13. 貪欲な捕食者

 とりあえず、今回の探索では崖に沿って、洞穴の西側を歩いてみた。方角に関しては太陽の動きからの推測だ。この世界でも、太陽は東から昇って西に沈むらしい。ブランが教えてくれた。


 探索中、トラキチはモルットを頭に乗せて移動している。モルットもサボってるというわけじゃなくて、トラキチに植物のことを色々と聞いているらしい。ペット枠に甘んじるつもりはなくて、トラキチの知識を吸収しようと頑張っているみたいだ。トラキチも面倒見がいいのか、丁寧に教えている。ニャアニャアきゅいきゅいと、とても微笑ましい光景だ。


 魔物の襲撃はあれからさらに二度あった。どちらも死爪兎だったから、トラキチが軽々と撃退していたけど。察知能力のおかげか、彼は死爪兎が接近する前にその気配に気付けるみたいだ。おかげで、不意打ちを受ける心配もない。死爪兎は資源ポイントもたくさん貰えるから、かなり美味しい獲物だ。


 残念ながら水場は見つからなかったけど、食料ポイントは40ポイント以上貯まっている。ひとまず食べるものには困らないはずだ。もっとも、ユニットを作ると簡単に吹き飛んでしまう気がするけど。


 日が沈むには少し時間があるけど、今日の探索はこれで終了。あんまり動きすぎるとまた寝坊してしまうからね。


 そういうわけで洞穴まで戻ってきたわけだけど……休む前にやっておきたいことがある。


「トイレを作ろう!」

『なるほど。人間には必要なものですね』


 食べれば当然排泄が必要になる。だって人間だもの。

 今までは、森の中でこそっとやっていたけど、みんなを待たせてトイレタイムというのはちょっと落ち着かないし、なにより途中で魔物に襲われたら危ない。トラキチは簡単に倒すけど、一般的な戦士でも一対二だと勝てないかもしれないって話だからね。僕が勝てる相手ではなさそう。


 まあ、トイレと言っても洞穴の外に穴を掘って、三方に土壁を作る程度だ。土壁は洞穴を作るときに大量に取得した土材ポイントと使えばブランが上手い具合に設置してくれる。土とは言え、かなりしっかりと固められているので少し軽く押したくらいでは崩れない。トラキチが本気で体当たりしたらさすがに崩れちゃうだろうけどね。


 洞穴の中に作らなかった理由は主に二つの理由がある。

 まず、におい。空気の通りが悪い閉じた場所で排泄物の臭いが充満したら悲惨なのは容易に想像できる。次に明かりの問題。洞穴内は暗いので排泄物を落とす穴が判別できない可能性があるんだよね。それでうっかり自分が穴に落ちちゃったら最悪だ。

 そんな理由で、トイレは外に作った。


 とはいえ、洞穴から離れた場所に作ると利便性に欠けるし安全面でも不安がある。だから、トイレの場所は洞穴のすぐ近くだ。そうなると、やっぱり臭いが気になるんだよね。一応、木材ポイントを2消費することで木の蓋が作れるからそれを被せておくつもりだけど、それでどこまで臭いを封じられるだろうか。


「ブランは排泄物を吸収したりは……」

『嫌ですよ!』


 ですよねぇ。


『ユニット生産で“貪欲な捕食者”を作ることをオススメしますよ』

「なにそれ? ちょっと怖いんだけど……」


 凄く恐ろしげな名前なのに、なんでこのタイミングで生産することを勧められるのか。これがわからない。とはいえ、ブランの提案なのだから、きっと意味はあるんだろう。元々、ユニットは増やしていくつもりだったこともあり、試しに作ってみることにした。


 必要な資源ポイントは食料10にマナ5。マナポイントを使うということは魔法関連のユニットなんだろうか。ちょっとわくわくするね。


 ぼわんと煙るいつもの演出のあと僕らの前に姿をあらわしたのは、潰れた球体みたいな存在。大きさはだいたい僕の頭くらいかな。透き通った明るい緑色のボディは、ぷるんと弾性がありそうだ。


「……スライム?」


 そうとしか言い様がない存在だった。

 本人もスライムとしての自覚があるのか、僕の言葉を肯定するかのようにぷるんぷるんと体を揺らした。


「ええと、じゃあ君の名前はライムで」


 命名はスライムから後ろ三文字を取った形。安直だけど、ちょうど体の色にもぴったりだから悪くない名前だと思う。ライムも同意見なのか、嬉しそうにぴょんと軽く跳ねた。ちょっと可愛い。


 ライムはトラキチたちと違って鳴き声を出せないみたい。だけど、こちらの言葉はちゃんと理解してるようだ。前進やジャンプといった指示は、忠実にこなしてくれる。脳みそなんてなさそうなのにちょっと不思議。


『“貪欲な捕食者”には何でも分解&吸収してしまう能力があります』


 そう聞くとめちゃくちゃ強そうだよね。でも、分解するペースはゆっくりだから、寝込みを教われでもしない限り簡単に振りほどける。それに、耐久力に優れているわけでもないので、切り裂かれたりしたら普通に消えちゃうらしい。なので、基本的に戦闘能力は期待できない。


 では、彼らに期待される役割は何か。それが、ゴミや排泄物の処理だ。何でも分解&吸収できるわけだから、排泄物だって例外ではない。臭いの元を絶てば、汚臭問題も発生しないので万々歳だ。


 とはいえ、本人の気持ちはどうなんだろう。延々と排泄物を処理させられる生活。僕は絶対に嫌だけどね。


「ライムはそれでいいの?」


 念のために問いかけると、ライムは問題ないとばかりにぴょんと跳ねた。問題ないどころか、食料をいただけるとはありがたい、という感じみたいだ。まあ、本人がそれでいいならいいか。スライムだし、思考も嗜好も違うってことだね。

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