第43話 もちろん別方向からも確認します。

 5人を元の世界に戻すと、渉は国境線上上空へと飛んで行く。


 あの国のすべてが偽りだったとしても、念のため確認をしておきたかったのだ。

 

 片方の意見だけで判断することは危険でもあり、現状では戦場もどうなっているのか把握していない、百聞は一見にという事である。


 強い力の存在と、多くの力が集まっている場所。上空からそんな場所を特定し、かなり高い位置から見下ろす様に戦の状況確認をしていた。


 国境線に沿って作られた砦、魔族側はそこを拠点とし防衛している。人族は少し離れた位置におり、部隊を展開しているのだが攻め込むにしても少し距離が有る。


 上空から慎重に様子を伺う渉。異世界での干渉はなるべく控えたいのだ。


 近すぎると強い存在に察知されてしまうかもしれない。だが2千mも離れた位置であれば、余程の事が無ければ気が付かれる事も無い。


 そんな渉の視界に入ったそれ。その行動は渉の怒りを買うのに十分過ぎた。


「さっさと首を差し出せ!こいつ等がどうなってもいいのか!?」


 複数の兵士達が子供達を押さえつけていた。

 5人の子供、この世界の魔族の特徴なのか薄赤い肌をしているが、それでも顔を青くし怯えた様子であり、今にも泣き出しそうであった。

 それぞれ両手を後ろ手に縛られ、突きつけられた剣で声も出せない状況。


 子供達を人質に取り脅迫している姿、怯える子供達を盾にしているのは弱いと言っていた人族であった。


 魔族達はその状況に歯を食いしばり、武器を手から離す。


 武器どころか鎧まで脱ぎ、完全に武装を解除した事をアピールしながら、ゆっくり砦から人族へ向かう魔族の代表。


「武装を解いた!私は一切反撃もしないと誓う!まず子供達を解放して欲しい!好母たちの安全が確認できれば好きにすればいい!」


「それでは安心d」


 その言葉を最後まで聞く気に事は無かった。


 渉が戦場のど真ん中、魔族と人族の間に高速で飛び込む。その衝撃で発生した轟音は彼の言葉を遮り、地面との衝突は砂煙を上げる。


 何か言いかけた人物は突然の出来事に目を眇めるが、砂煙の中心に何かいると様子を伺う。


 砂煙の中、こちらを冷めた視線で見つめる男。その人物を確認した瞬間、その場に居たすべての兵士達は死を覚悟した。


 渉の存在を確認した者達は本能的に勝てない、そう感じたのだ。


 ゆっくりと人族へと手を掲げる渉、その仕草を黙って見つめていた。

 渉はそこから一歩も動いていない。だが人質にしていた子供達はその場から消えていた。


 転移を発動し、渉は子供達を魔族軍の砦へと移動させる。


「いい加減にしろよ?お前らみたいな奴らはうんざりだ…」


「何だ!?何者だ!人族ではないのか!?」


 焦ったように問いかけて来る人物に、威圧を放ち黙らせる。


「どうやらお前達と話すことは何も無いようだ。命が惜しいならば早々に撤退しろ」


 冷め切った渉の視線。その視線は雄弁に語っていた、彼らを人として見ていない。

 

 渉から発せられる威圧は最後尾にいる兵士達にまで届く。かなり離れた位置に居るにも関わらず、兵士達の背筋に恐怖が走る。

 



 アレは敵にしてはいけない存在だ。




 そう感じた兵士達はその場から我先にと走り出す、少しでも渉から距離を取るように、すくんで動けなくならないように大声を上げ逃げ出していく。


 恐怖の叫びは伝播し、更なる恐怖を煽る。兵士達は脱兎のごとく戦場から離脱していた。


 正面に居た人物は尚の事酷かった。

 下半身を恐怖で濡らし喚くように走り去っていく。偉そうにしていた面影は何処にもない。


 その様子を茫然と見つめていた魔族軍は呆気に取られていた。


 この国境線での戦闘はほぼ毎日行われていた。毎度攻めて来ては、状況不利になると撤退していく。

 魔族達からしてみれば、懲りずに今日も来たか…そんな雰囲気であったのだが、状況が一変する。

 人族の部隊後方から、攫われた魔族の子供達が現れたのだ。

 

 人質を盾に将軍の首を要求されたタイミング。その上でどんな要求をされるのか、そんな状況だったのだ。


 突然現れた男はその問題瞬く間に解決していた。

 計り知れないほどの実力がある。魔将軍である人物はその顔に緊張を浮かべていたのだが、振り返った渉は先ほどまでの威圧を解除すると、魔将軍に申し訳なさそうに頭を下げた。


「いや~すまんね、干渉するつもりは無かったんだけどアレはダメだ。アレはやっちゃいけない事だよなぁ~考える前に横槍を入れてしまった…」


「謝っていただく必要はありません。我らは助けられたのですから」


「そうかい?それもそうかな」


 そう言われ、納得する渉。魔将軍はそんな渉に事情を確認する。


「貴殿は一体何用でこのような場所へ参られたのだ?」


「ふむ、確認は大事だね。少し長くなるからお茶でも用意した方が良いかな」


「ならば砦へ参られよ。茶くらいは用意できる」


「ではお言葉に甘えますね」


 魔将軍はあっさり渉を砦へと招き入れた。普段で在ればそのような事はしない、罠など十分考慮して行動している。


 だが今回に限っては違っていたのだ。魔将軍の行動に魔族兵達は戸惑うが、武人として渉の取った行動を見ればそれも当然か、とも考えていた。

 

 もっとも魔将軍の考えは少し違っていた。


 武人としての感が囁いている、この人物にはどうやっても勝てない。何なら魔族全軍でも勝てないだろう、と。


 一目見て、十分信用できる人物。そう判断した。


 理由は至極簡単で、魔将軍は渉という人物から人族の悪意を感じなかったのだ。


 テーブルを挟み、今回の一件について説明する渉。


「とういう訳で、本当に勇者が必要な状況なのか、実際にこの世界に危機が迫っているのか確認するために調べている最中です」


「なるほど、人族は勇者まで召喚しましたか……我々にとってはかなり危険な状況になりますな」


「あ、言葉が足りませんでしたね、彼らは元の世界に還しました。なのでソコは心配いらないですよ」


「なんと!?そのような力までお持ちなのか!!」


 目を剝きながらそう叫ぶ魔将軍、対照的に大したことはしてないと茶を啜る渉。


 その後も魔将軍から事情を聞き出す。

 

 魔王が幼いのも事実。人族が攻めて来たのも事実。魔族が人族に侵攻する予定は無い。

 例え魔王が大人になってもそれは無いだろう。それが魔将軍の意見であった。


「あぁ~やっぱりそうですか。何と言うか魔族同士で結婚して生まれた魔王だと良く有る事ですね。世代を重ねて行くと平和を望む魔王が誕生する。個人的には大いに歓迎しますね」


「それでいいのだろうか?我らは人族を争うために生み出されたと伝えられているのだがな」


「それ過去の話でしょ?気にしなくて良いと思います」


 最初はそうであったかもしれない、でも今はそんな考えが必要ないだろう。渉はそう考えていた。


「そんな簡単な話なのでしょうか?」


「簡単な話なんです。種としての繁栄も問題ないでしょうねぇ。何せ必要で無いのならとうの昔に滅んでいるでしょうし、それ以前に子供を作れない身体で生み出されるはずですから」


「なるほど、と言いたい処ではあるが……一体何故そう考える事が出来るのか、些か理解に苦しむというか」


「う~ん、俺はそう考えたんだけどね。それそこ詳しい事情はこの世界を創った神に聞いて欲しいかな。でも貴方達は今もこうして存在している。俺的には根拠ははそれで充分なんだけどね」


 この世界に必要だから存在している。


 渉的には本当に簡単な話であるのだが、先祖代々、人族は敵であると育てられてきた魔族にとっては簡単な話ではないのだろう。


── 後数世代もすれば共存しているかもしれないなぁ。


 心の何処かでそんな未来を考える渉。


「まあそれは追々で判る事でしょう、であれば目先の害悪をどうするか、ですねぇ~何なら俺が交渉してきましょうか?向こう100年は手出しできないように懲らしめてヤりますが」


「なるべく干渉しないのではないのか?」


 悪い顔でそう提案して来る渉に対し、真顔で魔将軍は言ってくる。お互いの顔を見つめ、思わず笑い出す。


「そうですね、色々事情は把握出来たので、はやめておきます」


「ああそうしてくれ、我々で何とかする」


 その後も色々話し合い、魔将軍に別れを告げた渉。






 もうお気づきですね?地上への干渉はしません。


 この世界の神が数か月に及ぶ説教を受けるのは数分後。


 


 

 ──────────


お読みくださり、誠にありがとうございます。


前話(42話)の後半ですが、渉の行動や考え方がイマイチしっくりこなかったので修正しました。


修正は投稿日当日に行っています。


修正後、表題に(後半修正)と入っています。

上記の状態でお読みくださった方は読み直しの必要はございません。すでに読んでくださった方々も必ず読み直す必要はございませんのでご安心ください。


まだまだ未熟なため、今回はこのような事となってしまいました。今後も努力してまいりますので、よろしくお願い申し上げます。




 


 

 




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