14. 見知らぬ子供たち

 異世界生活三日目。


 食料に不安はないけど、生活はまだまだ不便だ。服も欲しいし、洞穴暮らしも卒業したい。そう考えると、やっぱり人手が必要だと思う。


「ゴブリンの死体を素体にしてユニットを作ろう」

『そうですか。まあ、背に腹は代えられませんね』


 ブランはやっぱり気が進まない様子だ。どうやら、ゴブリンのような魔人種を配下にすることで、僕自身が魔人種の仲間だと思われるんじゃないかと危惧しているみたい。ゴブリンではなく外見だけ似た別の存在ですって説明しても理解して貰えるとは限らないからね。そもそも、説明する相手も現状では見つかってないけども。


 先のことを心配するよりも今は労働力を確保したい。それにトラキチはユニット化したときにだいぶ猫寄りになったから、今回もゴブリンそのものという外見にはならないと思うんだよね。


「それじゃあ、ゴブリンの死体を素体として“献身的な被験者”を三体作って」


 作成ユニットを“気まぐれな探索者”ではなく“献身的な被験者”にしたのは単純にコスト節約のためだ。それでも三体作ると食料ポイントは15ポイントも減っちゃう。


 それにユニットの維持にも食料ポイントは必要となる。毎日の維持コストはトラキチが2ポイントでモルットが1ポイント。新しく作り出すユニットも1ポイントずつ必要だろうから、毎日合計6ポイント必要になる。ある程度余裕があるとはいえ、さすがに無駄遣いできる状況じゃないんだ。


 ちなみにライムにも維持コストとして毎日食料ポイント1が必要なんだけど、排泄物の分解&吸収がエネルギー摂取にもなっているので基本的にはポイント消費なしで維持できる。素晴らしいね。


 ともかく、新しいユニットに求めるのは労働力。戦闘力は必要ないので、ゴブリン素体のスペックでも問題はないと思う。小柄で力も強くは無いみたいだけど、それでも雑用くらいはできるし、食料集めを分担できるだけでも効率はよくなるはずだから。


 僕の指示に従って、ブランがユニット作成をはじめた。ぼわんと連続して三つの煙があがり、新しいユニットが現れる。


 そこにいたのは、明らかにゴブリンとは別の何か。背丈はゴブリンくらいで、たぶん一応人型。簡単に説明すると……二足歩行するモルモットかな。体格がずんぐりむっくりで重心が低い位置にあるから、意外とどっしりとしていて安定感はありそうだ。その分、足は遅そうだけど。


 ずいぶんと見た目が変わったね。少なくとも、この三人を見て元ゴブリンだと考える人はまずいないだろう。僕としては好都合だ。


「よし、君たちは左から順に、ひぃすけ、ふぅすけ、みぃすけだ。よろしくね!」

「「「きゅい!」」」


 わかりやすさ重視の名前だけど、三人は喜んでる。それは良かったんだけど、喜びのあまりひぃすけたちはぐるぐると三人で回りだした。そのせいで、もう誰が誰だかわからない。


 ま、まあ基本的には三人組で働いて貰うつもりだし、個体判別ができなくても問題は無い……かな。きっとそのうちに見分けがつくようになるだろう。


「君たちには草刈りをしてもらいます」


 草刈りの目的は植物ポイントの確保。もっと言えば、布と交換して服を作ることだ。布は必要になる植物ポイントが多めだから、大量の雑草を刈ることになる。それでも三人いれば今日だけでもそれなりにポイントを確保できるだろう。できれば数着分のポイントが欲しいんだけど……まあそれはひぃすけたちの頑張り次第かな。


 ひぃすけたちには石の鎌を用意した。もちろん、ポイントを使って作った物だ。正直、切れ味は微妙なんだけど、ないよりはマシだろう。たぶん。


「毒草には気をつけてね。なるべく触れないように。薬草類は確保して、雑草とは区別してくれると助かるかな。その辺りはモルットがわかるよね?」

「きゅい!」


 モルットを監督役にしてひぃすけたちを送り出す。トラキチの教えを受けたおかげで、モルットはこの近くの植物についてちょっとだけ詳しくなってるからね。監督役にはうってつけだ。三人の部下を持つなんて、モルットも偉くなったものだね。


『私たちはどうするんですか?』

「そうだねぇ」


 洞穴卒業のために家を作るなら、木材を大量に確保する必要がある。地道に枝なんか拾ってたら時間がかかりすぎるので、洞穴周辺の木を伐採するのがいいだろう。でも、石斧で伐採ってかなり重労働そうだよね。できれば御免被りたい。


「うん。僕らは水場を探そうか。昨日は西側に歩いたから、今日は東に行ってみよう」

『了解です』

「ニャ!」


 というわけで、僕らは探索。家づくりはひぃすけたちの手が空いてからにしよう。水場探しも重要だしね。


 森の中をゆっくりと歩く。目についた食料をポイントに変えながら進んでいるから、かなり速度は遅い。食料確保と探索を並行するのはちょっと無理があるのかも。探索専門のユニットを作った方がいいかもしれない。トラキチは僕の護衛に必要だから、新しく“気まぐれな探索者”を作る必要があるね。


 そんなことを考えながら進んでいると、トラキチが急に立ち止まった。何かの音を捉えたのか、彼の三角耳がピンと上を向いている。


「ニャ!」


 不意にトラキチが走り出した。今までは魔物が現れていたとしても待ち構えて迎え撃っていたのに。


『追いましょう!』

「そ、そうだね!」


 ブランに言われて僕も慌てて後を追う。どういう理由で走り出したのかはわからないけど、森の中で孤立したら危ないのは僕だ。とにかく、トラキチから離れないように必死で走った。スピードが違うのでどうやっても引き離されちゃうんだけど、ブランの案内でどうにか見失わずにすんだ。


 僕がその場所にたどり着いたとき、トラキチは子犬ほどある大きな蟻と戦っていた。数は六匹で、トラキチは半分囲まれているような状態。トラキチなら包囲を突破できるだろうけど、そうしないのには理由がある。どうやら彼は見覚えのない二人の子供を庇っているようだった。


▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲

異世界三日目朝

食料pt:21

木材pt:1.1

金属pt:1.5

土材pt:たくさん

薬効pt:2.4

植物pt:9.3

動物pt:30

マナpt:35

旧神pt:1


※細かいのは省略

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る