40. 住人ゲットです

 さて、モルドさんが移住を決めてくれたのは良かったけど、現状では開拓地にお店もなければ、お客が来るかどうかも怪しい。なので、しばらくは開拓地の相談役として働いてもらうことになった。開拓地に何が必要か、どうやって人を集めれば良いのか。そういったことを相談できるのは大きい。報酬としては、衣食住の保証および一日に焼きプリン一つだ。安上がり……と思ったけど、焼きプリンの売値はブリア銀貨5枚分。これは一日の稼ぎとしては結構多いみたい。モルドさんレベルとなると、もっと稼ぐのかもしれないけど、そこまで薄給というわけでもなかった。


 で、早速、相談役のお仕事です。


「ほほぅ。稼いだ金で奴隷を買うつもりなのか。儂のような酔狂な人間は少ないじゃろうから、それが確実かのぅ。じゃが、一つだけ、儂に心当たりがあるんじゃ。そちらに声を掛けてみてもいいかの?」


 商品については既に納品済み。大商会だけあって、ブリア金貨五十枚という大金も即金で支払われている。今はその使い道について説明しているところだ。人を増やすにあたって、まず奴隷を買うということ自体にはモルドさんも異論がないみたい。たけど、モルドさんには別案があるようだ。


 モルドさんも支店を作る以上、開拓地の発展を望んでいるはず。おかしな人材を紹介することはないだろう。そう思って僕はモルドさんの提案を受け入れることにした。


 翌日、僕はモルドさんと一緒に、心当たりとやらに会いに行く。


「ようこそ、おいでくださいました。私はヒッグス。そして妻のウェンダに息子のパルロと娘のポリィです」


 少し大きめの家出僕らを迎えてくれたのはヒッグスさん一家。ヒッグスさんもウェンダさんもまだ若く、おそらく二十代の半ばくらいだろう。パルロとポリィはルドと同じくらいの年頃に見える。彼らが、モルドさんの言う心当たりだそうだ。


「レイジです。よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ。早速、お話に入らせていただきますが、レイジさんは私どもの借金を肩代わりしてくださるとか」


 ヒッグスさんは元商人なんだけど、少し前に事業に失敗……というか盗賊被害にあって大きめの借金を背負っているみたい。そのときに割とたちの悪い金貸しからお金を借りてしまったようだ。返済が滞れば、ヒッグスさんたちは借金奴隷にならざるを得ない状況らしい。


 ヒッグスさんの借金はブリア金貨三十枚近く。これを僕が肩代わりする代わりに、ヒッグスさん一家が開拓地に移住してくれるという話になっているんだ。奴隷を買うよりも安いし、何より住人が一気に四人も増える。僕にとってはありがたいことだ。


「僕の方は問題ないですけど……ヒッグスさんたちはいいんですか? 樹海に住むことになってしまいますけど」


 奴隷落ちを回避するためとはいえ、なかなか思い切った決断だ。それくらいならモルドさんにお金を借りるなりして、借金の返済すればいいと思うんだけど。


 僕の疑問に答えてくれたのは、モルドさんだった。


「ヒッグスに金を貸した連中はろくな奴じゃなくてのぅ。金を返しても難癖をつけて更にむしり取ろうとしてくるじゃろう。じゃから、樹海への移住を進めたんじゃ。無法者に怯えながら街で暮らすよりも、魔本使いの凄腕従魔師が守る開拓地の方が安全じゃろうからのぅ」


 魔本使いの凄腕従魔師……一体誰ですか?

 いや、僕のことなのは分かっているけどね。過剰な評価にちょっと戸惑ってしまう。


 とはいえ、そのくらいに思われていた方がヒッグスさん一家も安心できるだろう。否定したい気持ちをぐっと飲み込んで、笑顔を浮かべておく。大丈夫。拠点周りの安全くらいは保証できるつもりだ。


「私どもに異存はございません」

「よろしくお願いします」


 ヒッグスさんとウェンダさんがそう言って頭を下げたので、僕も「よろしく」と頭を下げた。とりあえず、ヒッグスさんたちは僕が雇った使用人という位置づけになる。肩代わりした借金は給与から天引き……だけど、そもそも開拓地にお金を使う機会はないから給与の意味がないんだよね。とりあえず、衣食住だけはしっかりと保証することにしよう。


 金貸しへの返済は僕らが出発した後、デイアルバン商会が代行してくれることになった。出発前に変な横やりを入れられると困るからね。それと、出発日までの間、ヒッグスさんの家でお世話になることにする。僕は宿屋代が浮くし、トラキチという抑止力があれば金貸し連中が暴挙に出ることもないだろう。


 その数日で、パルロとポリィはすっかりとトラキチに懐いたみたい。もちろん、キマとグレナとも仲良くなった。

 ヒッグスさんとウェンダさんは宿賃代わりに出した食べ物に驚いていたね。さすがは魔本使い様と言われて僕の方も驚いた。僕……というかブランの能力を見て、樹海暮らしの不安が減ったのなら良いことだとは思うんだけど、普段からそんな呼ばれ方をするのはちょっと恥ずかしい。交渉を頑張った結果、最初のようにレイジさんと呼んでもらうことになった。代わりに僕の方は、ヒッグス、ウェンダと呼び捨てにする。


 その他には、お店を見て回った。ヒッグス一家の借金返済分を除いても、ブリア金貨が二十枚ほど残っている。樹海に戻ったら使う当てもないから、この機会に使っておこうと思って。それにブランの能力では色々な道具が出せるけど、資源ポイントが必要だ。チョコ菓子や焼きプリンの換金効率が良いので、お金で買える物は買っておいた方がいい。


 特に、欲しかったのは鉄製の道具。金属ポイントは入手が難しいので開拓地の道具類はほとんど石製だ。この機会に入手しておいた方がいい。


 とはいえ、鉄製品は高い。手持ちのお金を全部はき出しても、それほど数は揃えられなかった。包丁と農具を幾つかってところだね。まあ、たくさん買っても持ち帰るのが大変だからちょうど良かったかも。


 そして、ザッデルに来て六日目。開拓地に戻る日となった。

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