22. 小さな魔法使い
本日二話目
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早速、ブランに“悪戯好きな魔法使い”を呼び出して貰う。
現れたのは手のひらサイズの人型ユニット。背中から蝶のような羽が生えていて、空が飛べるみたい。ユニットに性別があるのかどうかわからないけど、見た目は女の子に見える。
「可愛い……」
「妖精さん?」
ミアたちの反応も悪くない。ルドの言うとおり、外見は妖精というイメージにぴったりだ。妖精ユニットは愛嬌よく、二人に対して手を振っている。
「あれ? というか、この世界には妖精って存在するの?」
『はい。“悪戯好きな魔法使い”の外見的特徴は妖精をベースとしているはずです』
そうなのか。人もいればゴブリンや妖精もいる。空想上の存在も含めて、僕らの世界とこちらの世界では共通する生物が多いみたいだね。
「ルドは他の妖精を見たことがあるの?」
「ううん。お話だけ」
「乳母がよく聞かせてくれていたみたいです」
母親じゃなくて、乳母かぁ。
庶民にはあまり縁のない存在だよね、乳母って。やっぱり、二人が貴族なのは間違いなさそうだね。
ちなみに、妖精は実在が確認されているけど、人間と積極的に交流しているわけではないらしい。一般的には御伽噺の中の存在と大差ないみたいだね。この森の中みたいに人里離れた自然豊かな場所で暮らしているそうだ。そういうことなら、いずれ本物の妖精に遭遇することもあるかもしれない。
「よし、君の名前はフェアだ!」
名付けると、フェアは了解というように敬礼のポーズをとった。どうやら、人型だけど喋れないみたい。だけど、トラキチたちと同じく言いたいことは何となくわかるので、意思疎通に問題は無い。
「早速だけど、魔法で何ができるか見せてくれる?」
お願いすると、フェアはニコッと笑って頷く。その後に、色んな魔法を見せてくれた。水や火を出す魔法もあれば、風を吹かせたり、不思議な光の球を生み出す魔法もある。どの魔法も規模は小さいけれど、生活を便利にしてくれそうなものばかりだ。
「フェアは色んな魔法が使えるんだね。助かるなぁ」
「妖精さん、凄い! 凄いねぇ!」
「可愛い……」
みんなで褒めると、フェアは「まあね」とばかりに胸をそらした。ちょっとお調子者かもしれない。
「マナは大丈夫? 辛くなったら休んで良いからね」
思った以上に色々な魔法を見せてくれたのでちょっとだけ心配になったけれど、フェアからの返事は「まだ平気」だった。体は小さいけど、魔法使いユニットだけあって魔法に関しては本当に有能みたいだね。
そういうことならば、本命のお願いをしようかな。そのお願いとはもちろん、水浴び用の水を用意してもらうこと。水を溜める桶は、木材ポイントを使ってブランに作って貰った。かなり大きめで、僕が中に入っても十分に余裕がある。風呂桶ほど深さはないので、浸かったりするのは無理だけどね。
「この桶に半分くらいまで、水を入れられる?」
尋ねると、フェアがこくこくと頷いた。半分くらいなら問題ないみたい。いっぱいにしようとすると、途中で休憩しないとマナが足りないらしいけど。
「じゃあ、お願いしてもいい?」
お願いすると、再び敬礼のポーズ。そのあとに、フェアは両手を桶の上に翳した。すぐに、その両手の先からどぼどぼと水が溢れ出す。一分くらいでリクエスト通りに桶半分ほどの水が溜まった。
「ありがとう! お疲れ様!」
声をかけると、フェアはいやいやと手を振った。さすがに疲れたのか、心なしか元気がない。
「ちょっと休む?」
少しでも休めるように手をさしのべると、フェアはにへらと笑う。差し出した手は無視して、僕の頭を椅子代わりにして座り込んだ。まあ、いいけどね。
さて、これで水浴びの用意ができたわけだけど……。
「ええと、お先にどうぞ?」
「……いいんですか?」
ミアがあまりにじぃと凝視しているものだから、最初に使って貰うことにした。ルドも一緒に使うみたいだから、僕が一番最後だ。
もうちょっと場所を選んで水を溜めて貰えば良かったんだけど、ここは洞穴を出てすぐの場所だ。遮る物は何もないので、ブランに木でできた衝立をいくつか出して貰っておく。
ミアたちが水浴びをしている間に、僕はもう少し水浴び環境を良くすることを考えよう。とりあえず、タオル類がもう少し欲しいので植物ポイントを使って幾つか出しておく。他に欲しいのは……やっぱり石けんかな。さっぱりするのもそうだけど、衛生面を考えてもあった方がいいと思う。なにしろ、僕は軟弱な現代人だからね。ちょっとのことで体調を崩してしまうかもしれない。まあ、もう八日過ごしているから、意外と大丈夫なのかもしれないけど。
「石けんかぁ。廃油と木灰があれば作れるって聞いたことはあるけど……」
油は食料ポイントで出せるし、木灰……というか木はその辺りにたくさん生えてる。とはいえ、単純に混ぜれば作れるってもんじゃないんだろうなぁ。
でも、大丈夫! 具体的な作り方がわからなくても、問題ないはずだ。そう、ブランの道具作成能力ならね!
「というわけでブラン、作れない?」
『その方法でも作れなくはないですけど……薬効ポイントがあれば交換できますよ。石けんだけじゃなくてシャンプーも』
「そうなの!?」
さすが、ブランだ!
廃油と木灰で作る石鹸は品質があまりよくなさそうだし、交換で出せるのならその方がいい。しかもシャンプーまで出せるなんて。これは薬効ポイントの重要性が増してきたね。
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