第41話 騙されるとでも?

 安達を城へと連れ帰れば、クラスメイトの4人が待っていた。

 時間的には夜9時を回った頃だろう。


 4人は自室には戻らず、安達を心配し会議室で待機していたのだ。


──いいクラスメイトじゃなか。


 そんな事を考える渉。微笑みながら彼らを見つめる。

 対照的にバツが悪そうな安達。


「さて、彼も戻った事だから今後の話をしようと思うんだが、こんな時間だ明日にしても構わないが?」


「いいえ、寝付けそうにないのでこのまま話をして下さい」


「そうかい?」


 この世界についての話も同時に聞くため、何人かの役人にも待機してもらっている。話の内容次第では残るという人物も出てくるかもしれない。


「それじゃ、まずこの世界の状況確認をしようか。それで、今回の召喚理由を教えていただけますよね?」


「はい、もちろんです!」


 そう答えたのはカイゼル髭した男性。立ち位置的にはこの国の宰相クラスであろう。

 渉たちの正面の席に座り、代表して話をしてくる。


「今回の召喚は、4年後に侵攻が予想される魔王に対しての物です」


「4年後?随分と気が早いような気がしますね、侵攻が予想されているのならこの世界だけでも準備が可能なのでは?」


「おっしゃることは理解できますが、我々の力では魔王に対応できないのです、魔王どころかその側近にも歯が立たない次第でして……」


 魔王が攻めてきている訳でもないのに、随分と具体的で在る。

 渉は訝しみ、彼を見つめると目が泳ぎ始める。


「何だか話がおかしいですね、側近とすでに戦闘しているような言い方です。正直に話してもらえませんか?」


 そう言いながら渉は威圧を強めていく。この手の輩は口先だけの事が多い、少し脅しをかける位が丁度良いのだ。


「うっ!分かりました。詳しく説明するので睨まないでいただきたい!」


 滝の様に流れる汗をハンカチで拭きながら、覚悟を決めた様に話始める役人。


「この世界の魔王、実はまだ13歳でして…先代の魔王が急死した事で未だ正式な魔王という訳では無いのです」


「意味が解りませんね、では今は誰が魔王に?」


「側近の1人が魔王代行をしております」


 魔王が不在?そんな状況で何故戦闘が起こるのだろうか。

 渉はこの国に対しての不信感を募らせる。


「先ほどの内容からの推測ですが、もしかして魔王不在を良い事に人族が…いいえ、この場合この国がと言った方がいいでしょうかね、魔国に侵攻しましたね?」


「「「「「!?」」」」」


 その言葉を聞いた5人の勇者は驚きの顔を見せる。

 カイゼル役人の顔色は更に悪くなり、返事もしどろもどろ。渉から視線を逸らす。


「4年後の侵攻も怪しい話ですね、次代の魔王が成人する前に何とかしたい。そんな処でしょう」


「「「……」」」


 役人と共に相席していた他の人物たちも、声を失くし黙り込んでいる。


 図星であった。


「そんな…それじゃあ召喚された時に言われた事は!?それも全部嘘だったんですか!?」


 召喚された5人の中、小柄な少女が大きな声を上げると、役人たちは言い訳のように言葉を発する。


 未だ世間を知らぬ若者なら上手く誤魔化せる。召喚した5人はお人好しに近い、何とでもなる。

 

 委任代理人という若造。渉の見た目も召喚した者達とそう変わらない。先程の推測には驚いたがなんとかなる、そう判断したのだ。


「そんな事はありません。我が国も隣国も魔国から被害を受けている。魔王軍の幹部ですら我々では歯が立たないのも事実。その上で次代の魔王が成長してからでは遅いのです!手遅れになってしまう!」


 必死な雰囲気をだし、何とか勇者達を説得しようとする役人。


 渉は当然白けていた。


「茶番は結構です」


「な!?」


「それ拡大解釈して話をしてますよね?隣国とはどこの国のことですか?国名を明らかにして下さい。確認しますので」


「か、拡大解釈とは…ひ、酷い言い様ですな。り、隣国とは隣の国の事で…どこと言われればすべての国です」


「侵攻してるのは人族、これは先ほどのあなた方の反応から間違いないでしょう。魔国は防衛しているだけ。で、そんな防衛側の魔族幹部に手も足も出ない。だから勇者を呼んだ。近隣に被害が出ている?それも怪しいものです」


 再び黙り込む役人、渉が再び威圧を強めると観念したのか正直に答え始めた。


「おっしゃる通りです……。我々は特に被害を受けておりません。侵攻しているのも我が国の一部の貴族です」


「どうせ魔国の資源目的でしょう。あわよくば魔族を奴隷に。なんて事でも考えているのでしょう」


「そんな事は考えておりません!その貴族も我が国の平和の為に攻め入ったのです!」


「で、その貴族達が国に泣き付いて来た。あなた方も当初は黙認でもしていたのでしょう。勝てば自分達にも利益がある、そんな感じですかね。ところが蓋を開けてみれば全く歯が立たない。そうなるとこの国は大変ですね、一貴族の勝手な行動とはいえ、国として魔国への宣戦布告を黙認してしまったのですからねぇ」


 渉はカイゼル役人の言葉に耳を傾けず、自分の考えをそのまま口にした。


 あっさり現状を言い当てられたカイゼル役人は口をパクパクさせ言葉が出てこない。


 色々な世界を見て来た渉からすれば、簡単に行き着く答えであった。


 相手が魔王でなければ勝てる。


 欲深く自信過剰な貴族が取る手段と考え、実に浅はかである。


 横で聞いていた勇者達は何とも言えない表情をしている、何処かで勇者として呼ばれた事に誇りを持っていたのだろう。


 実際はこの国の尻拭いで呼ばれたのだ、その気分は一気に降下している。


「はっきり言いましょう、自分達で何とかしてください。我が国としては戦争補助をする事はしません。我々はこの後すぐにでも帰還します」


「そ、そんな!我々を見捨てるというのですか!?」


「いやいや、見捨てるも何も自業自得でしょ。侵略戦争を仕掛けておいて、旗色が悪いから戦力を攫って来た。しかも異世界の住人を攫って何とかさせようなんて、呆れてしまいますね」


「言わせておけば…!もう勇者して扱わん!!奴隷に落として強制的に戦わせてくれるわ!!」


 立ち上がり剣を抜くと渉たちに飛び掛かってくるカイゼル役人。

 構えから剣はある程度使える様子だ。


 目には欲望の色が宿っている、魔国への侵攻に一枚噛んでいるのだろう。


「ふひひ、覚悟しろ!この国で私に逆らったのだ、相応の報いを受けさせた後、奴隷にして戦場へと叩き込んでやr……」


 言葉は最後まで続かなかった。

 剣を抜かれたことで委縮していた勇者5人。一瞬の出来事で何が起こったのか判らなかった。


 渉の手の形から、デコピンを彼に向かってした事だけは理解した。それでも直接指は当たっていない。


 だが、目の前に迫ったカイゼル役人は白目を剥いて倒れている。


 渉は空気を圧縮して撃ち出したのだが、一般的な日本人の理解の範疇を超えてしまえば理解は出来ない。

 

「短絡的すぎる。これがこの国での上位者ですか…となると国王は傀儡かなぁ~。で?他にも何か言いたい人います?」


「え、衛兵!!」


 残った役人の1人が兵士を呼び寄せると、数人の兵士が飛び込んで来る。最初から脅す事も考えていたのだろう、完全武装、準備万端であった。





 ゴゥン!!!!





 轟音が鳴り響き、壁に穴を開ける。

 

 渉はゆっくりと立ち上がると、その武器を見せつけるように構え役人と兵士達を見廻す。


 見慣れないソレは黒い塊に見える。剣や槍などを見慣れた者達からすれば兵器に見えないのだ。


 だが、それから発生した破壊は驚異的で在った。役人と兵士達は硬い壁に空いた穴を見つめていた。


「それで?まだ話のある奴おる?」


 ニヤニヤと何とも言えない表情を浮かべる渉。


 兵士達はその武器を理解できない。が、威力は理解出来た。壁に大きな穴が開いたのだ、当然鎧など役に立たないだろう。

 渉は懐から銃を取り出し兵士達に向けた。只それだけに見えたのだが、威力が想像と違った。


 魔法の兆候も無い、これでは何かする前に簡単に殺されてしまう。そんな考えから兵士達は動けなかった。


 役人達も黙り込んだままである。


 そんな緊張した雰囲気の中、渉から提案が出る。


「それじゃあ皆さん退室願いましょうか、彼らと話をしたいんですよ」


 役人と兵士達は、渉の言葉を聞き入れるしかなかった。

 もっとも立場の高い人物が倒れたままなのだ。


 倒れたカイゼル役人を抱え、役人と兵士達は退室していくのであった。


「邪魔ものも居なくなったし話をしようか」


 渉が勇者達にそう言うと、5人はコクコクと頷く人形に様になっていた。

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