20. 元エリート三人衆

 洞穴で昼食をとりながら、午後からの活動について考える。食料ポイントは午前中で十分に確保できたので、もう必要ないだろう。探索はキマとグレナに任せればいいし、僕らは生活水準を向上させる方向で動きたいな。


「そろそろ洞穴生活は卒業したいね」

『そうですね。補強もしていないような状態ですから、何かの拍子に崩落してもおかしくはないですよ』


 崖に穴を掘っただけのねぐらだ。獣や魔物から身を守ることはできても、塒そのものが安全とは言い難い。住み心地がいいともいえないし、できるだけ早く家を建てたいところだ。


「でも、家の建て方なんてわからないからなぁ。ミアは知ってる?」

「ごめんなさい。さすがにそれは……」

「あ、うん。そうだよね」


 ミアは年のわりにしっかりしていて、色んなことを知っている。とはいえ、家の建て方なんて知っているわけがないか。大工の子だって、この年ならまだ見習い。ちゃんと知っているかは怪しい。


「僕は? 僕にも聞いて!」

「あはは。じゃあ、ルドは知ってる?」

「知らない!」


 だよねぇ。

 僕らが適当に家を建てたところで、きっちりとした住処になるだろうか。強い風が吹いた程度で壊れちゃうようなものなら、洞穴暮らしの方がまだましかもしれない。頼みの綱は、やっぱりブランだ。


「ブランの道具作成能力で家は建てられないの?」

『現段階では条件を満たして……ますね。作れそうです』


 ブランが妙な言い回しで肯定する。どうやら、元々は制限されていた能力みたい。いつの間にかその制限が解除されていて、今は使えるようだけど。


 制限解除の理由はブランにもわからないっぽいね。どういう条件で制限が外れるんだろう。わからないのはちょっと不便だね。


「まあいいや。それで家を建てるのに必要なポイントは?」

『そうですね。今入手できそうな範囲で言えば、木材と土材をそれぞれ2000ポイント用意して貰えれば簡素な家が立ちます』


 さすがに家ともなると必要なポイントが膨大になるね。もっとも、土材は洞穴を作ったときに大量に確保してあるから十分に足りるんだけど。


「問題は木材ポイントか。例えば外の木を切り倒したら何ポイントくらいになるのかな」

『そうですね。大体50ポイントくらいでしょうか。もちろん、大きさによって変わりますが』


 丸太一本で50ポイントか。家を建てるのに丸太が40本必要な計算になる。これが多いのか少ないのかはわからないけど、僕らだけで伐採するとなると重労働なのは間違いない。


「一応、聞くけど生えてる木を吸い込むことはできる?」

『無理ですよ』


 やっぱりそうか。地面に生えたままの植物は吸えないって言ってたもんね。


「仕方がないか。地道に切り倒そう」


 転移初日に作るだけ作って全く使っていない石斧がある。ようやく日の目を見ることになったね。


 外に出て、近くに生えていた木を選び近寄る。そして、石斧を横からひと叩き!

スコンという軽い音とともに、石刃が少しだけ幹に食い込んだ。ぐっと力を込めて引き抜き、振りかぶった後に再び打ち込む。


「あっ!」


 狙いがずれて、最初につけた切れ込みよりも少し上が切れてしまった。これ、なかなか難しいぞ。


 そのあと、二、三十回、石斧で幹を切りつけたけれど、木はまだまだ倒れる気配がない。それに対して僕はぜえはあと息があがってしまっている。一本でこれなのに、四十本も必要となると、かなり大変だぞ。


「大丈夫ですか……?」


 疲れたので少しだけ休憩していると、ミアが近くまできて声をかけてくれた。


「いやあ。思ったよりも疲れるね。これじゃあ、いつまで経っても家が建ちそうにないよ。申し訳ないけど、ひぃすけたちを呼んできてくれない?」

「わかりました」


 こうなったら、草刈りメンバーの力も借りるしかない。力の弱いゴブリンが素体とはいえ、三人が力を合わせれば木だって伐採できるだろう。


 ミアが連れてきた彼らに伐採を指示すると、すぐさま仕事に取りかかった。といっても、石斧は一本しかないから、最初はひぃすけの番だ。


 ひぃすけは小柄な体を大きく使って、コンコンと軽快な音を立てて木を切っていく。明らかに僕よりペースが速くて、しかも正確だ。僕が途中まで切っていたとはいえ、あれよあれよという間に最初の一本を切り倒してしまった。


「ゴブリンって力が弱いんじゃなかったの……?」

『一般的なゴブリンはそうなんですけどね。魔人種は人と同じように個体差が大きいんです。ひぃすけの元となったゴブリンは身体能力に優れていたのでしょう』


 なるほどね。同じ人間でもバーベル上げ選手と深窓の令嬢じゃあ筋力に大きな違いがある。それは魔人種も同じというわけらしい。ひぃすけのベースとなったゴブリンはエリートゴブリンだったのかもしれないね。


 思えば、それも納得だ。

 この森の魔物は一般的な戦士でも手こずるような強さだったはず。それをトラキチは易々と屠る。それだけトラキチの素体となった虎っぽい生物は強いのだろう。だけど、ユニット化して強化される前とはいえ、仲間三体を犠牲にゴブリンたちは虎を死に追いやった。それを考えると、ひぃすけの元になったゴブリンは一般的な戦士と同等かそれ以上に強いんじゃないかな。伐採でもその身体能力が発揮された結果、素早い伐採となったのだろう。


 ひぃすけは体力的にもまだまだ余裕があるみたいだけど、石斧をふぅすけに渡してバトンタッチみたいだ。ふぅすけも、そしてその後のみぃすけも、ひぃすけと同じように実に素早く伐採を成功させた。これで木材ポイントを150ポイントほど獲得したことになるね。

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