35. 怪しいものではありません

 植物成長促進剤のおかげで、僕らが不在でも十分な食料確保ができる見通しが立った。二、三日様子を見たけど、サンファは上手く使って野菜を作っている。野菜だけじゃなくて、交換効率の良い薬草も育ててくれるので、薬効ポイントも安定して確保できるようになったのは大きいね。


 当面の食料や調味料、追加の植物成長促進剤やもしものときのヒールポーションをミアに預けて、僕は拠点を出発した。それが五日前のことだ。


 拠点から一番近い街は、ハズリル王国のザッデル。シリルの話では五日程度で行き来できる距離らしいんだけど、僕はまだ森を出ることすらできていない。まあ、現役の冒険者と貧弱な現代人の移動速度が同じであるはずがないから、当然なんだろうけど。


 僕に同行しているのはブランとトラキチ、そしてキマとグレナ。さらに、おまけでイーニャ隊までついてきてる。過剰ともいえる戦力だ。ゴブリンの小グループ程度ならトラキチ一人で十分に対応できるからね。


 イーニャ隊の役割は戦闘要員というより、拠点作成要員かな。

 野営をするとき、安全確保のためにブランに簡易的な小屋を作ってもらうんだけど、森の中だと場所の確保が難しい。そこで、イーニャたちに森を切り開いてもらうんだ。おかげで、夜も安全に休むことができる。


 とはいえ、そろそろ森を脱出したいところだ。そんなとき――……


「ニャ?」

「ニャー」

「ニャ!」


 トラキチたちが相談するように鳴き始めた。何かを見つけたようだ。

 この反応は魔物じゃないね。魔物ならトラキチが先行して、あっという間に駆逐してしまう。どうやら、複数の人間がこの辺りをうろついているようだ。


「ニャー?」


 トラキチが代表して尋ねてきた。意図としては「避けることもできるけど、どうする?」ってところかな。


「複数の人かぁ。冒険者かな」

『この辺りは樹海の外周部でしょうから、その可能性は高いでしょうね』


 ディルダーナ大樹海は魔物が溢れる危険な場所だけど、外周部には強い魔物が出ないそうだ。実際に、三日くらい前から死爪兎もマーダーアントも見てない。代わりに遭遇したのは、狼や巨大蜘蛛だ。正直、見た目でいえば狼なんかの方が強そうだけど、脅威度は死爪兎の方が高いんだって。


 それはともかく。


「避ける必要はないかな」


 街に向かっているわけだし、人目を避けてもあまり意味が無い。

 心配なのは野盗まがいの冒険者だけど、そんなのは滅多にいないとシリルが言っていた。冒険者ギルドの信用に関わるので、その手の連中はすぐに追放され、場合によっては賞金首に指定されるんだとか。


 そんなわけで、そのまま真っ直ぐ進んでいく。しばらくすると、木々の隙間から人影が見えてきた。遠目からなのでよくわからないけど、五人くらいかな。冒険者パーティーだと思う。


 距離が縮まって、ある程度お互いの様子が確認できるようになったところで、彼らの一人が何かを空に向けて放った。ピュンという甲高い音とともに、それはもくもくと青い煙を立ち上らせる。


「なんだろう?」

『……狼煙では?』

「なんで!?」


 森を探索する冒険者が狼煙を上げるのはどんな状況か。ありえそうなのは、目の前に脅威的な存在が現れて助けを求めるとき、とかかな。


 よく観察すると、冒険者たちはまだ若い。僕よりも年下に見えるから、きっと駆け出し冒険者だ。そんな彼らが表情を強ばらせて見ているものは……僕たちだ。特に、トラキチを恐れているみたい。


 トラキチはでかい。馬ほどじゃないけど、体高は1m以上ある。頑張れば騎乗できるくらいの大きさだ。見た目は猫なので、慣れれば可愛らしいんだけど初見では怯えてしまうのも無理はない。


 一応、それも考慮して、キマとグレナも連れてきたんだけどな。他の猫に紛れれば大きさも気にならないと思ったんだけど……甘かったか。


 まあ、遠くから歩いてきたら、トラキチしか目に入らないか。仕方がないね。作戦が悪かったんじゃなくて、状況が悪かったんだ。そうに違いない。


「と、止まれ! それ以上近づくな!」


 どうしたものかと考えていると、一人の少年が剣を構えながら震える声を上げた。他のメンバーもそれぞれに武器を構える。完全に警戒されているね。


「みんな止まって」


 いたずらに刺激するのもよくないので、トラキチたちにはお座りしておくように指示を出す。


「この子たちは従魔です。危険はないですよ」

「だ、黙れ! 怪しい奴め!」


 そんな!?

 え、僕って怪しいの?


 今の僕の格好は、派手めの長袖シャツ。たしかに、こっちの世界の住人には馴染みのないカラフルさかもしれない。そんな人間が宙に浮く本とデカい従魔を引き連れて、人外魔境の森の奥から現れたら……うん、十分に怪しい。


 いやいや、僕が受け入れたら駄目だ。とにかく彼らを説得しないと。


「どうした!? うおっ、なんだあの生き物は!? 巨大猫?」

「あれも猫なのか……? 二足歩行して武器を持っているが……」

「人間の方は怪しい格好だな……奇術師の類か?」

「敵意はなさそうだが……どうする?」


 そうこうしているうちに、狼煙を見た冒険者たちが次々に集まってくる。敵意のないことは分かってもらえているけど、不審者扱いなのは変わらないみたいだ。


 この服、そんなに駄目ですか。ミアもルドも教えてくれたら良かったのに……。


――――――――――――――――――――――

12/25

『33.開拓スコア』の冒頭にモルットの

エピソードを追加しました。

あれほど頑張ったのに触れるの忘れてました。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

異世界二十六日目朝


食料pt:546

木材pt:26690.1

金属pt:12.8

土材pt:たくさん

石材pt:42.5

薬効pt:14.7

植物pt:839.3

動物pt:305

マナpt:604

旧神pt:2


住人:3

ユニット:39

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