41. 召喚士にして大魔術師
同行者はシリルたちと、冒険者ギルド職員のラグダンさん、それにモルドさんとヒッグス一家だ。なかなかの大所帯だね。パルロとポリィの歩きに合わせると移動が遅くなるので、二人にはトラキチに乗ってもらうことにした。彼らがすごいとはしゃぐ声を聞いて、トラキチもまんざらではないみたい。
グレナも「いいなー」と鳴いている。どうやら、グレナも人を乗せて歩きたいらしい。だけど、さすがに普通の猫サイズの彼では子供だとしても乗せて歩くのは無理だ。諦めてもらうしかない。
子供を乗せたまま戦わせるわけにはいかないので、トラキチの代わりの戦力として、素体なしの“気まぐれな探索者”を追加で二体呼び出しておいた。名前はタンサとクシャだ。
「従魔師って新たな従魔を呼び出したりできるのか……?」
「いいえ。そんな話は聞いたことがないけど……」
「そもそも、従魔って魔物なんかを従えたものなんだよね? あんな魔物見たことがある?」
「魔物の種類に詳しいというわけじゃないが、レイジの従魔はみんな魔物っぽくないよなぁ。基本的に緩い」
タンサとクシャを呼び出したことで、シリルたちから従魔師であることを疑われてしまった。そりゃそうだ。従魔師じゃないからね。とりあえず、僕は召喚師ということにしておいた。そんな存在がいるのかどうか知らないけど、みんな納得していたから問題ない。大丈夫、大丈夫。
道のりは順調。野営地には僕が行きに整備した場所を使う。土壁があるから休むにはちょうどいい。さすがに人数が多いからちょっと手狭なので、拡張の必要はあったけどね。
「いや、さすがですね! これなら樹海の開拓が成功するのも頷ける。支部設立もうまくいきそうです!」
ブランに指示して壁を増やしていたら、ラグダンさんがご機嫌な様子で話しかけてきた。出発日はかなり不安そうにしていたのだけど、道中の魔物をキマたち猫部隊が軽々と倒すのを見て安心できたみたい。支部設立にも前向きなので、僕としては非常に助かる。できるだけのサポートはしてあげよう。
「レイジが作り出す食べ物はパンまで美味いんじゃのぅ! 今度、ミサンにも自慢してやろう!」
夕食時にはいつものように菓子パンを提供した。これにモルドさんは大喜びだ。モルドさんは食道楽の気配がするね。開拓地に商会の支部を出すというのも、商売が理由ではなく、僕の出す食べ物が狙いなんじゃないかという気がしてきた。
ヒッグス一家はもう慣れているからか驚きはしないけど、みんな美味しそうにパンを食べている。開拓地は何もないところだけど、食事は僕が色々と出せるから、それが少しでも楽しみにつながればいいね。
「美味いな、このパン!」
「私たちが食べてもいいのかな……?」
菓子パンはシリルたちやラグダンさんにも好評だ。リムアなんか、高級品だと思って少しおどおどしている。値付けしだいだけど、焼きプリンの値段を考えれば菓子パンもそこそこ高級品の位置づけにはなるのかな。いや、開拓地の宿屋で安めに提供することで、冒険者を集める方針もいいかもしれないね。
拠点が近づいてきたころ、ゲヘゲヘと不快な笑い声が聞こえてきた。ゴブリンだ。幸いなことに、まだこちらには気がついていないみたい。休憩でもしているのか、ゴブリンたちは輪になって、がやがやと騒ぎ立てている。
「数が多いな……」
シリルが呻くように呟いた。
草木が邪魔で正確な数は把握できないけど、少なくとも10体以上はいそうだ。猫部隊だけだと、ちょっと荷が重いかもしれない。
「ごめん、ちょっとだけ降りてくれるかな?」
「うん……」
最大戦力のトラキチを自由にするために、パルロとポリィには一旦降りてもらう。二人は素直に従ってくれたけど、その表情には不安が浮かんでいる。まあ、無理もないね。大人たちも似たような表情だから。
「大丈夫だよ。トラキチはすごく強いからね」
そう言って二人の頭を撫でてあげたら、少しだけ安心したみたい。ちょっとだけ笑顔になって、両親の元へと駆け寄っていった。
「どうする?」
「僕たちで倒すよ。シリルたちは、もしものために他の人を護衛して貰えるかな」
「……レイジがそういうなら任せるが、無理はするなよ」
シリルが心配げに声をかけてくれるけど、正直、この程度、トラキチがいればどうってことない。
「トラキチ、キマ、グレナは右側からお願い。僕が雷撃を放ったら、襲いかかって。タンサ、クシャは僕の護衛だよ」
僕の指示にトラキチたちが一斉に「ニャー」と返事をした。みんな気合い十分だ。
トラキチたちが右手に回り込んだのを確認したあと、僕も行動を開始する。木々に隠れて距離を詰め、一番近くのゴブリンに雷撃の杖を向けた。
迸る雷はゴブリンを容易く屠る。ゴブリンたちは何が起こったのかわからず、茫然としているみたいだ。トラキチたちがその隙を見逃すはずもなく、鋭い爪がゴブリンたちに襲いかかった。ゴブリンたちも慌てて迎え撃つけど、浮き足だってまともに対応できていない。この隙に僕が雷撃の二射目を放つ。
ゴブリンたちはパニック状態だ。雷撃を放つ僕へと対応しようにも、背後を見せればトラキチたちに優先的に攻撃されてしまう。結局、まともな反撃を許さずに、僕らはゴブリンを一方的に殲滅することができた。それはいいんだけど……。
「大型従魔だけでなく、小型従魔も十分に強いな……!」
「召喚師って、あのレベルの従魔を簡単に呼び出せるの……?」
「あんな高威力の魔法を詠唱もなしに使えるなんて」
「魔法まで大魔道士レベルなのか……。底の知れない奴だな」
まずい! なんだか、僕の評価がますます上がっている……!
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