第54話 何と言う事でしょう

「なんで俺はこんな所にいるんだろう」


 渉が呟いた空間は見渡す限りの暗闇、星が瞬く宇宙空間であった。


「どう考えても管轄外なんだけけど」


 視線の先、多くの光が現れる。


「やっぱり管轄外だよな~」


 現れた存在を目にし、うんざりと呟く渉であった。






●〇●〇●〇●〇●〇●






 事の発端はインドと中国、それぞれの国の上空にそれらは現れた。


 インド上空にはメイガス帝国皇帝を名乗る人物、中国上空にはイヤイラ帝国皇帝を名乗る人物が映し出された。


 内容を要約するとこうだ。


 どうやらそれぞれ宇宙を舞台に銀河帝国どうしで戦争をしており、先の戦闘で大きな被害を受けた。


 それ故兵士が足りない。


 そこで考え付いたのが他世界からの人員補充であった。


 ある程度の文明を持ち、人が多く要る場所を特定するための調査を行ったという。


 調査の結果、数億人を抱える惑星を発見する事に成功したのだった。


 それぞれの皇帝の言い分はほぼ同一であった。




 曰く、野蛮な旧人類を兵士として使ってやる、有難く思え。


 曰く、10代~20代の者を100万人よこせ、さもなくば星ごと破壊する。


 曰く、10日後に迎えをよこす、感謝しろ。




 この要求がなされた時、当然両政府は上空に向かいミサイルを発射しているのだが、空振りに終わっており。


 インド政府は呆れ、中国政府は激怒した。


 緊急の国連会議では、宇宙よりの侵略者と題し、どのように対策するか物議を醸し出しているのだが、いかんせん相手が何処の誰かも解らない。


 どこぞの宇宙帝国は彼らの言い分、もしかしたら他国の戦略ではないかと大国が疑われるも、そんな事実は無いと否定される。


 会議は踊る、されど進まず。


 世界各国は当然対応に悩んでいた。


 合計200万人の若者を犠牲にするなど当然納得は出来ない。星を破壊といっていたが、常識的に考えてそんな事が出来るはずが無い。


 結果、要求を無視し今後の対応を考えるとの結論に至る。


 両国政府は、要求当日に軍隊を展開すると宣言、上空に現れたいかなる者に対しても問答無用で攻撃を仕掛けるとまで言い放った。


 要求日まで後4日、両国がそう決定したのは、渉が華美とのんびり会話していた翌日である。

 

 のんびりと過ごしていた渉は神々に呼び出される事となる。




 部屋に迎え入れられた渉は、厳かにひれ伏し待機していた。


 伏した先、三つの巨大な力を感じる。


「渉。良くぞ参った」


「はっ」


 いつものツクヨミの声、だが声音に緊張が混じっていると感じている。


「この度そなたを呼び出したのは他でもない、現世で問題になっておる話じゃ」


「それはインドと中国の上空に現れたという」


「その通りじゃな、本来であれば我らの関与するところでは無いのだが…」


「何か問題が?」


「うむ、インド神話の神々と中国の神々が怒っておる」


 マジか~。渉は心の中でそうつぶやく、政府間のやりとりであれば理由を付けて断る事も出来るのだが、相手が神となるとそうも行かない。


「今回の出来事じゃが、どうやら他世界の神々が関与しているようじゃ。ほれ、例の波動、あれじゃな」


 溜息を付き、やれやれといった雰囲気が伝わってくる。


「その世界の神々が、帝国を名乗る奴らの装置に細工をしたようじゃ」


「それは、何といって良いのやら」


「今回の出来事で判明した、実に不愉快な事じゃ。じゃが問題はインド神と中国神じゃ、神の軍勢をもって報復するといい始めおった」


「え~っと、それって宇宙ごと破壊しません?」


 思わず素で答えてしまった渉、それも仕方ない事。神話を紐解けば銀河を両断する神も存在するのだ。


「うむ、非常にまずい」


「……」


 あ、これ厄介事の気配や。そう思っても口には出さない。何をされるか解らないから。


「今回の一件、地球にそんざいする神々が呼びだされた」


「……」


 考えるまでもない、こうして呼び出されたのだ。


「結論を言う、両帝国を滅ぼしてこい」


「滅ぼしてとは?」


「言葉通りじゃな、ただし惑星上に住んでおる者は除外、宇宙艦隊を殲滅して来い、という事じゃ」


「かの世界の神々はいかがいたしましょう?」


「うむ、どうせ変化に飢えてやったことであろう。それでも過干渉は良くない、灸を据えて来い」


「それが神々の意志であれば」


「安心するが良い、どうやらかの世界の神々は並列する世界の神々に嫌われているようじゃ、いわゆる悪神と言う奴じゃな、存分にやれ」


「畏まりました」






●〇●〇●〇●〇●〇●






 という話があったのが、数時間前。


 渉は神々の言葉を上司に報告し、その足で皇居へと向かい、同様の報告を皇女様へと伝えていた。


 宇宙艦隊がどれくらいの規模になるのか解らない、数日留守旨の報告は必要であった。


「あー光がいっぱい見える」


 渉の正面、左右に展開されるそれぞれの宇宙艦隊。


「あれ全部相手にするのか…、面倒だな~」


 負けるとは微塵も考えていない、どうやって殲滅するかを考える渉。


「あれで一部なんだから始末に負えないな、どれ取り敢えず」


 そう言いながら両手を広げる。


 それぞれの手のひらから氷の塊が生み出される。


「まずは彗星魔法から行ってみようか」


 大賢者に命名された魔法。




 巨大な氷の塊は月の大きさを超える。二つの月は彗星となり両軍へと放たれた。




 

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