第42話 確認しよう(後半修正)

「さてと、邪魔者も居なくなったことだし今後に付いて話をしようか?」


 渉が等切り出すと、4人は頷き合い即答して来る。


「僕達4人は帰ります、どんな事情があったとしても、です」


「そっかそっか、それは英断だね」


「本当は5人で話し合いたかったんですが、安達は呼びかけに答えてくれませんでした。なので4人で相談してそう決めました」


 彼らの行動から、呼びかけたのも本当の事であろう。渉はそう考える。

 渉は4人から目を離し、安達に目を向ける。ビクリとした反応の後、再び俯いてしまった。


 それでも渉は容赦なく返答を求める。


「それで安達君、君の先ほどの行動を鑑みると、この世界に残る。という選択で良いのかな?」


 わざわざそんな言葉で安達に問いかけると、彼は先ほどまでの自分の行動を思い出したのか、その顔を青くする。


「もう一度聞くよ?君は自分の意志でこの城から抜け出した。であるならこの世界に残る、その決断で間違いないね?」


 聴きように因っては脅迫に近い、そんな渉の言葉だが子あれは何とか自分の考えを口から絞り出す。


「いい、え。いいえ帰ります。帰らせてください!」


「そうかい?それなら君の意志を尊重するよ…」


 やっとの事で何とかその回答を発する安達をみて、4人のクラスメイトは安堵の表情を浮かべると、1人の生徒が渉に質問を投げかけていた。


「加賀美さん、どうしてそんな言い方になんですか?もう少し優しく言っても良かった気がするんですが」


「ふむ、そうだね。さっきから強調しているけど。決めるのは自身だからだよ」


「それはそうです、僕にもそれくらいは解ります」


 彼は真剣な眼差しで渉と向き合っている。渉自身は彼のような存在に好感が待てる。


「では何故こんな言い方かと言えば、その意志は他人の意見で左右されようと、脅迫であったとしても、決断するのは自分自身だと言うことを自覚してほしいからさ」


「脅迫されようと?ですか?」


「そう、結果どうなるかは正直どうでもいい事だよ、その決断を下したこと。その自覚を持って欲しいのさ」


 難しい顔をして考え込む5人、渉の言っている事がうまく理解出来ないでいた。


「簡単な事だよ、誰かがこう言ったから私はそれに従った。みんながやるから自分もそうした、友達に相談したらこうした方が良いと言われた。それってどうなの?ってこと」


「それなら解ります、でも大きく違う気がするんですが」


「いいや、違わないさ。誰に何を言われようと、最終的に答えを出すのは自分だよ。友達がこう言った、それが正しいと誰が判断する?脅迫された、それが間違っている事だと解っていても行動するのは、自分でそうしないと行けない、そう判断したからだ。事象に大小が有るかもしれない、それでも決断は自身が決める事だ」


「難しいです…」


 考え込んでいる彼らを見つめながら、渉は微笑んでいた。大いに悩むといい、渉なりの大人としてのアドバイスである。


 誰しもが何かを誰かに委ねたい、そう考えることが有る。

 従っただけ、脅されただけ、確かにそうかもしれない。それでも決断して行動するのは自分である。


 心の弱い人間であれば尚の事であろう。


 それでもその行動に責任を持つのは自分自身なのだ。

 情状酌量の余地とはよく言ったものだ、家族を人質に…、脅迫されて…、上司に命令されて…そこに情状酌量が発生したとしても、実際はすべての責任から逃れられることは無い。


 だがそんな言葉も無い世界ではどうだろう?


 取った行動すべてが自身に還ってくる。それこそ今回安達が取った行動の様に、結果死に繋がる事が多いのだ。


 渉は彼らに、他人に判断を委ねる怖さを知って欲しかったのだ。

 生きていく上で、どうにもならない事もあるだろう。それでも考えて行動して欲しい、そんな気持ちからのアドバイスだ。


「まあゆっくり考えると言い、学生の内は大いに悩み学んで行けばいいさ。人とはその生涯を考えて過ごす。考える生き物なんだと誰かも言ってるし」


「どこかで聞いた事がありますね、誰の言葉でしたっけ?」


「ふっ、俺に学を求める事は間違いである」


 場の雰囲気を和ませるため、そんな冗談を混ぜ答える渉。冗談…?なのかは置いておこう。


「それに今回の出来事でうまい話しには裏がある、それも理解できたのでは?」


「そうですね、勇者と呼ばれ浮足立った事も事実ですが、この世界に召喚されて真っ先に家族の事を思い浮かべました」


「それは良い事だ」


「はい、とても大切に育てられていた。そう感じることが出来たのは幸いでした」


 4人に何があったのか渉は知らない。それでも何か考える切っ掛けが在ったのは間違いないだろう。

 

 元の世界に帰る、そう宣言した安達だが未だ俯いたままだ。

 

 やれやれとばかりに渉が話を続ける。


「そうだね、勇者なんてならない方が良い。英雄譚なんて魔王を倒すまでの話でしかないんだ」


 俯いていた安達は勢いよく顔を上げると、渉に聞いてくる。


「なんで!?勇者なんでしょ!?順風満帆に生きていけるじゃないの!?」


「それは勘違いだと言っておこう。魔王を倒し、英雄となった勇者はその後どうなると思う?」


「アニメとか物語とかだとハーレム作ったり、姫と結婚して王になったりしてる!」


「うん、まさに英雄譚だ……だけど実際はそんな結末にならないんだよ」


 その言葉に5人全員が驚いていた。この世界での勇者になる気は無かった5人だが『勇者の結末』は自分が辿ったかもしれない未来だ。


 思わずと言った感じで、女生徒の1人が渉と安達の会話に口を挟んでしまう。


「世界を救った勇者なのにですか!?」


「そう、世界を救った勇者だからだよ…」


 言葉が出てこない、英雄とはその生涯英雄であり、一生楽をして過ごしていける。そんな考えで居たのだ。


 だが、人とは実に愚かである。


「勇者のその後、殆どが世捨て人となる。護ったはずの国や人々から恐れられ遠ざけられる。魔王を倒すために鍛えた力が、そのまま人々の脅威になってしまう」


「そんな!だって魔王を倒す為だったんでしょ?何でそうなるの!?」


「人は人と異なる存在を恐れる。平和になった世界で勇者と言う存在は異物でしかない。勇者を有する国は爆弾を抱え過ごすことになり、他の国はいつか勇者が攻めて来る、そんな恐怖に怯える。その結果、最初に勇者が人々から受ける仕打ちは”毒殺”だよ」


「それはあまりにひどくないですか?」


 もう一人の女生徒からも質問される、信じたくないのだろう。だがそれが事実だ。


「立ち向かう相手が強すぎる。戦争になれば簡単に殺されてしまう。故に毒で殺そうとする。それだけだよ」


「それで殺されてしまうんですね……」


「いんや、まず死ぬことは無いね」


「「「「「え!?」」」」」


 そう、相手は勇者だ。毒で殺せるなら世話はない。


「毒で死ぬ程度なら魔王何て倒せないよ。でもね、この行動は勇者の心を殺してしまうんだ、理由は解るんじゃないかな?」


「守ったはずの存在に裏切られた。そんな処ですか?」


 安達がそう答えると、渉は満足げに頷く。


「その通り、毒で死なない勇者。では国で政をさせれるかと言えばそれも無い、周りに与える影響が多きすぎるんだ。もっとも勇者は政治なんて習っていない、そうなると逆に足を引っ張ってしまう」


「酷い言われようですね」


「事実だからね、戦闘訓練しかしてこなかった人物に学が有るとでも?貴族にして領地を与えてもお飾りでしかないよ」


「勇者って……」


 安達は愕然とした、憧れていた存在の結末は聞けば聞くほど酷いのだ。やりきれない気持ちで一杯だった。


「強力な存在を国の中心に近づけたくない、そうなると辺境、国境の領地を与えて押し込める。だけど他にも問題がでるんだよ」


 ニヤニヤと頭にくるいつもの顔でそう言ってくる渉。5人は聞きたく無くなって来ていた。

 それでも代表していつもの男子生徒が渉に聞く。


「他にもって何ですか?」


「簡単さ!勇者その力で女性を抱くと相手が死んでしまうんだ。当然次代の領主は生まれず一代でその領地は崩壊するんだよね~」


 男子は唖然、女子は顔が真っ赤である。

 だが、そんな事実も確かに有ったのだ。


 立場が女性勇者、伴侶が男性だとしても同じ事が起こったことがある。興奮のあまり力加減を間違えた、それだけで相手を失ってしまったのだ。


 勇者や英雄、強い力は他者との共存を難しくさせる。戦いでどれ程優秀であっても、日常生活にかなりの悩みを抱えることなる。


 渉は敢えて極端な言い方をした。


 実際、人の範疇であればそこまで酷い事にはならない、そんな事もある程度だ。


 ほんの少し夢見がちな年頃に現実を見せるため、極端な例として語ったのだ。


「まあ今のは極端話だけど実際にあった事だよ。アニメなんかでステータス大幅アップなんて言ってるけど、実際は生きていくには辛すぎる。手加減の仕方を知らないと簡単に人も物も壊れる。人と生きて行くだけで相当な苦労を背負う事になるんだ、それ程まで勇者と一般人の間には力に差が出来てしまう。そうなると人と寄り添って生きる事に疲れてしまう」


 渉も普段からかなり気を付けている事だった。


 少しでも油断すると相手を殺してしまう。

 それでも何とか日常を過ごせるのは渉の持つ複数の能力であり、神々の配慮のお陰。


 日常生活を複数の能力を駆使し何とか過ごしている。


 考えてみれば分かるだろう、その


 神の配慮については渉は考えない事にしている、現実世界で過ごす為に必要な措置だろう。それを知る必要性を感じていない。

 何をされていようと、歩くだけで人が死んでしまうよりはマシだと考え受け入れている。


「これはあくまで一例だよ?それでも実際にあった勇者の結末の一つ。もしかしたら何処かに君たちの思い描く未来を辿る勇者もいるだろうね」


 だが勇者という存在は何処まで行っても兵器扱いだ、何かあれば真っ先に矢面に立つこととなる。


 その生涯を人々を護るために使うことになる。


 自身の家族の安否すら後回しにされ、もっとも大事な物をそのかたわらで守る事が出来ない。

 特別といえば聞こえは良いが、特別に成れば成程孤独になっていく。


 遣り切れない気持ちばかりが膨れ上がる。


 勇者が何処いずこへと旅立ってしまう理由としては十分だろう。


 理想的な展開もきっと何処かにあるだろう、有ってもいい筈だ。



──オレには無かったな。

 


 苦々しい表情を浮かべながら、渉は5人にそう付け加えるのだった。






────────


いつも読んでくださる方々、ありがとうございます。


急ではありますが、後半部分を修正しました。


少しイメージが異なったための修正です、大変失礼いたしました。今後は気を付けていきたいと思います。


よろしくお願い申し上げます。

 


 

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