31. ゲットだぜ!

 畑から出現した黒モグラは今のところ、こちらを窺っているだけで、攻撃的な行動をとっているわけじゃない。でも、本能が訴えかけている。あれは僕らにとって、敵対的な存在だ。トラキチを別行動にしたのは失敗だったかもしれない。


「えっ?」


 ミアが突然驚きの声を上げた。ちらりと視線を向けると、彼女が首から提げたペンダントが青白い光を放っている。


 いや、光を放っているのはミアのペンダントだけじゃない。ブランまでも薄らとした青白い光を明滅させている。以前も似たようなことがあったね。あれは旧神ポイントを獲得したときだ。何か関係があるんだろうか。


「きゅぃっ!」


 モルットが発したのは警告の声。反射的に黒モグラへと視線を向けると、ソイツはちょうど紫色のモヤモヤとした玉を投げつけるところだった。その狙いの先は――ルド。


「――っ!」

「兄様!?」


 気がつけば体が動いていた。とはいえ、武器も持っていない僕に出来ることと言えば、彼を庇うように覆い被さるだけ。あれが何かはわからないけど、せめてルドだけは守らないと!


 だけど、紫のモヤモヤが僕にぶつかることはなかった。


「きゅぅ……」

「モルット!?」


 モルットが自分の体を盾にして、僕らを守ってくれたんだ。でも、その結果、モルットはピクリとも動かなくなってしまった。僕を守ったせいで。


 何かが頭の中に浮かんだ。だけど、僕は怒りでそれどころではなかった。


 油断した自分自身が許せない。ここは危険な樹海なのに。安全な場所だと思い込んでしまった。その結果がこれだ。


「このぉ!」


 武器となる物を探して――見つからなかったので、さっき引き抜いた大根で黒モグラに殴りかかる。大根は見事に黒モグラの頭にクリーンヒットした。だけど、所詮は大根。黒モグラには何のダメージも与えられていないみたいだ。


『手を離してください! すぐに!』


 ブランからの警告。よくわからないままに、大根から手を離した。重力に従って、ころりと転げた大根は――なんと石のように固まっている。


『マスター、落ち着いてください! モルットは死んでいません! 仮死状態です!』


 仮死状態……?

 たしかに被験者ユニットは、毒によって死ぬことはないという特性があったはずだけど。あの紫のモヤモヤは毒だったってこと?


 少し冷静になって気がついた。さっき頭に浮かんだのは、モルットの特性で通知される毒の情報だ。



◆ 石化の呪毒 ◆

あらゆるものを石へと変える石化毒。

かつての力の残滓。大いなる存在が吐いた呪詛は、その存在の意志を離れ暴走した。そのなれの果て。



 毒の情報……にしては意味ありげな言葉が並んでいる。でも、これが出るってことは、さっきの攻撃は毒扱いだったってことに他ならない。ブランの言うとおり、モルットは死んじゃったわけじゃなさそうだ。


『少しは落ち着きましたか? まったく、大根で殴りかかるなんて無謀ですよ……。何のために私がいると思っているんですか。もうちょっと頼りにしてくださいよ』


 うっ……、たしかに。

 攻撃するにしても、ブランに道具を出してもらえばよかったんだ。そんなことにも気付かないなんて、相当頭に血が上ってたみたい。


「ごめん、ブラン。じゃあ、早速頼りにさせてもらうよ! まずは土壁を出して」

『了解です!』


 まずは遮蔽物が欲しい。僕の願いに応えて、ブランがすぐに土壁を出しくれた。


 一瞬遅れて、黒モグラが紫のモヤモヤを投射してくる。直撃した土壁は半ばまで石へと変わった。


「うわ、危なかった」

『ギリギリでしたね』


 うまくやれば石材を大量ゲットできそうだけど……さすがにそんなことをしている余裕はないかな。


 今のところ、あいつはモヤモヤを飛ばす攻撃くらいしかしてこない。ブランに頼んで黒モグラを取り囲むように土壁を出したから、とりあえずの安全は確保できた。いつの間にかサンファもちゃっかりと退避している。


「ミアとルドはそこから動かないようにね!」

「わかりました!」

「うん!」


 戦えないミアたちはきっちりと土壁で囲んでおく。これで大丈夫だ。


「あれは魔物なの?」

『……おそらく普通の魔物ではありません。では何か、と聞かれると困りますが』


 ブランの本としてのタイトルはディルダーナ開拓記。そのせいか、このディルダーナ大樹海の魔物については大抵知っている。でも、あいつには心当たりがないみたいだね。さっきの毒の情報も思わせぶりな感じだったし、何か特殊な存在なのかもしれない。


 とはいえ、僕らにとっては明確な敵だ。倒す以外の選択肢はない。


「ブラン。雷撃の杖を……」

『待ってください。実はついさきほど、旧神ポイントで道具が作れるようになりました。道具の名前は旧神ボールです。効果は不明ですが、タイミング的におそらく……』


 アイツに使えってことだよね?

 うーん、有効な道具ならいいんだけどなぁ。怠惰な神様のすることだから、ちょっと信用できないんだよね。


 でも、ブランという頼りになる相棒をつけてくれたり、この世界の言葉も理解できるようにしてくれたりと、この世界に転移させられたこと以外は助けられている。ここで意に反した行動をしてへそを曲げられても困るよね……。


「よし! とりあえず、そのボールを使ってみよう!」

『いいんですか? いえ、そうですね。使ってみて考えましょうか』


 ブランも納得したところで、旧神ボールを出して貰ったんだけど……このボール見たことがあるぞ?


 ボールは主に三色のカラーリング。上半分が赤で下半分が白。そして、その境界を黒い帯がぐるっと囲っている。


『使い方は不明なのですが……』

「あ、いや、大丈夫。ただ投げるだけだから」


 ブランが申し訳なさげに言うけど……使い方は見当がついている。これってアレでしょ。モンスターを捕まえるやつ!


 僕は黒モグラの攻撃の隙を見て、モンス……じゃなくて、旧神ボールを投げつけた。黒モグラは避けることもせずに、ボールにぶつかり――吸い込まれるように姿を消した。


 残されたボールが地面に落ちる。中で黒モグラがもがいているのか、ボールは二度三度大きく震え――そして、動かなくなった。どうやら捕獲に成功したみたい。


 何かよくわからないもの、ゲットだぜ?





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実は例のシリーズ、全くの未プレイです。

一度手を出し損ねると、

どのタイミングで始めればいいのかわからない。

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