第53話 その後と日常

 先の召喚事件から3日が過ぎていた。


 眞光は日本へと帰還し、次期魔王へと記憶の継承は終わっていた。


「ぅぅ…、もうお嫁にしか行けない、お嫁さんにしかなれない」


 とは次期魔王様の言葉、あの世界の魔族は12歳までに性別なかった。10歳以降、成人に向かい生殖機能が発達してく。


 そのため本人の意志で性別が決定していたのだ。


 そんな魔王様は、今回の出来事でどうやら将来女性に成る事が確定した様子だ。


 もう一人の被害s…貢献者である眞光は。


「僕はロリじゃないショタじゃない、僕はロリじゃないショタじゃない」


 と繰り返し呟いていたという。


 それぞれに大きな爪痕を残し、眞光は日本へと戻ったのであった。




 そしてこれから語るのはほんの少し未来の話。




「人族との交易はどうなっておる?」


「はい、順調でございます」


「では、本日の業務はここまでであるな」


 そう会話をしているのは黒髪の女性。すらりとした手足、女性らしい丸みを帯びた身体、何より目を引く美しい容姿。


 立派な女性に成長した魔王であった。


 魔王の会話相手はワダラである。


「して、召喚されたはずの勇者はどうなっておる?」


「2名の勇者の存在は今もって所在不明。先の合戦でも勇者の存在は確認出来ておりませぬ」


「ではすでに居らぬのかもしれぬな」


「はい、冒険者として活動していた時期に、モンスターにでもやられたのでしょう。最後に確認されてから2年。すでにこの世には無いのでしょう」


 その言葉を聞き、魔王は苦虫を潰したような顔をする。漏れて来る威圧がワダラに向かうと彼は冷汗を掻き、慌てるように言葉を告げ退室していった。


「すでに居らぬか…、眞光をイジメた張本人、私の手で少しでも報いを与えたかったのだがな」


 記憶の継承の際、眞光の中にあった悲しい出来事。魔王の心に強烈な影響を与えた出来事であった。


 イジメた側はイジメられた側と違い、そんな出来事をすぐ忘れてしまう。


 イジメ受けた本人が、生涯忘れることが出来ないにも関わらずだ。


 現に眞光をイジメの主犯であった2名。彼らはこの世界を謳歌するため残留を決めたのだ。

 次の合戦で英雄となりチヤホヤされたいが為に、そして何より勇者の力でこの世界を存分に楽しむために。


 何度でも言おう。そんな上手い話は無い。


 授かった力も努力せねば使い熟せない。どの様な力、能力であっても何もしなければ役に立たないのだ、甘い考えで居れば足元を掬われる。


 合戦で相まみえる事があれば、自身の手で報いを受けさせるつもりでいた魔王。


 勇者である2名が合戦に現れるどころか、その前に無くなっているとは思いもしなかったのだ。


 勇者が居ない合戦、眞光の知識を受けた若き魔王。


 結果は、今までに無い程出来で魔族の圧勝であった。


「なるほど、己が能力を過信し、増長した結果であるな。反面教師とは眞光の記憶であるな」


 魔王は眞光を想い、憂いた瞳になる。


「私は生涯結婚出来そうにないぞ、どうしてくれるのだ…」


『そうですね、ですがこの先の世界の為には成りません。子は残していただかないと』


「ふんっ!神か何用だ?」


『何、簡単な話です。今より暫しの間あなたを拘束します。この世界時間で明日にも戻って来れます』


「何故そのような事をせねばならぬ」


『行けば解ります、これは彼との契約の一部。やってもらわねば契約違反となってしまいます』


 彼、そう聞いて思い出したのは渉という人物。不思議な存在であった、魔王にとっては恩人の1人だ。


「ならば答えねばならんな」


『では、ご案内いたします』


 そう言われ、瞬時に場所が切り替わる。


 辺りを見回す魔王。


 広い平原、見渡す限りの緑。気候も快適で特に身体に支障を来たす事も無いようだ。


 魔王が振り向いた視線の先、一軒の家が見えた。


 魔王は走り出す。


 見間違えることは無い。


 以前と比べ、少し大人びているが間違いない。


 キョロキョロと辺りを見回す彼は、魔王の存在に気が付くと驚きの表情を見せるも、その瞳は変わらず優しげであった。


「マコウ!!!!」


 そう彼の名を叫び、その胸に飛び込む魔王。


「アルファだよな?」


「はい、アルファです!貴方のアルファです!」


「奇麗になったな」


「はい!貴方の為に女性になりました。もう一度マコウに出会う時を願い、美しく在る努力をしました!結婚もしていません!」

 

 優しく抱きしめる眞光の胸で、泣きじゃくるアルファ。


「はは、ありがとう。僕は相変わらずのままだよ、うだつの上がらないサラリーマンってところかな」


「いいえ、そんな事はありません。私のマコウはとても素敵です!」


『再会は済ませましたね?では早速世継ぎをつくってください』


 2人の感動の再開に思いっきり水を差す神。


「「え??」」


『そういう契約なのです。3か月、ここで過ごしていただき世継ぎをつくる。それぞれの世界で3年に1度機会を設けます。沢山励んでください、最低6人は生んで欲しいです。あくまで最低でも、なので何人でも構いません。それぞれの存在が世界へ及ぼす影響が薄くなったと判断出来次第、この世界で余生を過ごしていただきますのでご了承ください。尚、必要な物はその家にすべて用意してあります。安心してください』


「「意味がわかりません」」


『生涯を共にできるのが一番良いのでしょうが、それは叶いません。ですのでこの様な形での妥協案を取っております。それぞれの生活に問題が出ない配慮もしております、ご安心下さい。では3か月後に再びお会いしましょう』


「「ちょっ!?」」


 言うだけ言って何処へと消えてしまった神。2人は呆然と佇んでいる。


「え~っと、本当にどうなってるのか理解できないけど。迎えが来るみたいだし、それまでは普通に過ごせば良いんじゃないでしょうか?」


「うん、でもね子供は欲しいの…。あ!もしかして誰かと結婚とかしてる?」


 目に薄っすらと涙を浮かべ、不安そうにアルファがそう聞いてくる。


「いいや、してないよ。それどころかこれから先も結婚する気はないかな」


「そう、なのか。結婚する気も無いのか」


 眞光の言葉を聞き、結婚する気が無いと考えションボリしまうアルファ。


「だってそうだろ?僕は、僕には君と言うお嫁さんがいるんだ。元の世界で結婚とか考えられないかな」


 実に照れくさそうにそう言ってくる眞光。アルファは再び彼の胸へと飛び込んだ。






●〇●〇●〇●〇●〇●






「ぐふふ、華美氏~これはどうなってるでござるか~」


「キモイです。セクハラで訴えます」


 そんなやり取りをしている渉と華美。渉は彼女の部署へと出向き、過去の事件を結果を聞いている。


 ここ数日、日本では特に召喚事件は発生していない。もっとも……。


「で、こっちの行方不明者ですが、どうやら香川でみつかったみたいですね」


「青森から香川か、そりゃ時間も掛かるか」


「監視カメラから逃れるために変装までしてます。3か月の間、逃げ込んだ相手の家から外出もしていなかったみたいです」


「召喚事件どころか誘拐事件でもはないんだよね?」


「はい、間違いありません」


 事件資料を確認しながら渉はうんざりとした顔をしている。そんな様子を伺いながら華美は結果を伝えていく。


「本件に関しては警察へと移行しております。ご安心ください」


「ご安心、ご安心……出来ないだろ!!なんだよ!高校生男子を囲いたかったって!三十代女性の闇が深すぎるわ!!三か月何してたんだよ!ナニしてたんだろうな!」


「セクハラですね、で・す・が、私も欲しいです!若い燕!」


「犯罪者予備軍がここにも…」


 戦々恐々と華美を見つめる渉。口元から何かが垂れているが見なかった事にした。


 藁科華美、彼女もまたそっちの人であった。


「あ、あとイギリスからの迷惑メール何とかしてください」


「あ~、無視無視。あんな危険なメールは着拒ですね」


 イギリス、例の魔女と聖女は渉を狙っている。正確には渉の種狙いなのだが、異世界にいる事が多い渉である、日程調整をして欲しいと華美まで巻き込んでいた。


「それよりもっと喫緊の問題があるでしょ?」


「ですね、どうするつもりなんでしょう」


「さてね。そこは自国と相手国の問題もあるから何とも言えないかな~、それに今回に関しては各国政府どころか相手国の神の問題も出て来るからね。基本、俺ってば日本の召喚事件専任だから」


「成るようにしか成らないですね」


 そんな事を言いながら、渉と華美は天を仰ぐ。なんとも面倒な出来事ではある。


「どうか俺に面倒事が来ませんように!」


 渉がそう祈る先も神なのだが、回避できないだろうなぁ、などと頭の片隅で考えても居た。

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