49. ゴブリンたちの拠点
「やったな、レイジ!」
「まさか、この数であれほどの軍勢を退けるなんてな!」
状況報告のために拠点へと戻ると、シリルとタックが興奮した様子で駆け寄ってきた。どうやら、彼らも大体の状況は把握しているみたい。
「うん。でも、まだ終わりじゃないよ。今度はこっちから攻めないと」
今回の戦いで、ゴブリン側の被害は大きい。今はブランに死体を吸収してもらっているところだけど、その数はおそらく200体以上になるだろう。それでも、襲撃してきた軍勢の20%には満たない。つまり、ゴブリンたちの戦力はまだまだ侮れないんだ。
さすがに、これほどの被害を受けた直後に再侵攻してくることはないと思う。だけど、将来的には十分に考えられる。ゴブリンは繁殖力に優れているそうだから、戦力回復にもそれほど時間はかからないだろうし。
それに、開拓地への襲撃を諦めてハズリル王国へと向かう可能性だってある。市壁のあるザッデルならある程度は持ちこたえることができるだろうけど、周辺の農村はそうもいかない。農地が荒らされれば、王国民の食糧事情も悪化するだろう。王国が滅びる、とまではいかなくても深刻な被害が出るのは間違いない。
そんな危険の芽をわざわざ残しておく理由はない。この機会にゴブリンたちを周辺から一掃するつもりだ。
「でも、大丈夫なの? 今回攻めてきたのが全部とは限らないんだよ」
「それに、拠点を攻めるとなると被害が大きくなると思うのだけど」
攻勢に出ることに不安げな表情を見せるのは、リムアとローザ。彼女たちも、反対しているわけじゃない。ただ、こっちは攻め手が少ないからね。単純に心配しているんだろう。
でも、正直、守るよりも攻める方が簡単なんだよね。開拓地の防壁は土と木で作ったものだから、耐久力が貧弱なんだ。数体の魔物が相手なら問題は無いけど、軍勢で押し寄せられると心許ない。だから、今回もあまり当てにせずにユニットたちは防壁の外で戦っていたわけだしね。
それに非戦闘員の守りを考えずに済む分、相手拠点に攻め入った方が自由に動ける。その上、こちらの戦力には夜目が利くユニットが多い。夜襲を仕掛ければかなり有利に立ち回れるんだ。
そういったことを説明すると、彼女たちも納得してくれたみたい。すでに敗走する軍勢のあとをキマとグレナにつけさせている。あれだけの数なら見失うことはないだろうから、ゴブリンたちの拠点もすぐに見つかるはずだ。
■
周囲より少し背の高い木を探して登った。目的は敵拠点の偵察。
少し先に樹海の切れ間があり、ゴブリンたちはそこを拠点にしているみたい。
少し距離があるけど、僕には単眼鏡がある。もちろん、ブランに資源交換で出してもらったものだ。ちなみに必要なポイントは木材1と石材5。どうやらガラスは石材扱いみたい。石材さえ集めれば窓ガラスも作れそうだね。
単眼鏡の拡大率はそれほど高くはないけど、様子を探るには十分だ。どうやら、ゴブリンたちは朽ちた遺跡を住処としているらしい。彼らの拠点には、苔生し崩れ落ちた石造りの建物が幾つも立ち並んでいた。
ただ、ちょっと不思議なんだよね。石レンガを積み重ねて作ったような建物ではないんだ。大きな石から板状に切り出したみたいに、石壁の表面がツルンとして見える。遠目だから継ぎ目が見えないのか、それとも石ではない別の素材なのか。単純に昔の建物って感じじゃないのは確かだ。
「古代文明の都市、とかかな?」
『そうかもしれませんね。私の知識にはありませんが……』
ブランはディルダーナ大樹海についての知識を一通り持っているようだけど、その彼女でさえ遺跡についてはわからないらしい。シリルたちも遺跡があるなんて言っていなかったし、一般的に認知されていない場所みたいだ。
忘れられた古代都市なんてちょっと浪漫があるよね。調査してみたいけど、そのためにもまずはゴブリンたちを排除しなくてはならない。
ゴブリンの軍勢を撃退してから、五日。キマとグレナが敗軍を追跡し、その後を僕たちも追うという形でついにゴブリンたちの拠点を突き止めた。それが、この場所だ。
拠点の規模から考えると、ゴブリンたちは戦闘員をほぼ総動員して開拓地を攻めてきたみたい。敗走中にはぐれたゴブリンもいるから、この拠点で戦える者たちも1000はいないだろうね。
僕が引き連れてきたのは猫人15人に探索猫4人、そしてトラキチだ。格闘熊三人衆と巨象は拠点でお留守番。防衛戦力は必要だし、体の大きな彼らは奇襲には不向きだ。特に巨象なんて連れていたら追跡していることがバレバレだからね。
遺跡は途中から森に飲まれているので、全貌は掴めない。ゴブリンたちが居住区としているのは、限られた区域だけみたいだ。一部のゴブリンが比較的原型を留めている建物を、木材で補修して使っている。とはいえ、まともに残っている建物は少ないから、大半のゴブリンは野外で生活しているみたい。
「建物に住んでるのが、偉いゴブリンなのかな?」
『その可能性は高そうですね』
指揮官も一般兵も見た目には判断がつかないけど、建物に済んでいるゴブリンが指揮官なのだとしたら優先して倒した方がいいかもしれない。まともに統率が取れなくなれば、殲滅作戦もスムーズに事が運ぶだろうから。
まあ、最終的にはゴブリンたちは根絶やしにするつもりだけど。非戦闘員だろうと、子供だろうと関係ない。開拓地とハズリル王国の安全のために、ゴブリンたちは完全に排除する。
元の世界にいた頃の僕だったら考えられないほどに好戦的な考え方だ。いや、冷徹と言った方がいいかもしれない。
転移して以来、精神構造が少し変わってしまったように思える。冷静……とはちょっと違うけど、物事にあまり動揺しなくなった。おそらく、怠惰な神様が何か僕の精神に細工をしたんだと思う。きっと樹海での生活に適応できるように。
まあ、どうせ物語の序盤に主人公が死んでしまったらおもしろくないから、とかいう理由だろうけどね。だから、大袈裟に感謝したりはしない。
でも、そのおかげでゴブリンの殲滅に躊躇せずにいられる。開拓地のみんなを守れるんだ。だとしたら、少しくらいは……今日くらいは感謝してあげよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます