37. ギルドマスターとお話
ザッデルの北門を出入りするのは主に冒険者だ。門が開いている時間なら出入りは自由みたい。もちろん、僕が通っても咎められることはなかった。ただ、周囲の冒険者たちからは距離を取られたけど。
やっぱり、トラキチの威圧感は相当なものみたいだね。後でブランにトラキチたち用の首輪を出してもらおう。それで少しはマシになるはず。
「さて、レイジ。早速、街を案内したいところだが、まずは冒険者ギルドに寄っていいか?」
街に入ったところでシリルが振り返って言った。
案内は、かなりありがたい。僕はこの世界に関する常識が足りていないからね。それに、冒険者ギルドにも興味はある。
そんなわけで、シリルの問いに首肯したわけだけど――……
「おお、君がレイジか。俺はここのギルド長のギンバーだ。よろしくな!」
気がつけば、何故かギルド長と対面することになっていた。
いや、そんな不思議な話でもないんだけどね。シリルの用事というのが、ギルド長に「ゴブリンは西から来る」という情報を伝えることだったんだ。話の流れで、情報提供元である僕のことをギルド長が知ることになり、声がかかったというわけ。
僕はギルド員でもないから断ることもできたんだけどね。でも、拠点から一番近いザッデルとは今後交流する機会も増えるはず。できれば友好関係を築いておいた方がいいと思ったんだ。
ギンバーさんはかなり体格の良いおじさんだ。たぶん、一線を退いた冒険者なんだと思う。盛り上がった腕の筋肉を見ると、まだまだ現役でも通用しそうな感じだ。とはいえ、人好きする笑顔を浮かべているからか、とっつきにくい印象は無いね。偉ぶったところもないし、話しやすそうな人だ。
「よろしくお願いします。ええと、ゴブリンの集落の話ですよね?」
「ああ。シリルから話は聞いているが、できれば直接聞いておきたいと思ってな」
面会の目的は予想通りだったみたい。すでに大まかな内容はシリルから伝えられているので、ギンバーさんからの質問に答える形で話は進んだ。と言っても、新たに伝えられる情報なんてほとんどない。どちらかといえば、認識のすりあわせという意図が大きかったのかも。
「なるほど。すでに30体以上のゴブリンを撃退しているのか。かなり大きな集落なのかもしれんな。既にレイジによって戦力の大部分は削られている可能性もあるが……楽観は禁物か」
話を終えた後、ギンバーさんは渋い表情で呟いた。
僕の実感としても、ゴブリンたちはまだまだいるような気がしている。だって、何度撃退しても、同じくらいの小部隊が拠点近くに派遣されてきてたから。もし、人数に不安があるなら、そちらへの派遣を取りやめるくらいの知恵はゴブリンたちにもあるはずだ。
「調査を急ぎたいところですが……正直、中層に拠点があるとなると厳しいですね。手が足りません」
同席していたシリルの表情も優れない。
ディルダーナ大樹海はざっくりと三つの領域に分けられているみたい。
一つは、樹海の外周部である浅層。脅威となる魔物が少なく駆け出しの冒険者でも活動できる領域だ。
僕らの拠点があるのは中層。死爪兎などが出没して、ベテラン冒険者も危険を感じる領域……らしい。トラキチや猫人部隊のおかげで、あまり危険だと思うことはなくなってきたけど、一般的にはそういう認識みたい。
最後のひとつが深層。ほとんど前人未到の人外魔境なんだって。人類最高峰の戦力が束になっても太刀打ちできない凶悪な魔物が棲んでいるという伝承もあるみたい。触るな危険のアンタッチャブルな領域だ。僕も気をつけないとね。
中層で活動できるほどの冒険者ってそれほど数が多くないみたい。多くの冒険者は、そこに至る前に引退するか、命を落とすことになるらしい。そう考えると、シリルたちはかなり優秀な冒険者なんだと思う。でも、そのシリルたちでさえ、ゴブリン相手に手傷を負っている。それだけ中層の探索は危険なんだ。
それに中層ともなると、ザッデルから日帰りともいかないから、森での野営が必要となる。危険な森の中で野営するとなると、体も十分には休まらない。長期間の探索なんてとても無理だ。
ギンバーさんもシリルも、ゴブリンの集落を探すのは難航すると思っているみたいだね。でも、そういうことなら僕に考えがある。
「僕の拠点の近くにギルドの支部を立てませんか? 拠点周りならある程度安全確保が済んでますよ」
ギルドの支部ができれば冒険者が増える。その冒険者たちが開拓地の人口としてカウントされるかどうかはわからないけど、試してみる価値はありそうだよね。ザッデルだって冒険者が集まったことがきっかけで街に発展したそうだし。
「うむ。その申し出はありがたいな。問題は採算が取れるか、だが」
ギンバーさんは顎に手をやり考えている。
まあ、支部を立てても冒険者が来なかったらギルドとしては維持できないもんね。でも、中層でしか手に入らない資源もあるらしいから、安全を確保できるなら利用する冒険者たちはいるんじゃないかな。まあ、宿すらないから生活はしづらいかもしれないけど……。いや、だったら、僕たちで宿屋を経営すればいいんだよね。
結局、支部を立てるかどうかは一度様子を見てから決めるってことになった。ギルド職員が一人派遣されるそうだ。シリルたちも護衛として同行するみたい。出発は五日後という話だから、そのときに僕らも一緒に戻ることになった。
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