第34話 異世界での過ごし方

「やっと解放された~」


 集団召喚事件から10日後、渉的には3か月向こうで過ごしているため4か月振ぶりの日常であった。

 

 岩田への報告をすべて井上に任せて、早速休みと取った渉は異世界の大賢者の元へ来ていた。

 すでに死んでいるかと思っていた賢者だが、健康そのもので暮らして居たのは少し驚いたくらいだ。

 大賢者、名をマジェス・ジェンガーと言う。

 すでに顔は皺だらけ、白く長い髭に長い髪、頭頂部だけ禿げた頭はご愛敬だ。


「おおう、久しぶりじゃな。今日はまた一段とシケた顔をしおって」


「おう、爺さんも久しぶり」


「いや爺さん言うな、年齢だけならお主の方が上じゃからな」


 そんな気安い遣り取りに、少し心が休まる気がする渉。

 神の依頼とは言え、多くの命を奪ってしまった事への罪悪感は俺の渉には無い。行動自体や考え方自体が神に近くなるため、人という存在に対し思うことはない。


 ただの生命体の一つでしない。


 だが、オレである渉には人を殺す事に抵抗はある。

 それは言い訳かな、そんなことを考えてしまうのは、送り出してくれた時の皇女様の顔を思い出したからだ。


 彼女の憂い顔、それは何も日本人だけに向けられたものではない。異世界の人々にも向けれれている。


 彼らの行動如何では戦闘になるのだ。場合によっては殺し合うことになる。

 そして人々を思い遣る彼女にとって、その事実は受け入れ難い。


 今回は大量虐殺どころか、歴史からも抹消してしまった。


 とても彼女には言えない事だ。


 渉はそんな気持ちの整理も兼ねてこの世界に来たのだ。

 だが、理由はそれだけではない。もう一つの理由があった。そのため異世界を渡って来たのだ。


 それにはこの大賢者の力も必要であった。こうして態々世界を渡って来てまでしなければいけない事。


「ほう、また随分と溜め込んでおるわ」


「結構な能力吸収したからな、力も増してるし、今まで持ってなかった能力とかもあるから使いこなすのに時間もかかりそうだよ」


「ふむ、能力の統一化もせんとな、やれやれ面倒な仕事が来たわい」


「なんていいながら、気になって仕方ないくせに。どうせ能力検証は同行するんだろ?」


「当たり前じゃな。それがワシの特権じゃ特権。そうでなければ力なぞ貸さんぞ」


「へいへい、毎度助かってますって」


 会話から解る通りである。

 いくら渉が元勇者とはいえ、自身が扱ったことも無い力は危険だ。

 力加減を間違えれば周りに危険を及ぼす。


 渉は能力の確認と、力加減や熟練度を上げる為この世界に来たのだ。

 そして大賢者の知恵と力をかり、似た能力を一つにまとめ効率化を図っている。


 その際、大賢者が作り出す魔道具は非常に便利で最適であった。


 また、お互い長く生きている為、それぞれの知識も高い。特に魔法については大賢者の方が詳しい位だ。


 バラバラな能力のままではいざという時に使いづらい、同じ炎を出す行為だけで複数あると咄嗟の時困るのだ。

 また見知らぬ能力は、熟練度つまり使い慣れないと即座に発動できない事もある。


「それで、今回は何年くらいいるつもりかの?」


「取り敢えず10年までだな、元の世界に明後日もどるつもりだから」


「相変わらず訳の解らん力じゃの」


「その間、ここで住み込みさせてもらうけどいいよな?」


「端からそのつもりであろうが、いつもの酒はあるんじゃろうな」


「もちろん、世話になるお礼に持ってきたぞ、後新しい酒も数種類持ってきた、10年は酒に困らないぞ」


 そう言うと、顔じゅう皺だらけにしながらニヤケル大賢者は酒にはめっぽう目が無い。

 

 いつもの対応、いつも通りの雰囲気。おそらく彼は渉の背負う業を理解している。だからこそ普段通り対応してくれる。


 そんな対応が渉は気に入っている。


「10年と言ったが、過ごしている間に看取る事になるかもしれないなぁ」


「ぬかせ!まだまだ死なぬわ!どうせお主の話通りであれば、ワシは守護者あたりになるんじゃろう。まあ、全盛期の肉体と精神で過ごせるのは有難いことかのう」


「すでに人を遥かに超えてるから天使系かもしれないぞ?」


「それは困るのう。神の使いとかやりとう無いわい。これからも研究はしたいからのう、できれば守護者として土地に根付きたいものだ」


 そんなお気楽な大賢者。今回も楽しく過ごせそうだ。


 それに今回の事件解決後は悪い事ばかりでもなかった。

 特に彼女の存在は渉の気持ちをかなり癒してくれた。


 集団召喚事件で唯一記憶を残した彼女。


 他の被害者たちは記憶を操作したため、事情聴取よりも健康診断とカウンセリングを優先する事となった。

 曖昧になった記憶では、聴取は出来そうになかったからだ。


 そんな中、彼女は毅然と異世界課からの聴取を受けていた。


 実際なら話したくない事もあっただろう。それでもしっかりとすべてに答えている様子の彼女に、人の心の輝きを見た。


 オレはまだ人で居られる。


 彼女輝き、それだけで人族という存在に見切りをつけなくてもいいんだと、そう感じることが出来た渉。


 ふと考え込んでしまった渉に、気楽な感じで声が掛かる。


「さてさて、今回はどんな能力なのか楽しみじゃの~」


「すげー多いから、きちんと最後まで付き合ってくれよ」


「もちろんじゃ!いつものダンジョンで実施試験もやるんじゃろ?今までの魔法がどれほどの威力に変化するか楽しみじゃわい」


「まあ、今までならダンジョンの階層ぶち抜く程度だった魔法が、いまじゃ一撃でダンジョンごと破壊しそうな感覚はあるな。危険なのは別の所で検証するとしよう」


「なんじゃと!?そこまで威力が上がっておるのか!」


「何と無くだ、感覚的なものだからかもしれないってだけだけど、使うならあそこだな」


 そう言って渉は上空を指さす。大賢者はそんな指先を辿り溜息をつく。


「流石のワシでも月には行けぬぞ?」


 見上げた空には、青空に浮かぶ白い月。

 確かに月で有れば誰も居ないだろうが、流石の大賢者でも行ったことは無い。


「安心しろ、何とでもするから検証よろしく」


 あきれ顔は一瞬、そんな渉の一言で月に行ける喜びが勝る大賢者。

 すぐ行くぞと言い始める始末だ。


 流石に、今日の今日は勘弁、明日にしてくれと今度は渉が呆れた。


 お互い積もる話をし、ゆっくり夕飯でも食べながら酒でも飲もう。


 酒が出るなら明日でよい。と、大賢者は渉を家に招き入れたのだった。







───────


いつもお読みくださりありがとうございます。


少しアクシデントがあり、体調がすこぶる悪いです。

今回はかなり短くなってしまいました。



体調が戻り次第、続きを掲載していきますのでよろしくお願いします。




※みなさん風呂掃除で洗剤等使用する際は、マスクと喚起をきちんとしましょう。でないと私の様に危険な事になります。


いや、ほんと。

  

  

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