18. 神の使いじゃありません。被害者です
「さあ、好きなのを選んで。どれを食べてもいいよ。お腹がすいているんだったら何個食べたっていいからね」
ひぃすけたちとの挨拶が終わったら、ちょっと遅めのお昼ご飯だ。ライムとの挨拶が終わっていないけど……まあ、それは後でいいよね。
餌付けというわけじゃないけど、美味しいものを一緒に食べて二人との距離を縮めようという思惑もある。と言っても、大した物じゃないんだけど。
用意したのは食料ポイントを使って交換したパン。全て1ポイントの品で、全部で10個だから10ポイントの消費だ。あと飲み物として、ミネラルウォーター。500mlのペットボトルだ。これを三つで計3ポイント也。一気にポイントが減るね。今日はあまりポイント集めができていないから、明日はがんばらないと。
「こうやって、袋を開けて食べるんだよ」
未知の食べ物をいきなり食べるのは抵抗があるだろうから、まず食べてみる。僕が選んだのはメロンパン。バターたっぷりでカロリーがヤバい奴だ。でも、美味しいんだよね。
僕の様子を見て、ルドがごくりと喉を鳴らした。どのくらい森の中にいたのかはわからないけど、きっとお腹がすいているんだろう。へとへとになるまで森を歩いたみたいだしね。
ニコニコ笑ってみていると、ついに耐えられなくなったみたい。ルドがパンに手を伸ばした。それを見たミアも観念したかのように後に続く。
ルドが手に取ったのはふわふわで甘いチーズ蒸しパン。ミアのは、たっぷりのクリームが入ったエクレアパンだ。どちらも甘いパン……というか、今回は全部甘い菓子パンにした。たぶんだけど、甘い物って貴重だからね。子供たちの関心を引くにはその方がいいと思って。
「わぁ……甘くて美味しいです! こんなに甘いパンは初めて食べました」
「こっちも美味しいよ、姉様!」
狙い通り、二人はパンを気に入ったみたいで、手に取ったそれをあっという間に食べ終えてしまった。まだ食べ足りないのか、残りのパンをじっと見てから僕にちらちら視線を送るってことを何度か繰り返している。
「さっきも言ったけど、好きなだけ食べていいよ。でも食べ過ぎてお腹壊さないようにね」
僕の言葉に聞くや否や、ルドが早速二つ目のパンに手をつけた。ミアも少し躊躇っていたけど、甘味の魅力には勝てなかったのかおずおずと手を伸ばした。食べ過ぎに注意するように釘を刺したけれど、その言葉が耳に届いたかどうか。まあ、お腹がすいていたんだろうし、今日くらいはいいかと見守ることにした。
よほどお腹がすいていたのか、ミアたちは二人で7個のパンを食べた。一人三つずつ食べた後に、最後の一つははんぶんこだ。ミアはともかく、ルドはまだ小さいのによく食べたよね。さすがに食べ過ぎたみたいで、お腹を抱えて苦しそうにしている。
「よし、次は服を作ろうかな」
ひぃすけたちが刈りとってくれた雑草は、ご飯前にブランに回収してもらっている。それによって植物ポイントは20ちょっと増えた。以前言っていた通りなら、服二着分の麻布が確保できるはずだ。
「というわけで、ブラン。二人の服を用意してくれないかな。動きやすそうな服でお願い」
『了解です! 私がばっちりと二人にあう服を用意して見せましょう』
そういうと、ブランはゆっくりと二人の周りを飛び回りはじめた。ときおり。『ほほう』とか『なるほどなるほど』とか言っているので、服のイメージを固めてるんだろう、たぶん。
「私たちの服ですか……?」
「そうそう。その服、たぶん上等な服でしょ? 洞穴や森での生活で駄目にするにはもったいないかなと思って」
「ですが……」
服を用意すると聞いて、ミアが戸惑っている。彼女はしっかりとしているから、保護された上に服まで与えられるという状況が落ち着かないのかもしれない。それとも、こんな森の中で服なんて用意できるはずがないと思っているのかな。どっちもありそうだ。
彼女がそんな風に考えるのも、この時代では服を作るのが大変だからだと思う。でも、ブランなら結構簡単に作れるんだ。なんたって雑草を集めるだけで作れちゃうんだからね。ミアも実際に見ればわかるだろう。
『よし、イメージが固まりました! いきます!』
ブランが宣言すると、ばさりと服が降ってきた。上下セットできちんと二着分が生成できたみたい。ポイント消費は15だったみたい。子供サイズだから、少しはコストが浮いたのかな。
「すごい! これが僕の服?」
「そうだよ。こっちがミアのだね」
「な、何もないところから服が? しかも、こんな鮮やかに染め上げられているなんて。デザインも見たことがないものですし」
森歩きを考えて、どちらも長袖シャツに長袖ズボンだ。それでいて、ミアの方は女の子っぽい服になっているみたい。ブランに任せて正解だったね。僕にこんなセンスはないから。
ルドは服を見て無邪気にはしゃいでいるけど、ミアの方は色合いに驚いているみたい。シンプルだけど現代風デザインだから、色も鮮やかなんだよね。現代日本ではなんでもない服だけど、こちらの世界では珍しい服なのかも。
「あなたは一体……」
ミアが茫然とした表情で呟く。ちょっと驚かせてしまったかな。食べ物で縮まった距離がまたちょっとだけ離れてしまったかもしれない。
「僕はただの一般人だよ。こんなことができるのは、ブランのお陰なんだ。神器なんだよ」
慌てて言い訳してみたけれど、逆効果だったかな。神器なんて聞いたらびっくりするよね。実際、ミアの表情には畏怖の感情が見て取れる。
「神の使いなのですか……?」
なるほど。そういう解釈になっちゃうのか。
でも、これだけは言える。答えは「ノー」だ!
「冗談じゃないよ! 僕はただの被害者だから!」
『使いというよりは、あの神に振り回されているだけですからね……。全く、ろくな神じゃありませんよ……』
予想外の返答に、ミアは戸惑っているようだ。
でも、そこだけははっきりさせとかないとね! 怠け者の神様の使徒だなんて、絶対にお断りだから!
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