(閑話:追完)サスペリア 2018Ver

 第3話でサスペリアの話を書いて、その後に見たものなので追完します。R5.2.16現在、アマゾンプライムで見放題です(いつも通り書いた時期と投稿する時期が違うので、今見れるかはわからない)。

 このルカ・グァダニーノ監督の映画はサスペリアの現代版リメイク、です。


 簡単なあらすじ。

 スージーは田舎を出て、女性ばかりのダンススクールに入る。


 賛否両論華々しい、カルト映画の金字塔サスペリアのリメイクです。

 金字塔といえばまあいろいろあるのだけれど、サスペリアのリメイクというのは極めてチャレンジャブルで困難性を秘めた試みである。

 何故ならば、何をどこまで残せば、何をどこまで削ればリメイクといえるのか、その判断が極めて難しい映画だからだ。サスペリアの面白さはストーリーにはない。その魅力の全てはダリオ・アルジェント監督の奇妙な脳髄発祥だからだ。つまり、徹頭徹尾感性全振りの映画である。

 そして作成された時から、時代感というものが随分と隔たってしまった。だから、ダリオ・アルジェント監督が当時の感性でセルフリメイクしたとしても、受け入れられる余地は少ないと思われる。女性感と社会感が現代と70年代では随分違ので。そう考えるとグァダニーノ監督はアルジェント監督同様、尖っている。


 それでこのリメイクは賛否両論だ。

 では、何が違って何が同じかというのを考えてみましょう。

 すなはち感性から解釈へ。


 前のサスペリアの感想でも書いたけれど、アルジェント監督のサスペリアはストーリー性など放置そっちのけで感性で殴ってくるタイプなので、気分やら感性があわないといまいちノリきれない。つまり凄えと思うかどうかはその時のノリと気分次第である。

 そう思えば、アルジェント監督が映画界にぶん投げた色音砲も、価値の多様化という壁に阻まれてしまうのかもしれない。


 そこにグァダニーノ監督が付け加えたものはストーリー性と世界観、つまり説得力なのだ。世界の歴史におけるこの話の位置づけ、魔女の存在基盤、メノナイトというマイナー宗教好きへのサービス。

 これらが複合して誰が見ても一定の『凄み』、つまりこの映画は何かすごい背景がある深い話なのではないかという想像を感じさせるところなのだ。けれどもこれが凄えと思うかどうかはその説得力にシンパシーを感じるかどうかなので、考えるな感じろでホラーを見ている人には小難しくて面白くない、かもしれない。

 しかも解釈がある程度観客に委ねられているので。というか考察厨ホイホイな映画なので、ミッドサマーとか好きな人は受けるやつである。

 なので、グァダニーノ監督はそれなりのゴアシーンというものは取り混ぜられてはいるけれど、アルジェント監督の凄みをその特色である色や音の鮮烈ではなく、深読みというもので補っている。

 そう考えれば、賛否両論はあるものの、正しく『現代版』リメイクだと思われるわけ。


 けれどもこの映画は、おそらくアルジェント監督のサスペリアを見て、その対比をすることを一定程度期待された作品、だと思う。だからグァダニーノ監督は新Verじゃなくてリメイクをしたんだと思うわけ。旧作を見ていなければ、ちょくちょくゴアのあるなんか暗いババァの下品なホラー、なのかもしれない。そこがきっと、アルジェント監督へのリスペクトなのだろうなと思う。

 一般受けしないと思うのはさ、アルジェント映画が題材にしたのは、いわゆる天に登るクラシック(作中のメインストーリーにダンスはあまり絡んでいないけど)なのに対して、グァダニーノ監督が題材にしたのは、地を這うコンテンポラリーなところだ。

 コンテンポラリーというのはダンス自体がテーマなわけで、見慣れてないと、正直意味がわからないと思う。迫力はあるんだけどさ。一方でクラシックはストーリー(大抵はメチャクチャなストーリーラインだけど)を前提としている。でもクラシックは暗い話とされるジゼルにしたって、綺麗な話が大半だ。

 けれどもこの映画には表層仮想的な美しさなど不要だ。なによりグァダニーノ監督はアルジェント監督と違って多分、ロリコンではない。だからこの架空の話に実体を混ぜこむには、思想を表現できるすコンテンポラリーにしたんだろうなという気はする。

 そんなわけで、一見小難しそうに見える映画だけれど、案外単純なのかなとは思う。


 最終的な映画の印象は『視聴者が深読みすることでリメイク性を補完する狂気的な映画』です。自称ホラー映画が好きな人は、合う合わないは別として、一度見ても良いと思う。

 一番驚いたのは、クレンペラーとマダムブランが同じティルダ・スウィントンだったこと。

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