44. 水路づくり

 宿屋はお客を迎えるにあたって最低限の機能は備わっていた。ベッドは羽毛布団でふかふかだし、個室はちゃんと鍵もかかる。調理関連はウェンダを中心に、料理のできる鼠人が手伝いにはいることになった。メニューはおいおい考えていこう。


 昨日は早速のお客様を迎えた。と言っても、シリルたちとラグダンさんのことだけど。評判は悪くないみたい。今回の宿泊費は無料にしておいたけど、次回以降はブリア銀貨二枚と考えている。ザッデルにはもっと安い宿屋もあるけど、部屋の質と樹海という立地を考えれば高くはないはず。少なくとも樹海の中層を探索できるほどの冒険者ならば、この額で渋ることはないだろう。


 宿屋とギルドの区画も、昨日のうちにぐるりと防壁で囲んでおいた。相変わらず木と土でできた壁だから耐久性はそれほどでもないけど。


 開拓地の人口も増えたので、それを支えるユニットも増やしたいところだ。とりあえず、料理人として仕事も増えた鼠人を五体増員した。あと、宿屋のトイレの住人としてスライムも一体必要だ。六体増えて、現状のユニット総数は47体。上限が50なので、かなりギリギリだ。開拓スコアを獲得していけばユニット数の制限も少しずつ緩和されていくと思っているけど、そうでなければちょっと困ったことになりそうだ。


 あと、問題となるのは飲み水。ミアたちと三人で過ごしていたときなら、フェアの出してくれる水で十分賄えていたけれど、人が増えるとそれも難しくなる。その対策も必要だ。新しく妖精ユニットを呼び出す手もあるけど、今回考えてるのは別の手段。


「というわけで、湧水の祭壇を作ろう!」


 例の水が無限に湧き出すという魔道具を設置するつもりだ。設置にマナポイントが1000必要だけど、その後は維持にマナが1必要となるだけ。将来を考えると、どのみち必要となるだろうから、早めに設置しておいた方がいいだろう。


 必要なマナは既に確保してある。僕が不在の間にも猫人部隊は魔物を狩ってくれていたからね。ブランが不在で魔物の死骸を取り込むことはできなかったけれど、魔石はきちんと確保してくれていたんだ。昨日のうちに、その全てを吸収したので湧水の祭壇を生成しても問題はない。


『どこに出しますか? 動かせなくはないですが、それなりに大きいのできっちりと場所を選んだ方がいいですよ』


 おっと、危ないところだった。ブランに出してもらってから設置場所を考えようと思っていたけど、そういうことなら予め決めておいた方が良さそうだ。

 どこがいいかな。貴重な魔道具だし、冒険者たちが出入りする場所は避けた方がいいだろうね。


「やっぱり、この区画かな」


 今、僕がいるのは自分の屋敷を出たすぐのところ。とりあえず、この防壁の内側の土地は僕らの敷地とするつもりだ。部外者は立ち入り禁止にするから、設置場所としてはちょうどいいと思う。

 東側にはサンファの農地があるから、西側の隅にでも設置することにしよう。宿屋方面にも水路を延ばしやすいしね。


「ブラン、この辺りを石造りの貯水槽にしよう。その中心に祭壇を設置するってことで。あと、西側に水路を延ばそうか」

『水路も石造りですよね。土に埋めますか?』

「そうしようか」


 ブランと相談しながら、水路の構造を考えていく。人が増えた場合の拡張性とかも考えたんだけど、結局はシンプルな構造にした。人が増えたら、そのときに作り直せばいいかと思って。ブランの吸い込みと製造能力があれば、拡張工事も比較的簡単だからね。


『じゃあ、いきますよ!』


 ブランがまず作ったのは、庭の貯水槽。円形だから、貯水槽というより噴水みたいだ。中央に台座と水瓶を傾けた女性の像が置いてある。これが、湧水の祭壇らしい。

 そのあと、ブランが西側にむかって飛び立った。水路を冒険者ギルドの区画まで伸ばすんだ。土を吸収した後、適度に埋め戻し、石の水路を設置した後、完全に土で覆う。実際に作業するとなると大変なんだろうけど、ブランなら数秒で終わらせることができる。


 ブランが一旦止まったのは、宿屋の隣の空間。そこに宿屋用の貯水槽を作った。そして、さらに西まで水路をつなげていく。貯水槽から溢れた水はこの水路を通って、最終的には冒険者ギルド区画の更に外側に掘ったため池に流すんだ。ため池は地面がそのまま露出しているから、水も大地に染みこんで、それほど溜まりはしない……んじゃないかな、たぶん。


『できましたよ。さっそく祭壇を稼働させますか?』

「あ、それなら祭壇に戻ろう!」


 湧水の祭壇は、ブランに言えば水の湧き出しを制御できるみたい。フル稼働させても、完全に止めても、維持コストのマナポイントは1固定らしいけどね。


 祭壇まで戻ったところで、ブランに水の生成を指示する。すると、すぐに像が持つ水瓶から、水が噴き出し始めた。その勢いは思ったよりも激しい。だばだばと流れる水は貯水槽で受け止められ、水路を伝って西側へも流れているみたいだ。


 宿屋の方の貯水槽も確認してみると、そちらにもちゃんと水が溜まっている。というか、この分だとすぐに溢れてしまいそうだ。


「水量を弱めよう。10分の1くらいでいいかもしれない」

『そうですね。そうしておきます』


 これで水に関してはだいぶ余裕ができそうだ。現状が10分の1の水量で対応できるので、少なくともあと10倍は人が増えても大丈夫だね。


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異世界三十六日目朝


食料pt:312

木材pt:21370.1(建物で消費&伐採により補填)

金属pt:25.8(購入した鉄製品を一部吸収)

土材pt:たくさん

石材pt:1.5(水路で消費)

薬効pt:16.2

植物pt:1559.3(留守番鼠人たちの成果)

動物pt:345

マナpt:316(魔石吸収&湧水の祭壇で消費)

旧神pt:2


住人:8

ユニット:47

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