45. 開拓村の発展

 水路を作った翌日。ラグダンさんとシリルたちは一旦戻ることにしたみたいだ。


「レイジさんのお陰ですぐにでもギルドの活動が始められそうですよ。ゴブリンへの対応もありますから、何組かの冒険者たちに声を掛けて戻ってきますね」


 出立前にラグダンさんがそう約束してくれた。シリルたちも知り合いに声を掛けて戻ってくるつもりみたい。ありがたいことだよね。


 ただ、ちょっと気になることもあるんだよね。ザッデルから開拓村に戻ってくるときに遭遇したゴブリンたちは10体以上の群れだった。僕が不在時にも猫人部隊が何度もゴブリンを撃退しているらしいんだけど、少しずつ数や頻度が増えていったみたい。さすがに、ゴブリンたちも警戒を強めているんだと思う。


 そういうわけで、シリルたちだけでザッデルに帰すのはちょっと不安。なので、アーニャ隊を護衛につけた。シリルとアーニャ隊が協力すればゴブリンの数が多くても、対応できるはずだ。


 シリルたちが出発してしまったので、宿屋としては仕事がなくなってしまう。とはいえ、今のうちにやっておいた方がいいことは色々とあるんだけどね。


「宿屋のメニューをある程度決めておこうか」


 手始めに、提供する食事メニューを決める会議を開催することにした。

 調理担当はウェンダとモルエルたち数人の鼠人。料理の経験はあっても、プロというわけじゃないから、数品に絞った方がいいだろうね。


「菓子パンは外せんのぅ……。あとは焼きプリンじゃ」


 相談役と言うことで出席していたモルドさんが、調理担当の面々に先駆けて主張した。自発的に意見を言ってくれる人がいると会議が活発化するのでありがたいんだけど、完全にモルドさんの好みの話になってるよね。


「菓子パンと焼きプリンを出すとなると、かなりの金額になりますよ」

「まあ、そうじゃの。じゃが、冒険者もたまの贅沢くらいしたいじゃろ。そういうときのオプションメニューとしてどうじゃ」


 焼きプリンはデイアルバン商会に一個ブリア銀貨五枚で卸している。宿屋で提供するにしても、その価格から大きく下回る値段をつけるわけにもいかない。まあ、モルドさんの言うとおり、オプションメニューならば考える余地はありそうだね。問題は僕がいないときには出せないことだけど……まあ僕がいるとき限定のメニューとしておけばいいか。


「オプションということなら提供できますけど、まずは基本メニューを決めないと。ウェンダは提供できそうなメニューってある?」

「一応、幾つか作ってみましたけど、なにぶん初めて見る食材も多いのでなかなか難しいです」


 今、サンファが育てているのはトマトや大根といった元の世界の野菜。僕にとっては馴染みがあるけど、ウェンダにとっては未知の食材だ。当然、調理法も手探り。一応、知っている料理は教えたけど、僕もそれほど詳しくないからね。彼女たちも積極的にメニュー開発を頑張っているけど、すぐに成果が出るようなものでもない。


「ブラン。レシピ本とか出せないの?」

『残念ながら制限がかかっていますね。開拓スコアが増えれば解放されるのでは無いでしょうか』


 残念ながら、現状では資源交換で書籍を手に入れることはできないみたい。レシピ本があれば手っ取り早くメニューを増やせると思ったのにね。


 ただ、制限がかかっているだけで不可能というわけじゃないようだ。開拓を進めていけば、いずれ機能も解放されるだろう。


 まあ、今のところはウェンダたちに任せるしかない。幾つか考えているというメニューも作ってもらったけれど、悪くはなさそうだ。そもそも、サンファが育てている野菜類は地球で品種改良が進んだものみたいだから、この世界の似たような野菜よりも質がいいんだよね。それに、ポイント交換で調味料は豊富に手に入る。それだけでもこの世界ではかなり有利だ。


「味のアドバイスなら儂に任せるといい。これでも、若い頃は他国まで行商に出て、色々な物を食べた経験があるんじゃ。値段を含めて総合的なアドバイスができるはずじゃ」


 ニヤリと笑みを浮かべてモルドさんがアドバイザー……という名目の味見役に立候補した。相談役だからおかしくはないんだけど、なんとなく食道楽の本領が発揮されただけな気がする。とはいえ、メニュー開発には得がたい資質だし、商人でもあるので儲けを度外視することもないはず。確かに、適任だよね。


 メニュー開発はモルドさんとウェンダたちに任せて、僕はサンファの畑へと足を向けた。

畑仕事はサンファがメインで、ミアとルドが手伝っているという形だけど、今日はウェンダ以外のヒッグス一家も一緒に働いているね。ルドはパルロとポリィと仲良くなったみたいで、はしゃぎながら仕事について教えてあげている。


「収穫は順調みたいだね」

「ああ、レイジさん。順調ですよ。この魔法の薬のお陰ですぐに収獲できますからね」


 声を掛けると、一生懸命にトマトを収穫していたミアが答えた。


 サンファの指示で、農作物は数日に一度収穫できるくらいに調整されている。そんなことができるのも植物成長促進剤と魔法の肥やしのおかげだ。多少作りすぎても、食料ポイントに変換できるから無駄にはならないんだけどね。


 野菜畑の隣には薬草園もある。生えている薬草の種類は多くない。成長が速くて、ポイント交換率の高い薬草を選んで植えてあるんだ。薬草を調合するわけじゃなくてポイント交換して石鹸やシャンプーを交換するために育てているだけだからね。


 それでも一種類に絞らなかったのは、全滅のリスクを下げるためだ。何らかの理由によって生育環境が変化してしまった場合でも、複数種を育てていれば幾つかは環境に適合できるかもしれないからね。まあ、その辺りのことはサンファに任せておけば問題ない。


 畑の方も順調みたいだ。開拓地も順調に発展しているね。

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