43. これが魔本使いの実力

 開拓地に名前がついて、僕のやる気はぐんぐん上昇している。この勢いに任せて開拓地のグレードアップを計ろうと思う。まずは、冒険者ギルドだね。


 ラグダンさんに声を掛けて、防壁の西側へと向かう。


「ラグダンさん、冒険者ギルドにはこっちの土地を使おうと思います。問題ないですか?」

「はい、構いません。これだけ整地されているなら、すぐにでも建設に取りかかれそうですね」

「はい。すぐにできあがりますよ」


 ラグダンさんの同意は得られた。なので、さっさと建ててしまおう。


「ブラン、ここに冒険者ギルドを建てるよ。構造はザッデルのギルドと同じ感じにできる?」

『一部の素材が土材か木材に置き換わりますが、問題ありません。ポイントは土材3000と木材3000になります』

「了解。じゃあ、それでお願い」


 ザッデルの冒険者ギルドは二階建てだったけど、問題なく再現できるみたい。ブランがギルド建設予定地の上空にプカリと浮かび上がる。


「あの、何を……?」

「え? 冒険者ギルドを建てるんですよ」

「はぁ?」


 ラグダンさんはまだピンときていないみたい。もしかして、地道に建てるつもりだったのかな。そんなことしたら、大工さんを呼ぶ必要もあるし大変だ。そんな気の長い話には付き合っていられない。


『ではいきます!』


 ブランの宣言の直後、ポンというコミカルな音が響く。地面から生えたミニチュアサイズの建物がみるみるうちに巨大化して、数秒後には立派な建物に早変わりだ。


「うわ、なんですか!?」


 隣にいたラグダンさんは驚いた拍子に転んでしまったみたい。目の前まで建物の壁が迫ってきたからね。僕は以前に経験していたから平気だったけど。危険があるなら、ブランは事前に警告してくれるし。


「おい、こりぁ……、ギルドじゃないか。レイジがやったのが?」

「うん、そうだよ」

「レイジって、こんなことまでできたんだね……」


 冒険者ギルドができあがったことに気がついて、みんなが集まってきた。シリルとリムアが驚いた顔で建物を見上げている。でも、何をそんなに驚いているんだろう。


「え? ここに来る途中でも、壁増やしてたりしてたじゃない」

「規模が違うだろ……。いや、レイジにとっては変わらないのかもしれないけど……」

「ああ、そっか。僕自身の労力は変わらないんだよ。もちろん、作るための資源の量は違うんだけど……」


 そういえばブランの能力をちゃんと説明していなかった。ミアとルドは知っているはずだけど、他のみんなにも説明しておこう。


「……なるほど。作るのに時間はかからねえが、作る物によって相応の資源を消費するわけか。だとしても、凄まじい力だが。魔本っていうのはすげえんだなぁ」


 説明を聞いたタックが感心したような声で呟く。他の人達もブランの凄さに感じ入ってるみたい。


 うんうん。ようやく分かってもらえそうだ。凄いのはブランであって、僕じゃないからね。そこのところは勘違いしないで欲しい。


 よし、この調子で宿屋も建てよう。参考になりそうなのはザッデルの宿屋しかないね。ブリア銀貨五枚のちょっとお高い宿屋だけど、安宿を参考にするよりはいいか。厩舎はとりあえずいらないかな。必要になったときに建てればいいでしょう。


『ベッドまで含めて生成しますか? 植物ポイントや動物ポイントを使いますが』

「それじゃあ、お願い」

『了解です』


 ブランに頼むと、さっきと同じように宿屋もあっという間にできあがった。ギルドもあるし、宿屋もある。これで冒険者が来ても対応できるね。


「おい、レイジ!」

「何? どうしたの、タック」

「どうしたのじゃねえよ! 建物を作るには相応の資源が必要じゃなかったのか?」

「ああ、うん。でも、ここを切り開くときに確保した木材があるから、同じ規模の建物なら、あと五、六棟は建てられるよ」

「……マジかよ」


 タックだけじゃなくて、みんな唖然としている。どうも認識の齟齬があったみたいだね。

齟齬の原因となったのは「相応の資源」という言葉だ。タックはこれだけの奇跡を引き起こすに相応しいほどの資源と認識したみたい。要は、早くできて便利だけど、通常より資源を消費すると解釈したんだって。


 でも、実際のところ、普通に建築した場合と大差ないくらいの資源量しか消費しないんだよね。いや、ひょっとしたら普通に建てるより少ないかもしれない。


 だいぶ慣れてきちゃったけど、やっぱり凄い能力だよね。さすが、ブランだ。神器だけあるね。創造主はちょっと微妙だけど。


「レイジさん、本当に凄い人なんですね……」

「魔本の力は所有者の能力に依存するそうじゃ。レイジは相当な素養を持っておるんじゃろうなぁ。まあ、レイジの焼きプリンを食べたときから感づいておったがのぅ」

「攻撃系の魔道具もそうなんですよ。使い手の威力に依存するんです。謙遜してましたが、あれほどの威力の雷撃を放つレイジさんの魔力はおそらく私などでは及びもつかないほどです」


 あ、あれ?

 全部、「ブランが凄い!」で押し通そうと思っていたのに、僕が過剰評価される流れになってる!


 普通の魔本とか魔道具とかよく知らなかったから調子に乗っちゃったけど、どうも所有者の能力に依存するみたいだね。道理できちんと説明しても、謙遜したみたいな扱いになるわけだよ。


 ブランはそもそも魔本じゃないし、雷撃の杖もマナポイントを充填して放つから威力が固定されているんだよね。本人は大したことがないのに、専用装備が強いだけで過剰に評価されるとむずむずしちゃう。


「よ、よーし。宿屋を案内しようかな! ヒッグスたちはついてきてよ!」


 とりあえず、この場は逃げてしまおう。いやいや、宿屋がちゃんとできているか確認するのは重要だからね!

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