34. お料理会

 街に向かうとなると、いくつか問題がある。


 ひとつは拠点の維持。全ユニットを引き連れて街に向かうつもりはないから、魔物への対応は十分にできると思う。懸念があるとすれば冒険者だ。シリルたちのように、この拠点まで冒険者がやってくることは十分に考えられる。


 こちらから手を出さないように指示しておくつもりだけど、ユニットたちが魔物と勘違いされて攻撃される可能性はあるよね。話し合いで解決できればいいんだけど、残念ながら今のところ喋れるユニットは存在しない。


「それなら、私たちが残ります」

「え? 危ないよ。また、あのモグラみたいなのが出たら……」

「大丈夫ですよ。土の中はモグタンが気をつけてくれていますから。護衛にはクマドンがついてくれますし」


 相談の結果、ミアたちが開拓地に残ることになった。黒モグラみたいな奴が現れたらと思うと心配だけど、よく考えれば街に向かうのも安全とは言い難いだよね。加えて、シリルたちによれば一番近い街でも冒険者たちの足で五日はかかるって話だ。ミアはともかく、ルドには負担が大きい。そう考えると、拠点に留まった方がリスクは小さいかもしれないね。


 もっとも、そうなると別の問題もあるんだけど。食料をどうしたものかな。


 ブランは僕についてくるつもりみたい。そもそも、ブランは僕からの指示がないと能力行使ができないらしいから、拠点に残してもあまり意味が無いんだよね。


 そうなるとミアたちは資源交換による食べ物を確保するのができなくなる。一応、出発前にパン類を出しておくつもりだけど、往復でも最低10日はかかることを考えると不足する可能性もあるよね。


 それにユニットの維持コストだってある。ブランがいないと食料を確保してもポイントに変換することはできない。そうなると街に行っている間に間違いなく食料ポイントが足りなくなってしまう。


「きゅい、きゅい!」

「え? ああ、そうか。物を食べてエネルギーにすることもできるんだっけ」


 助言をくれたのはみぃすけ隊のモルエルだ。

 すっかり忘れていたけど、ユニットは食べ物を食べることで維持コストを賄うこともできるんだった。実際、ライムは排泄物の分解で、サンファは光合成でエネルギーを補給している。


「きゅい! きゅうきゅい!」

「本当に? それは助かるかも」


 驚いたことに、モルエルは簡単な調理くらいならできるみたい。

 トラキチもそうだけど、素体を使ってユニット生産をした場合、元の個体の知識をある程度引き継いでるみたいなんだよね。


 ゴブリンたちは人間にとって魔物と変わらないような邪悪な存在だけど、あくまで魔人種。知恵があり社会性もある生き物だ。料理なんかの文化もちゃんとあるらしい。人間の口に合う料理が作れるかどうかは少し心配だけど……まあ、一度作ってもらおう。僕だって簡単な料理くらいならできるから、上手く作れなくても教えてあげればなんとかなるだろう。


 森には野生動物もいるし、死爪兎の肉だって食べられる。ベリー類も豊富だ。調味料は資源交換で出せるから、出発前に用意しておけばいい。それに植物成長促進剤と魔法の肥やしがあれば野菜は安定して生産できる。資源交換に頼らずとも、食料を確保できる環境は整ってきているんだよね。


「きゅい。きゅいきゅい?」

「ああ、うん。野菜の調理方法ね。詳しくはないけど、少しは知っているよ」

「きゅい!」

「そうだね。試しに作ってみようか」


 そういえば、今回植えた野菜はブランに頼んで種を出してもの。ミラたちが大根を知らなかったように、この世界ではメジャーとは言えない野菜みたい。モルエルも調理したことがないって話だし、作り方を教えておかないとね。まあ、僕の一人暮らし歴はほんの数ヶ月だからたいした物は作れないんだけど。


 せっかくなので、みんなで一緒に料理を作ってみた。僕が指示してモルエルがメインで調理、ミアとルドにも手伝ってもらって幾つかの料理が完成した。


 大根は煮付け。醤油と酢を混ぜた調味液で煮込んだ単純な料理だ。今回は大根だけで煮込んだけど、兎肉を一緒に煮込んでもいいかもしれない。


 トマトはパスタのソースに。もちろん、パスタ麺はブランに出してもらった。乾麺なら保存性が高いから、大量に出しておけば僕とブランが不在のときにも使えて便利だね。


 さつまいもはふかし芋にした。調味料もいらないシンプルさがいいよね。レンジがないので、意外と作るのは大変だけど。


「どうかな?」

「お芋甘いね!」

「私はトマトが好きです。酸味があって美味しいですね」

「きゅい! きゅいきゅい!」


 料理はどれも受け入れられたみたい。ほっとひと安心だ。


 食材もそうだけど、モルエルは調味料に興味を持ったみたい。ブランのおかげで各種調味料が揃っているからね。料理好きには色々と研究しがいがある環境なのかもしれない。


 猫人や鼠人たちにはそれぞれ個性がある。今は小隊単位で色々と動いてもらっているけど、それぞれの好みや適正によって仕事を分けた方がいいのかもなぁ。


 とりあえず、モルエルは料理係に任命しようかな。いずれ、樹海のオリジナル料理を開発してくれるかもしれないね。

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