第50話 魔力回路の破損

 それで今はトランシーバーをデュラはんに繋いで使っている。『スピリッツ・アイ』を仕えばデュラはんの頭に魔石ができちゃうから、魔力を消費しないといけないことはいけないんだけど、こんな使い方、大丈夫なのかな……。

「それより次や! 次行こ!」

「そうだね。イレヌルタ殿。次はあちらの方向に20キロ行ったところです。詳細地点については近くになりましたらお知らせします」

 ギャウゥ。

 僕はイレヌルタ殿によじ登りその首にしがみつく。同時に周囲に複数の風の塊が発生し、次の瞬間あっという間にはるか上空に飛び出した。温度は急激に下がりパリパリと周囲に霜が出来て剥がれ落ちる音がして、僕はなんだかクラクラして目が回りそうになる。なんだか鼻血が出そうで見える世界が薄赤い。

 ふと気がつくと地面は遥かに遠く、左右を見渡すとこの領域を囲むように領域と領域の境目となる赤と緑の境界が見えた。アストラル山の山頂自体も随分下に見えている。なんだか大きなフジツボみたいだ。そしてさっき飛び立ったところがなんだかじわじわと水が染みたように、少しだけ色が変わっていた。

 その景色も遠ざかり、すでに次のポイントにほど近いところにいると気づいて急いで計測機器を確認して場所を指示する。

 驚くほどの速さ。僕らが数時間かけて移動する距離が秒単位だ。

 龍と戦うとか無理だよね、うん。

 それでなんで僕が空を飛んでいるのかは数時間前に遡る。


「ぬるたん、俺とコレドを載せて空飛んで」

「何故だ」

「なんで僕?」

 何故かハモった。

 そもそもデュラはんの『スピリッツ・アイ』で何故か魔力回路が破損した。そこから漏れる魔力を放置すると、竜が次々襲ってくる。だからその破損を修復しなければならない。そして修復は魔女様しかできないから、魔女様の封印を解かなければならない。けれども魔女様の封印を解けば魔女様と一緒に長年ためこまれた魔力というものが溢れ出てしまう。その結果、過剰な魔力によってアストルム山が噴火してしまうかもしれない。

 そこまではわかる。

 でもそこからの話はちょっと想像を超えていた。

「やからいっぱい『スピリッツ・アイ』を使つこていっぱい破損させるん」

「お主は何をいっておるのだ? 破損したからこそ魔女様を今開放する話になっているのだぞ」

「うん、それで破損いうんはその魔力回路いうんから魔力が漏れるんやろ?」

「そうだが」

「やったらその封印のあたりをたくさん壊してたくさん魔力を漏らしたらええんとちゃうんかな」

「???」

 簡単に言うと、魔女様が作った魔力回路の網の上にアブソルトが作った魔力回路がカサブタみたいに被さっている。それでそのカサブタの中に魔力が膿のように溜まっている。そう考えると魔力ってものすごく気持ち悪いんだけど。

 だから魔女様が作った魔力回路じゃなくてアブソルトの作ったカサブタのへりの方をたくさん破損して、いわば穴を開ければそこからたまった魔力がちょっとずつ減って噴火しなくても良くなって、ボニさんも安全なんじゃないか、といわれた。

 穴を開けたから困ってるのに更に穴をあけるとかよくわからないけど、でも確かに、そうなのか?

「噴火が起これば龍族も住処を失う。もしそれで噴火が免れるのであればそのほうが良い。そしていずれ噴火するおそれがあるのであれば、やってみることに意味はあるだろう」

「おお! ぬるたん話がわかるぅ!」

「イレヌルタ殿。ありがとうございます。これからの流れですが、コレドがデュラはんを背負い、イレヌルタ殿の背に乗せていただき、アストルム山を囲うように15地点を巡って頂きたい。幸いにも現在魔力回路の分布図位置は補足できている」

「あの、どうして僕なんでしょう」

「この話ができて位置の測定ができるのはお前だけだ。私はアブソルトの部屋で魔力回路の状態を確認する必要がある」

 まあ確かに魔力回路の確認とかいわれても僕には何もわからないですけどね!

 でもね、本当に、この急降下は、心臓が痛くなるんだぁぁぁあああぁぁ!

 はぁ、はぁ、はぁ。礫がぶつからないようイレヌルタ殿が風で防いではくれてるのだけれど、僕、これ全部のポイントを回りきるまで保つのかな、それからデュラはんも。

 今5箇所を回ったところでカゴのすき間から見えるデュラはんは随分青い顔をしている。


「デュラはん、大丈夫?」

「大、丈夫、ボニたん死んでまうん、嫌やもん。『スピリッツ・アイ』ぎぅ」

『コレド、確認した』

「少し休憩をください! 僕はともかくデュラはんが!」

「コレド、大、丈夫。次、いこ。早せんとボニたん、魔力になってまうん、やろ?」

 僕は青い顔のデュラはんを止めることはできなかった。

 聖域というのは人間が存在できる場所じゃない、らしい。エウドキナ様がすでに肉体にとどまりきれていないことでも明らかだ。魂が完全な魔力になってしまうと、肉の体に留まれない。魔力によって存在を留める精霊やドラゴンのように、ん? 魔力で体を留める?

 何か引っかかるなと考えていると、不意に地面がドドドと揺れて急に浮上した。クラクラする頭で周囲を確認するとイレヌルタ殿の前足に掴まれて空を飛んでいた。


「な、何が!?」

 下を見ると地面の一部が盛り上がり、白い煙がもうもうと上がっていた。噴火には至っていないけれど、その煙はどんどん大きくなっていく。きっとこの白煙は帝都カレルギアからも見えるだろう。そんな巨大さ。

「よかった。これ、他所で噴火しよるいうことはその分魔力減ったんよな? 圧力も減っとるよな? ちょっとはうまくいっとるいうことやんな。さ、次、いこ」

「あの、本当に大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫、でもなんやお腹すいてきた、あれ?」

「ふふ、呑気ですね」

「お腹空いてきたいうことは抹茶パフェたべれる?」

 抹茶パフェ?

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