36. 都市は間近

 このまま不審者として街に連行されることになるんだろうか。ちょっと諦め気味にそんなことを考えていたときだ。


「レイジ? レイジじゃないか!」


 僕の名前を呼びながら、シリルが駆け寄ってきた。狼煙を見て駆けつけてきた冒険者の中に、彼のパーティーもいたみたい。


「みんな、大丈夫だ! おかしな格好をしているが、レイジは悪い奴じゃない! リムアの命の恩人なんだ」


 シリルが人柄を保証してくれたおかげで、得体の知れない不審者という扱いは免れそうだ。おかしな格好、というのは余計だけどね。


 シリルたちを助けておいて本当に良かった。情けは人のためならず、ってことだね。これからも困っている人は積極的に助けることにしよう。


 それにしても、シリルたちは冒険者たちに一目置かれているみたいだね。彼らがそう言うなら、と冒険者たちは次々と引き上げていった。


 狼煙を上げた駆け出しパーティーに謝られたけど、気にする必要は無いと言っておいた。脅威を感じたら警戒するは当たり前だし、危険な樹海を探索するならそれくらい慎重になった方がいいだろうからね。


「猫ちゃんがたくさんね。また増えたの?」

「立って歩いている子たち、以前は見なかったわよね? 鼠の子はいたけど」


 リムアとローザはイーニャたちに興味があるみたいだ。猫人部隊は初見のはずだけど、驚いた様子はない。ひぃすけたちには会ったことがあるからかな。


「みんなが帰ったあとくらいから、ゴブリンに遭遇することが多くなってきたからね。増やしたんだよ」

「ってことは、この子たちも戦うの? 可愛いのに勇敢なのね!」

「毛並みがいいわよね。撫でてもいいかしら」


 二人の目はイーニャたちに釘付けだ。撫で回したくてうずうずしているみたい。許可を出すと、誘われるようにふらふらと近寄り、モフモフと撫ではじめた。イーニャたちも撫でられるのは嫌いじゃないので、目を細めて気持ちよさそうにしているね。


「で、レイジはどうしてこんなところまで?」


 今度はシリルが尋ねてくる。


「ちょっと街に用事があって。ザッデルに向かってるところだよ」

「なるほど。それなら俺たちが案内しよう」

「本当? それは助かるよ!」


 素直に答えると、シリルが案内を申し出てくれた。

 これはありがたいね。当たり前だけど、ザッデルの正確な位置なんて知らないから、樹海を出た後どうしようかと思っていたんだ。彼らが案内してくれるなら無駄に迷わずに済むね。


「気にするな。レイジ一人で行かせると、また騒ぎを起こしそうだしな」


 タックがニヤリと笑いながら、からかってくる。


「好きで騒ぎを起こしたわけじゃないけど」

「ははは! まあ、そうだろうけどな。慣れりゃあどうってことないが、やっぱりデカい従魔は威圧感があるからな。騒ぎにもなるぜ」


 まあ、その通りなんだろうね。

 よく考えてみれば、僕は街でのルールなんて全然知らない。冒険者でさえ、あの反応だったんだ。戦う力を持たない人達が大勢居る街にトラキチを連れていってもいいものなのだろうか。その辺りのことを教えてもらう必要があるね。


 意見を聞いてみると、お猫様集団は街に入れるにはちょっと過剰戦力みたい。というわけで、イーニャ隊は拠点に帰すことにした。野営地の整備要員がいなくなってしまうけど、この辺りの魔物はあまり強くないから、そこまで神経質になる必要も無い。


 それと、従魔にはそれとわかるような印をつけておいた方がいいみたいだ。そうじゃなきゃ、魔物かそうでないか判別がつかないからね。印は決まったものがあるわけじゃないから、好きにしてもいいそうだ。トラキチたちなら首輪がいいかな。


 ちなみに、従魔師ギルドみたいなものはないらしい。そもそも、従魔師の数が少ないので組織として成り立たないんだとか。


 街へ向かう道すがら、ゴブリンについて話を聞いた。ゴブリンたちの集落はまだ見つかっていないみたい。それどころか、ゴブリンたちの襲撃が頻発していて調査にまで手が回っていないそうだ。


 今日もゴブリンの目撃情報があったので、手が空いている冒険者たちが協力して周囲を見回っているらしい。狼煙で大勢の冒険者が集まってきたのは、そういう理由だったんだね。


「集落は僕の拠点から西側にあるんじゃないかな?」

「……確かなのか?」

「少なくとも、僕の拠点にやってくるゴブリンたちは、みんな西からやってくるよ」


 余計なお世話かもしれないけど、僕が持っている情報も提示しておく。

 すでに何体ものゴブリンを退治しているけど、その全てが西側で遭遇したものらしい。今のところ、東側での目的情報は無い。南から現れたのも、シリルたちを追ってきた奴らだけだ。


 でもそうなると、ゴブリンの行動範囲はかなり広いことになる。少なくとも街から五日以上離れたところから襲撃に来ているわけだからね。


 そんな話をしながら歩いていると、ついに森の終端へとたどり着いた。目の前に広がるのは草原。そして、やや遠くに大規模な石壁が築かれている。


「もしかして、あれがザッデル?」


 だとしたら、意外にも森に近い。どうして魔物が住む森の近くに街を作ったんだろうか。そんな疑問に答えてくれたのはローザだった。


「元々は樹海の監視所だったそうよ。そこに冒険者が集まり、商人が集まって街になったみたい」


 森は資源の宝庫。それに、魔物も見方によっては資源になる。それを目当てに集まった冒険者たちが、街を形成する最初のきっかけになったみたい。やがて、資源の取引目的の商人たちが常駐するようになり、その規模がどんどん大きくなって街ができたんだとか。今ではハズリル王国で二番目か三番目に大きな都市なんだって。

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