虜囚の後日談
53. とある虜囚のその後
闇に沈む牢獄。そこに再び光が差した。
「アスタリーゼ様」
「おお、フィルダントか」
旧知の来訪者に牢獄の主は微かに笑みを浮かべた。それは、ほんの僅かな変化。だが、たしかな好転の兆し。
「僅かなりとも力を取り戻されたようで。我らも安堵しております」
「ああ。此度の紡ぎ手は、よくやってくれている。ありがたいことだ」
アスタリーゼはわずかに頷いた。
どうやら本当に力が戻っているようだとフィルダントは胸をなで下ろす。
「では、滅びは」
「幾ばくかの猶予はできたであろう。だが、それもわずかな時を稼いだにすぎない。滅びは避けられんよ。私がここに囚われている限りは」
「……左様ですか」
フィルダントの声に滲むのは落胆。旧主に訪れたわずかな好転の兆しも、彼女の頑な心を動かすには到らない。
「人とは愚かな存在です。貴方が彼らに付き合う必要はない」
「彼らにそうあれと願ったのは私だ。ならば、現状は私の願いの結果でもある。私にできることは、ともに滅んでやることくらいだ」
「そんなことは誰も望んでおりません」
「かもしれないな」
幾度となく繰り返された問答。二つの主張は此度も交わらない。
「紡ぎ手はどうなります」
フィルダントの問いに、アスタリーゼは顔を曇らせた。
「たしかに、彼を巻き込むのは忍びないが……」
それだけ言うと、アスタリーゼは黙り込んだ。
それは思わぬ反応。
世界に起きたわずかな変化。
どうやら、此度の紡ぎ手は思いの外、気に入られているらしい。
フィルダントは微かに期待した。
彼の者が紡ぐ物語の行く末が、どうか――……
魔本と異世界開拓! 不思議な本で呼び出す個性的なユニットたちとゆるっと暮らします!(ディルダーナ開拓記) 小龍ろん @dolphin025025
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