32. モグラ包囲陣

 黒モグラを閉じ込めたはずの旧神ボールだけど、見た目には変化がない。


「とりあえず、土壁はもういらないから回収しとこう」

『わかりました』


 紫のモヤモヤ対策に使った土壁はもう必要ないので、ブランに吸い込んでもらう。壁に閉じ込めたミアたちも出してあげないといけないしね。


 ところ構わず土壁を立てたので、少し畑が荒れてしまった。その様子にサンファががっくりと肩を落としている。非常事態だったから大目に見て欲しいな。


「兄様、大丈夫だった?」

「大丈夫だよ」

「それは何ですか?」

「うーん。何だろう? さっきの奴を閉じ込めてるんだと思うけど……」


 土壁の囲いから解放されたミアたちが側にやってきた。旧神ボールについてミアに尋ねられたけど……正直よくわかんないよね。僕の知っているゲームだと、ボールで捕まえたモンスターは味方になるんだけど、旧神ボールに同じ効果があるかどうかはわからない。


 というか、あの黒モグラの雰囲気は、どう見ても味方側じゃなかったんだよなぁ。完全に僕の主観だけど。


「……モルットは死んじゃったの?」

「ううん。ちょっと眠ってるだけだよ。明日になったら、元気になるから」


 ルドは全く動かないモルットを心配している。でも、この状態は以前毒キノコを食べたときと同じだから、きっと平気だ。石化毒を受けたはずなのに、石になっている様子もないしね。


『終わりましたよ、マスター』

「あ、うん。ありがとう、ブラン」


 土壁を回収し終えたブランが僕の近くに戻ってくる。

 そのとき、旧神ボールが僕の手元から、ひとりでに浮き上がった。そして、ブランに向かって飛んでいったんだ!


「え?」

『……消えましたね』


 ブランにぶつかりそうになった旧神ボールは溶けるように消えていった。まるで、ブランに吸収されたかのように。


「大丈夫? どこもおかしなところはない?」

『……不調はありませんが、変化はありましたね。旧神ポイントが2になって、新しいユニットが作れるようになりました』

「ポイントが増えたの? 使った分が戻っただけじゃなくて?」

『そのようですね』


 うーん、わけがわからない。

 考えられるのは、黒モグラが旧神にまつわる存在だったってことかな。そういえば、毒の説明で大いなる存在が云々うんぬんって記載があったもんね。


 だとしたら、旧神ってやばい存在だったりするのかな? いや、暴走しているって記載もあったから、元々は善神だったのかも?


 まあ、ひとまずはいいか。まだ判断を下すには情報が足りないし。


「新しいユニットの方は?」

『“日光嫌いの山師”ですね。……モグラ型のユニットです』

「モグラかぁ。まさか、さっきの奴じゃないよね?」

『違うはずです。ユニットとしての特性は穴掘りと土中探査ですね』


 全然違う存在みたいだね。黒モグラは明らかに毒タイプだったもの。新ユニットは地面タイプだ。




 とはいえ、一抹の不安があったので、トラキチや猫人部隊が戻るのを待って、ユニット生産をすることにした。ミアたちは屋敷の中だ。もし、あの黒モグラが出てきてもいいように、万全の準備を整えておく。


「ニャー!」

「「「ニャー!」」」


 トラキチとアーニャ隊が気合い十分という雰囲気でスタンバイしている。僕らが予期せぬ危機に陥ったことを自分たちの不手際だと思っているようだ。実際には僕が油断しただけなんだけど。


「……」


 クマドンも無言で控えている。いつもの緩い雰囲気は鳴りを潜め……いや、やっぱり緩いや。でも、そこはかとなく気迫に満ちている気がする。おそらく。


「じゃあ、ブラン」

『はい』


 ブランに指示を出して、モグラ型ユニットを召喚する。ぼわんと煙が立ち上ったところで、僕はすぐにクマドンの後ろに退避。代わりに煙を取り囲む猫人たちが距離を詰める。


「モ、モグ!?」


 煙が晴れた結果、表れたのは確かにモグラっぽいユニットだった。だけど、黒モグラとは似ても似つかない。デフォルメチックなフォルムにゆるっとした顔つき。しかも、鳴き声が「モグ」だし。


 見た目から判断すると僕が召喚するいつものユニットって感じなんだけど、それでも猫人たちは警戒を緩めない。ずずいっとモグラユニットに詰め寄り、ニャーニャーと威嚇している。


「モグ! モグモグ!」


 短い両手をばたつかせて、必死に身の潔白を訴えるモグラユニット。なんだか、ちょっと可哀想になってきた。


「みんな、もういいよ。敵意はなさそうだから」

「「「ニャー!」」」


 僕が指示を出すと、猫人たちはあっさりと包囲を解いた。まあ、特に怪しいところもなかったし、猫人たちも問題ないと判断したのかな。


「ごめんね。さっき危ない目にあったばかりだから」

「モググ」


 謝ると、モグラユニットは問題ないと首を振った。特に気分を害したりはしていないみたい。


 ユニット名には“日光嫌い”とついていたけど、土の外に出た状態でも平然としている。別に日の光が弱点というわけでもなさそうだね。単純にモグラ型であることを示唆していただけかな。


「まずは名前をつけないと……君はモグタンだ!」

「モグ」


 名前をつけると、短く了承の言葉が返ってくる。さっきは必死に弁明していたけど、普段は寡黙な感じみたい。といっても、こちらの言葉にはきちんと反応してくれるから問題はなさそう。


 能力についても聞いてみた。ブランが言っていた通り、穴掘りと土の中を探索する能力だけみたいだ。直接的な戦闘には向かないタイプのユニットだね。まあ、消費ポイントは食料10だけだったから、そんなものだと思う。


 とはいえ、土の中を探索できる能力は悪くない。地中に埋まった鉱石なんかも見つけ出せるだろうし、地面に潜む魔物も探し出すことができるんだから。樹海は壁で囲ったくらいじゃ安心できないことがわかったし、モグタンに土の中に危険な存在がいないか見張ってもらおう。

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