42. 開拓村ジーレマクサ

 召喚師はともかく、大魔道士という誤解はまずい。僕自身に戦闘能力はないのに、戦闘面で期待されちゃ困るんだよね。一応、道具のお陰だと言うことは伝えたんだけど、どうも謙遜として受け取られている気がする。


 残念ながら誤解を解く間もなく拠点の防壁が見えてきた。


「おお、これほどまでに開拓が進んでいるとはのぅ!」

「さすがレイジ殿ですね!」


 拠点周辺は見晴らしを良くするために伐採と整地は済ませてある。モルドさんとラグダンさんがその広さを見て驚いているようだ。いや、驚きはシリルたちの方が大きいかもしれない。


「俺たちが以前来たときには、壁近くまで木が生えてたよな?」

「この短期間で、これだけ切り開いたの? すごいね……」


 以前を知るからこその驚きだ。あのときは鼠人も三人しかいなかったからね。今は十五人もいるから、そっちにも驚くかもしれない。


「お帰りなさい。レイジさん」

「兄様、お帰り!」


 門を開き防壁の中に入ると、そこではミアたちが出迎えてくれた。たぶん、ユニットの誰かが僕たちの接近に気がついて知らせてくれたんだと思う。


 それにしても、まさか異世界でお帰りなさいと言ってもらえるとは思わなかった。

 不思議と暖かい気持ちになってくる。異世界ではあるけど、ここは確かに僕の家なんだなと改めて感じた。


「ただいま、二人とも。何か変わったことはなかった?」

「はい、大丈夫です。みんなが頑張ってくれたので危険もありませんでしたよ」

「お野菜作ったよ! 僕も手伝ったんだ!」

「あはは。ありがとうね、ルド」


 ちょっと想定よりも長く家を空けたから、心配だったけど何事もなかったみたい。


「それで、そちらは?」

「ああ、今から紹介するね」


 まず、ミアとルドを他のみんなに紹介。「お帰り」と言ってもらえたことがうれしくて、二人のことは家族として紹介してしまった。ミアは驚いたみたいだけど、特に何も言わなかった。ルドは、ニコニコと喜んでいる。だから構わないよね。今日からミアは妹でルドは弟だ。


 次に、今回引き連れてきた同行者をミアたちに紹介する。


「まずは、冒険者ギルドの関係者だね。シリルたちは覚えてるよね?」

「はい。以前、こちらに来られた方たちですよね」

「ああ。また会ったな、お嬢ちゃんたち」


 シリルたちとは、彼らが以前訪れたときにわずかだけど顔を合わせている。お互いに簡単な挨拶を交わした程度で紹介は終わった。


「で、こちらはラグダンさん」

「ミアさんにルドさんですね。ラグダンです。よろしくお願いします」


 ラグダンさんは、ミアとルド相手にきっちりとしたお辞儀で挨拶を交わした。子供への挨拶にしてはかなり丁寧な気がする。二人が元貴族だってわかったのかな? それとも別の理由?


 よくわからないけど雑に扱われよりはよほどいいので、とりあえず説明を続ける。と言っても詳しく話していると時間がかかるので、冒険者ギルドの支部を設立するつもりだと簡単に説明しておいた。


「モルドさんはザッデルにある商会の前会長だよ。将来的にはここに支店を作る予定だけど、とりあえずは相談役として働いてもらうことになってるんだ。あ、欲しいものがあればモルドさんに言えばなんとかしてくれるかも?」

「よろしくのぅ。孫がレイジ君と取引するつもりじゃから、欲しいものがあれば気軽に申しつけてくれて構わんからの。まあ、取り寄せるのにそれなりに時間はかかるんじゃが」


 ラグダンさんと違ってモルドさんは気安い感じの挨拶だ。これなら二人ともすぐに打ち解けるだろう。


「最後に、ヒッグス、ウェンダ、パルロ、ポリィの四人は開拓地に移住してくれる一家だよ。冒険者向けの宿屋をやってもらうつもりなんだ」

「よろしくお願いします、ミア様、ルド様」

「あっ……、ミアたちにも様付けはいらないよ。それでいいよね?」

「もちろんです。こちらからもよろしくお願いします。ヒッグスさん」


 ヒッグスの挨拶はちょっと硬い。家族と紹介したせいか、ミアとルドを様付けだ。

 雇用契約上、僕は主人ではあるんだけど、もっと気安い感じでいいんだけどな。モルドさんくらい砕けてくれた方が、僕としては話しやすい。せめて、店長と従業員くらいにならないかな。まあ、それはおいおい変えていこうか。


 人間のあとにはユニットの紹介もしておく。じゃないと、魔物と間違えられてしまうかもしれないからね。特に、サンファとライムは要注意だ。


「す、すごい数ですね……」

「従魔が農業をするのか……!?」

「召喚で呼んだ従魔だもの。普通の従魔とは違うってことね」


 タンサとクシャを加えると、ユニットは全部で41体。鼠人や猫人は勢揃いとは行かないけど、この場に呼んだユニットだけでもかなりの数がいる。みんなは、その数に驚いているようだ。


 まあ、開拓地に住んでたらすぐに慣れると思う。少なくとも、ミアとルドは何事もないかのように受け入れているからね。すぐに気にならなくなるさ。


 さて、これで各人の紹介は終わった……と思ったところで、ラグダンさんに尋ねてきた。


「ところで、レイジさん。この開拓村は何という名前なんでしょうか?」


 おお、そうか。ここはもう僕らの拠点というだけじゃない。まだ規模は小さいけど、れっきとした開拓村なんだ。そして僕がそのトップ。つまり村長というわけだね。その最初の仕事が、村の名前を決めることになりそうだ。


 でも、名前か。僕、名前をつけるのって苦手なんだよね。何かわかりやすくて格好いい名前はないかな。


 ……駄目だ。思いつかない。

 仕方が無いから僕の名前を逆さにしてっと。


「そうですね……では、ジーレマクサという名前にしておきます」

「ジーレマクサですね。わかりました!」


 よし。凄く適当な名前だけど、ラグダンさんを含めて、誰もおかしな名前とは思ってないようだ。由来を聞かれたらどうしようかと思ったけど、あっさり受け入れられたみたい。良かった。


 とにかく、今日からこの開拓地はジーレマクサだ。新しい住人も増えたし、ギルドの誘致も進んでいる。神様から押しつけられた役割とは言え、僕自身も樹海の開拓が楽しくなってきた。


 よし、このまま開拓を進めて、ジーレマクサを大きな都市へと発展させていくぞ!

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