第35話 異世界での過ごし方2

 何事も無く過ごす期間、吸収した能力を使いこなす為今日も訓練を続ける渉。

 そんな渉の傍で何をするわけでもなく、ただ眺めている大賢者。それでも時折気になる事が在るのか渉に尋ねて来る。


「その忍術とやらは使えるのかのぉ?」


「いや~きついでしょ、何せ発動条件が印を結ぶとか呪符を使うとかだから、咄嗟の時に使いづらいかな」


「ほうほう、では魔法の方がいいのかね」


「良し悪しかな、魔法は魔力だけど忍術は気だから根本が違ってくる。魔法を封印されても忍術は使えそうだね」


「なるほどのぉ」


 一連の事件で吸収した能力の中で、今まで使った事のない能力は2つ。


 忍術と陰陽術であった。


 どちらも魔力を元としない術で、呪符や霊力、気力といった系統が違う力であった。


 魔力戦闘に慣れた渉では使いこなすのに少し時間が掛かるのだ。


 そんなこんなですでに6年この世界で過ごしている事となる。

 何せ師匠が居る訳でも無いため手探りでやっているのだ、大賢者の意見も参考にしながら訓練をしている。


「どうじゃ、そろそろ魔法の訓練をせんかね?」


「いや、どう考えてもそっちにしか興味ないだけでしょ。忍術や陰陽は気に入らないかい?」


「面白いとは思うがのぉ、ワシの琴線には触れぬな」


「それは残念、まあそろそろいい感じに仕上がって来た所だし魔法に移行してもいいかもな」


 その言葉を聞き小躍りする大賢者は非常に現金だ。


「そうかそうか、やる気になったか!では月に行くんじゃろ?何か準備はあるかの?」


「いや、結界を張って空気を生成するだけだけど」


「相変わらず訳の分からんことを、空気とは一体何じゃ?」


「いや、今も吸ってるでしょ…呼吸が当たり前なのは解るけど、その元となる物に興味を持とうか」


「そんな事はワシの知った事ではないわ!」


 魔法以外興味のない大賢者は、そう言い捨てて来る。


「いや、それにすぐには月に行かないぞ?まずダンジョンからだな」


「なんじゃ、つまらんのぉ」


「そう言うなよ、月だと炎系使えないかもしれないし、にも会いに行ってやらないと拗ねそうだからな」


「あんな奴は放置が一番じゃ!ところで何故月だと炎が使えんのじゃ?」


 酸素が無いから、等と言えばまたやっかないな展開になるのが目に見えていたためそのまま話をそらしていく渉。

 ここ数年はそんな感じで平和な期間を過ごしている。






〇●〇●〇●〇●〇






 そんなこんなでここはダンジョン。

 1000階層を超えるこの世界でも有数な巨大ダンジョンである。


 渉たちは肩慣らしも含め800階層付近を徘徊していた。

 この辺りのモンスターともなれば、本来なら勇者でも手こずるはずなんだが、2人にとっては散歩気分でしかない。


 襲ってくるモンスターを検証対象に魔法を放つ。


 検証の結果、今までなら倒すまでに3発は必要だった魔法の効果が1撃で粉砕可能なまで威力が向上していた。

 単純に能力の吸収だけではなく、使いこなして行くうえで渉のスキルが上がったのも一つの要因だろう。


「そろそろ魔法で大陸の一部なら消滅できそうだのぅ」


「いや~さすがに無理でしょ」


「そうかね?極大魔法あたりなら行けそうな気がするんじゃが」


「人に対しそこまでの力を神は与えていないよ、せいぜい大都市が吹き飛ぶくらいじゃないかな」


「ふむ、都市ならいけるか。大陸を吹き飛ばすとなるとやはり人としては無理か」


「流石にそこまで行くと人では無いからな」


 横で考え込みながら、襲ってくるモンスターを魔法で消滅させている大賢者。実に器用である。


 召喚された者達に与えられるのは、あくまで人としての範疇で在る事が多い。人を超えるかどうかはその後の本人の努力でしかない。


 それでも通常その世界に居る者達より強力な力だ。


 与えられた力に胡坐をかき、努力を怠れば待っているのは敗北であり死である。


 特に単独召喚者は強い力を与えられることが多いのも事実。

 集団であれば互いに補える部分もあるが、単独勇者は1人ですべてを補わなければならない。

 それでも出来ないことは在るため、その世界の住人と力を合わせ戦うのだ。


 勇者として魔王を倒す場合、そのほとんどが人を超えてく。


 そうしなければ魔王という存在は倒せないのだ。


 結果、彼ら勇者はその世界に縛られることとなる。


 倒すために呼ばれ、倒すために努力し、倒すことで元の世界に帰れなくなる。


 元の世界に戻れず、その世界で生涯を終えれば待っているのは英霊か守護者か。何とも理不尽な事だ。


 集団召喚でも結果はそんなに変わらない。彼らは英雄となりやはりその世界の因果に根付いてしまう。

 ただ最後は人として生涯を終える事が多いだけである。 


 せめて死後の輪廻は自由で在って欲しい。


 縛られる呪縛からの開放は必要だろうと渉は考える。


「おおう、この階層のモンスター以前より少しはマシになってのではないか?」


 少し考え込んでいた渉に、お気楽大賢者がそんなことを言ってくる。


「マシって、普通の人からしてみれば十分脅威なんだがな」


「いやはや、これなら上位冒険者でも倒せまいて」


「そんな相手を瞬殺するんだからやっぱすげーな」


「何をいうか、ワシより強いやつに言われても何も感じぬぞ。わしが使っているのは極大魔法、お主が使っているのは中級魔法ではないか!どんな原理でこれほど差が付くんじゃ!」


「あははははは、極大魔法連発してる時点で爺さんも十分おかしいんだけどな。まあ年季も違うからな。こちとら何百年と魔法は使っているんだし、80年程度の魔法熟練者に追い付かれても困るってものだよ」


「ぐぬぬ、爺さん爺さん言うな!見た目だけじゃ!ワシぴっちぴちの90歳じゃぞ!こんな事ならやはりもっと鍛えるべきであったか」


 人類的には最強の大賢者、最近は年齢を理由に鍛えてこなかった。それでも十分強いのだが渉の力には遠く及ばない。


「ふん!それでも人としての範疇であろう。これで神の力とやらまで加わるとなればやはり計り知れんな!」


「そう言なって、つまり人としてここまでは辿り着けるってことでも有るんだから」


「そういう考えもあるか、まったくもって忌々しい」


「まあ魔法はオレの方が上だってだけだ。魔道具や知識については爺さんのが上だろう?てか、その頭の中どうなってるのかオレの方が知りたいくらいだ」


「ほっほっほ、単純に頭が悪い。それだけの事ではないのかのぉ」


 勇者になる前、現代社会で普通に生きて来た渉。勉強が出来るかといえば普通であった。

 今でこそ長い年月から来る知識を持っているが、そこまで頭がいい訳でも無い。


 それに比べて大賢者は真の天才。とてもではないが敵わない。

 頭が悪い、そう言いながら渉にドヤ顔をかます大賢者。




 そんなやり取りが楽しいのだ。




 大賢者という友人の存在。対等でいられる人物は貴重である。神の使いではなく、常に人として接してくれる。


「頭の構造って弄れないかな…」


「弄ったところでアホになるだけではないか?馬鹿が阿呆になってもさして変わらんぞい」


「くっ!それよりあと少しで最下層だから奴がどんな出迎えしてくれるか楽しみだな」


「話そらすのが下手くそじゃなぁ。まあそうじゃのうそこそこ楽しめる相手を期待しようではないか」


「そこそこって、そう言ってやるなよ」


「事実じゃから仕方ないわな」


 そんなお気楽な雰囲気の2人は、散歩の続きの様に最下層へと向かい歩いていく。


 道中のモンスターが、すべて倒され消えていたのは言うまでもない。

 





───────


いつもお読みくださりありがとうございます。


少しずつ復調しております、ご心配おかけしました。


現状3日に1話程度となります。よろしくお願いいたします。



※風呂掃除の注意その弐、換気しないと涙が止まりません。ゴーグルも用意しましょう。


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