので急いで着替えることにする。


 準備が終わる頃には紫音も皿洗いなどを済ませており、あとは私と一緒に学校に向かうだけのようだった。


「お待たせ」


「大丈夫。それじゃあ行こうか」


 部屋を出た後、鍵を茜さんに預けた私たちは、手を繋ぎながら学校に向かった。





 私たちが教室に着くとほとんどのクラスメイトが揃っており、一花と雅もすでに登校して二人で話していた。


「おはよ、二人とも!」


「あ、紫音さんと白玖乃、久しぶり!」


「おはよう、二人とも。ちゃんと遅刻せずに来れたのね」


「紫音が起こしてくれるから大丈夫」


 二人に会うのは二週間ぶりくらいになるが、変わりがないようでよかった。

 いや、一人だけ外見が変わった者がいる。


「一花、その肌どうしたの」


「いやー、実家に帰ったあとハワイに家族で旅行に行ったんだけど、その時に日焼けしちゃったんだよね。あはは」


 笑ながら話す一花は、二週間前とは違って小麦色に日焼けしており、とても健康的に見える。

 その後も私たちは、各々が実家に帰った時の話をして朝の時間を過ごす。

 それからしばらくするとチャイムが鳴り、桜井先生が教室に入ってきたので自分たちの席に戻った。


「皆さん、おはようございます。夏休み明けの初日ですが、遅刻や欠席者がいなくて安心しました。本日の予定についてですが、この後は体育館の方で集会を行います。

 

 その後は通常通り授業がありますので、夏休み明けではありますが気を引き締めて頑張ってください。それでは、体育館の方に移動するので準備をお願いします」


 桜井先生が説明を終えると、私たちは席を立って廊下を歩き体育館に向かう。


 集会は意外とすぐに終わり、教室に戻ってきた私たちは小休憩をしていると、一花が集会の時の話をしてきた。


「うちの校長は話が短くて助かるね」


「そうね。ダラダラと無意味なことを話されるより、要点だけを話してくれたほうが楽でいいわね」


「雅って結構辛辣なんだね」


「そうかしら?普通だと思うけれど」


 紫音が雅のことを辛辣と言ったが、雅は特に気にした様子もなく普通だと言う。

 私としても、無駄に長い話を聞かされるよりは短く済ませてくれた方がいいので、雅の意見に同意である。


 その後は通常通り授業を行い、課題の提出や今後の授業の進め方などの説明を受けてその日は終わりとなった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければ同時連載しているこちらの作品もお願いします。



『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る