花火と実家

 雅から私たちのことについてアドバイスをもらった後、近くの屋台でりんご飴買って紫音と一花のもとへと戻った。


「おかえり!何買ってきたの?」


「りんご飴よ。幼い頃から好きなのよね」


「へー、意外だね。あまりそういうのを食べてるイメージなかったな」


「一花、私だって普通に食べるわよ?」


 そんな話をしながら買ってきた物を食べ始めた私たちは、各々で先ほどまでの話をする。


「白玖乃、雅に何か言われたの?」


「ん?なんで?」


「戻ってきてから少し悩んだ表情してるから」


「少しアドバイスを貰っただけがから大丈夫だよ」


「何かあったら手伝うから言ってね?」


「ありがと」


 しばらく話していると、アナウンスが聞こえてきたので空を見てみる。すると、夜空にはとても綺麗な花火が打ち上がる。

 今日は雲一つない綺麗な夜空なため、花火がよく見えた。


 私は花火の綺麗さに見惚れていると、横から肩を叩かれたのでそちらを見てみる。

 すると紫音が私の方を見て何かを言っているようだが、花火の音が大きいためよく聞こえなかった。


 紫音は私の雰囲気を感じ取ってか、耳の方に唇を寄せてくると、聞こえるように話し始めた。


「花火綺麗だね!白玖乃!」


 彼女の吐息が耳に当たって少しくすぐったいが、そう言った紫音は子供のように瞳を輝かせており、見ていて微笑ましくなる。

 だから私も彼女の耳に唇を寄せて、「そうだね」と返して、花火を見上げる紫音を見つめる。


(花火も綺麗だけど、それに彩られた紫音の方がもっと綺麗だな…)


 そんな事を無意識に思ってしまうあたり、私は少なからず紫音のことを恋愛対象として意識しているのだろう。

 しかし、まだ自信をもって好きだと言えるほどではないし、やはり気持ちを伝えたことで今の関係が壊れるかも知らないという恐怖の方が勝ってしまい、伝えようとも思わない。


 それに、紫音は私のことを気にかけてくれるし大切に扱ってはくれているが、それが友人としてなのか、私と同じで恋愛対象として見てくれているからなのか分からない。

 なので、しばらくは自分の気持ちと向き合いながら様子を見ようと思う。


 私たちはその後、空を綺麗に彩る花火を最後まで楽しむと祭り会場を後にし、一花と雅は寮へと帰り、私と紫音はアパートへと帰った。





 アパートに帰宅後、紫音は私の浴衣を脱がしながら今日のことを聞いてきた。


「白玖乃、今日は楽しめた?」


「うん。すごく楽しかったよ。紫音はどうだった?」


「私もすごく楽しかったよ!地元のお祭りとは規模も人の数も違うから驚いたけど、白玖乃たちと一緒だったから最後まで楽しめた!」


 そう言って笑う紫音の笑顔はとても綺麗で、私の胸を高鳴らせる。


「よかった。私も紫音がいたからすごく楽しかったよ」


 お互いにお祭りの時の感想を言い合った私たちは、その後一緒にお風呂に入り、いつものように二人で眠りについた。





 お祭りに行った日から一週間後、私と紫音はお互いの実家に帰る日が来たので、最寄駅で立ち話をしていた。


「それじゃあ、白玖乃。気をつけて帰ってね」


「ありがと。紫音も遠いと思うけど気をつけて」


「うん!」


 私は電車で帰るが、紫音は新幹線で帰るらしいので、ここでしばしのお別れとなる。


「白玖乃、ちょっと来て」


 紫音にそう言われた私は、どうしたのだろうかと不思議に思いながら彼女に近づくと、突然抱きしめられた。


「どうしたの?」


「しばらく会えなくなるから、白玖乃を充電してる」


 充電というのはよく分からないが、確かに一週間も離れるのは初めてのことなので、彼女も寂しいのだろうと思い、私も抱きしめ返す。


「寂しくなったら連絡するから、無視しないでね?」


「紫音からならすぐに返すから安心して」


 最後にそう約束をした私たちは、どちらからともなく腰に回していた腕を離す。


「それじゃ、元気で」


「うん。白玖乃もね」


 その言葉を最後に、私たちは各々の実家への帰路についた。





 私が実家に帰ってきてから3日が経った。この3日間は家事の手伝いや学校、アパートでのことなどを聞かれてなかなか落ち着くことができず、忙しい日々を送っていた。


 どうやらそれは紫音も同じようで、この数日間、彼女から連絡が来ることはなかった。

 しかし、家でのことが一段落し夜になると、いつも近くにいる紫音がいない事に少し寂しさを感じる。


 でも、紫音から連絡がないという事は彼女も忙しいという事だろうし、なにより久しぶりに家族と会えたのに、私から連絡をして邪魔はしたくない。


 だから私は、紫音と一緒に撮った写真や球技大会の時にこっそり撮った紫音の写真を見て寂しさを紛らわせる。


 すると、突然スマホに電話がかかってきたので誰からなのかと確認すると、ちょうど紫音からだった。

 私がすぐに電話に出ると、ここしばらく聞いていなかった紫音の声が聞こえてきた。


『もしもし、白玖乃?今大丈夫?』


「紫音、大丈夫だよ。どうしたの?」


『白玖乃の声が聞きたくなってさ。電話かけちゃった』


「そうなんだ。そっちはどう?」


『凄く楽しいよ!みんなも元気だし、安心した!…でも、白玖乃がいないから少し寂しいかな』


「私も紫音がいないと寂しいよ」


 それからどれ程話したかは分からないが、私たちはお互いのここ数日間のことを話したり、家族のことを話したりと楽しい時間を過ごした。


『あ、そろそろ戻らないと』


「わかった。またいつでも連絡してきていいからね」


『うん。…ねぇ、白玖乃』


「なに?」


『いつか、私の家に遊びに来てね。こっちは田舎だから周りに何もないけど、星とか綺麗だし、家族に白玖乃の話をしたら会いたいって言ってたからさ』


「わかった。機会があれば行ってみようかな」


『うん。それじゃ、また今度話そう!おやすみ!』


「おやすみ」


 電話を終えた私には、さっきまで感じていた寂しさなどはなく、耳元で紫音の声を聞き続けたことへの恥ずかしさとドキドキ感で胸がいっぱいだった。


(紫音の声を耳元で聞き続けるなんてこと、これまでなかったから凄くドキドキした。ちゃんといつも通りできてたかな)


 ちゃんといつも通り話せたか少し不安ではあったが、それよりも久しぶりに紫音と話せたことへの幸せな気持ちが勝り、すぐに気にならなくなった。





 その後、残りの実家での生活もまったりと過ごすことができ、たまに紫音と話をしながら実家を満喫することができた。


 気付けば実家での一週間もあっという間に過ぎ、今日はアパートに戻る日だ。


「白玖乃、体調には気をつけるのよ?それと、同室の紫音ちゃんにはあまり迷惑をかけないようにするのと、機会があればうちに連れてきなさい」


 紫音のことはこの一週間で両親にかなり話したので、凄く気に入られたようだ。

 母親なんて、ぜひ会いたいから連れてくるようにと言い出す程である。


「わかった。紫音にも相談してみる」


「絶対に連れてくるのよ!あなたもついでに帰って来て良いから!」


「私がついでなんだ。まぁ、わかった。今度帰る時は声をかけてみるね」


「よろしくお願いね。あと、白玖乃。体調や怪我に気をつけて生活しなさいね?何かあればすぐに連絡するように。それじゃ、行ってきなさい」


「ありがと。行ってきます」


 私は両親に見送られながら家を出ると、アパートに戻るため歩き出した。

 家族とまた離れることは寂しいが、アパートに戻れば紫音がいるし、学校が始まれば一花や雅もいるので、彼女たちに会えることを楽しみにして気持ちを切り替えるのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

あけましておめでとうございます!


 本年も『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』『人気者の彼女を私に依存させる話』をよろしくお願いします😄


 実は昨日更新しようと思ったんですが、時間があまりなく書くことができませんでした。申し訳ありません。


 今後も私の都合により更新が遅れる可能性もありますが、必ず完結はさせますのでご安心ください!


 みなさんも良いお年をお過ごしください😆




『人気者の彼女を私に依存させる話』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649790698661

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る