第24話 奏馬の異常さを問い詰める

 観覧車に並ぶ俺たちは順番が来るのを待っていた。


「………」


「………」


 沈黙が続いた。


 璃はずっと下を向いて、目線を合わせてくれない。


「璃?」


「な、なに?」


「はぁ〜〜あんなこと言って恥ずかしくなるなら言わなきゃいいのに」


「うぅ、仕方ないでしょ、こんなズキズキする感情は初めてなんだから…」


 あの自分の気持ちの告白はきっと相当な勇気がいると思う。外から見たら平然と話していたけど、耳が少し赤ったことを俺は知っている。


「急に立場が変わったな」


「へぇ?」


「ほら、今日会った時は璃が励まして、今は俺が励ましてる。ほら、変わっただろう?」


 すると、璃がクスッと笑った。


「そうね」


 璃との気まずい空気を晴らし、しばらくするとやっと自分達の番が回ってくる。


「お気をつけて、お上がりください」


 俺と璃は観覧車に乗った。


 ゆっくりと動き出す観覧車は、徐々に上へと上がっていく。


「思ったよりも広いのね」


「そうだな。外から見ると狭そうに見えたからな」


 上がっていくにつれ、遊園地全体の景色が見えてくる。そこには俺たちが乗ったアクロバットや、アイスクリーム屋などが見える。


「すごいな」


「ええ、ここってこんなに広かったのね」


 俺たちは普通に景色を楽しんだ。まだ頂上ではないが、それでも綺麗だった。


 こんな景気が見れるなんて、昔の俺は想像できただろうか。


 こうやって、友達と遊園地に行って、遊んで、食べて、美しい景色を見る。これほど幸せなことなんてない。


「いいな。こういうの実にいい…」


 心の底からの感想だった。


 今の俺は一体、どんな表情をしているのだろうか。憐れむ顔?輝いている顔?悲しんでいる顔?俺は一体、何を感じているのだろう。


「ねぇ、奏馬くん、聞いていい?」


「なんだ?」


「どうして、泣きながら笑っているの?」


 俺は涙を流しながら、笑っていた。


「あ、あれ?なんでだろう…」


 裾で涙を拭った。


「不思議ね。奏馬くんは」


「何がだよ」


「だって、奏馬くんと出会ってから、新しいことが次々に降りかかってくるし…」


「それは俺と出会わなくても、起きることだぞ。だって人は変わるもの、自分が決して変わらないと思っていても周りが変われば、自分も変わる」


「確かに、そうかもね。でも私がこうしてこんな気持ちを抱けたのは奏馬くんのおかげよ。どのような可能性を考えようと奏馬くんのおかげ、それは変わらない事実、けど、一つだけ気になっていることがあるの…」


「気になっていること?」


「そう、奏馬くん、あなたは一体何者なの?」


 その一言は俺の心に深く突き刺さった。


「ずっと気になっていたの。私たちが通う学校の生徒は何かしらの才能を持っているわ。でも奏馬くんの才能だけはどうしても予想がつかないの。頭が特別いいわけでもない、運動神経はまぁいいけど一流というわけでもない。ならあなたの才能は何?」


「………」


 璃の言いたいことはよくわかる。俺はただ、何も知らないままこの高校を受けて合格し、この高校に入学した。


 だから、俺がどんな才能で選ばれたのか、そんなものは知らない。


 けど、それは自分を騙すだ。


 誰もがいろんな人の一面がある。友達と接する時、親と接する時と性格が違うように、それを二重人格と言ってもいいだろう。


 俺はわからないという暗示をかけることで自分を騙してきた。


 だが、それはあくまで初歩に効く効果で、月日が経つにつれ、俺に近い人物は築き始める。


 俺の異常さに……。


「俺に才能なんてない。そんなの近くで見てきた璃ならわかるだろ?」


「確かにそうね、けど奏馬くんには一つだけ特出しているものがあるわ」


「それは?」


「人を動かす力よ。私を含めて、奏馬くんはあらゆる事態を想定し、手回しをしていた。それを可能にしていたのは人を動かす力があったから。私の考えでしかないけれど、奏馬くんはその人を動かす力才能をかわれて、入学したんじゃないかしら?」


「なるほどね……」


 実に根拠のある答えだ。確かに俺は周りを利用して、動いてきた。ペーパーテストの時も、学級裁判の時も、利用できるものはなんでも利用した。


 全てはCクラスを勝たせるために。


 でも、惜しいよ。まだまだ、頭がかたい。


「璃、世の中は理不尽だ。自由を手に入れて、自由に生きることができるものもいれば、自由に生きることができないものもいる。本当に人生は不平等だ。北条璃、お前はCクラスをこの学年のトップに上げたいか?」


 冷たい瞳で語りかける奏馬。


 まるで感情のない人形と話しているようだった。でも璃の答えは決まっていた。


「ええ、私は上がるわ。絶対に……」


「そうか、なら俺の詮索はするな。北条には北条の人生がある。お前がそれを目的にするのなら、俺に構わず、前を向け」


「そこまでして話したくないの?そうなると、赤木くんが裏切る可能性が出てくるわね。だってこの学校のシステムにはあるものね、クラスを変えることができるシステムが…」


「北条…俺を脅すのか?」


「ええ、脅すわ。私は勝つためなら、なんだってする。もし裏切る可能性があるのなら、ここで処分したほうがいいでしょ?」


 平然と語る北条璃に俺は驚いた。

 

 少しは悩むと思ったけど、どうやらまだ自分の芯は曲げないらしい。


「そうか、けど、北条だって気づいているはずだ。俺がいなくなることでどれだけCクラスに損失が出るか…」


「………」


「図星だろ?なら、俺の詮索はやめるんだな。まぁ勝手に調べるなら止めはしないけど…」


 気づけば、観覧車の頂上に辿り着いていたが、その空気は最悪だった。


「ねぇ、赤木くん」


「なんだ?」


「これからもよろしくね」


「さっきまでの話でよく言えたな」


「ふん。何を言ってるの、私は必ず、赤木くんの秘密を暴くわ。でもそれと同時にCクラスの仲間として、やっていくという意味で言ったのよ」


「そうか、じゃあよろしく。リーダー」


「私はリーダーじゃないわ」


「今はな…」


「え?」


 頂上についてからの観覧車は沈黙で終わった。


「さて、ご飯なんだが、どうする?」


「私は帰るわ。今日はもう疲れたし…」


「そうか、なら女子寮の近くまで送るよ」


 俺は北条璃を女子寮の近くまで見送った。


「それにしても、なかなかハラハラしたな」


 夜道、男子寮に戻る帰り道を一人で歩いていた。


「北条の成長も嬉しかったし、今日はいい事だらけだ……」


 俺が求めた高校生活の一部を堪能し、北条の成長を実感した俺は心が満たされていた。


 だがそれと同時に怪しまれる結果を招いてしまった。


 もう少し控えめに動いたほうが良かったかもしれないが、終わったことはもうしょうがない。


 それに、これで俺は自分自身を騙さずに済んだわけだし、ある意味いい機会だったかもしれない。


 俺の目的は変わらない。普通の高校生活を送ること、だけど、実はもう一つ目的がある。


 誰でもそうだろうが、みんな負けることは嫌いだろ?俺も嫌いだ。


 負けという結果は不幸しかまかない。負けで得られるものがあるという人もいるがそれは言い訳だ。


 だって勝ったやつが正義であり正解だから。


 だから、負けるなんて許されない。


 でもどうでもいいことには負けてもいいと思う。だってその負けの結果で自分が不幸にならないのなら、わざわざ頑張って勝つ必要などないのだから。


 物事の勝負事は最後に勝ってさえいればいい。別に最初は負けていい。最終的に勝ってさえいれば……。


「世の中は最後に勝ったやつが正義だ」


 だから俺は次の6月の試練は勝ちに行くつもりはない。


 これは最後に俺が勝つまでの物語だ。



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天才達が集まる高校で俺は普通の高校生活を送りたい〜〜〜でも送れないんです 柊オレオン @Megumen

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