12. あれはウサギですか?
旧神ポイントについては気になるものの、考えてもわかることじゃないのでひとまずは保留。移動を再開……の前に、念のためトラキチが雑草に分類した草もポイントに変換してみることにした。もしかしたら、ごくわずかに薬効成分があって資源ポイントがもらえるかもしれないからね。
あくまで確認のつもりだったんだけど、結果は意外なものだった。
『トラキチの判別通り、すべて薬草ではありませんでしたね。代わりに植物ポイントを合計で0.4ポイント獲得しました』
「え? 植物ポイントなんてあったの?」
『ありますよ』
植物ポイントは種や苗木と交換できるらしい。野菜や果物の種と交換すれば食べ物を増やすことはできるけど……今のところ食べ物は食料ポイントで交換できる範囲で問題はないかな。とはいえ、不要なポイントかといえばそんなことはない。それどころか、かなり重要な資源ポイントの一つだった。なんと植物ポイントは紙や植物繊維系の布と交換できるんだって。
「布に交換するとしたら何ポイント必要になるの? 服を作りたいんだ」
『量によりますよ。服一着分でしたら、麻布で10ポイント、綿布で15ポイントってところでしょうか』
さすがに必要ポイントが大きい。いや、そうでもないのかな。雑草なんてそこら中に生えている。たぶん、本腰を入れて草刈りをすれば一着分くらいすぐに集まるはず。だとすれば本当に助かる。
なにしろ、準備もなくいきなり異世界につれてこられたので着替えがないんだ。今日だって昨日の服をそのまま来ている。一日くらいならともかく、数日もすれば臭いが酷いことになりそうだ。そうでなくても、森を歩くと枝にひっかけたりしてすぐに服が傷むからね。新しい服をどうやって手に入れるのかは悩みの種だったんだ。だけど、わりと簡単に布が手に入るのなら、話は変わる。布さえあれば、ブランの道具作成能力で服が作れるはずだからね。
まあ、衣服を入手するために植物ポイントは欲しいところだけど、今日のところは探索を優先しようかな。できれば水場を見つけたい。食料ポイントで飲料水は出せるけど、水浴びしたり洗濯したりするには全然足りないからね。
というわけで、植物採取は一旦中断して探索を再開する。ひとまずは水場の発見優先。薬草類が見つかったときだけ、採取して吸収する方針だ。
しばらく歩いていると、不意にトラキチが「ニャ!」と強い調子で声を上げた。おそらく、それは警告。何かを見つけた合図だ。
息を潜めて周囲を観察するけど、危険そうなものは見当たらない。それでも黙ったままじっとしていると、トラキチが睨み付けるように見ていた茂みの辺りからがさごそと音が聞こえ始めた。
草むらをかき分けて表れたのは二体の兎――いや、兎に似た何かだ。長い耳に赤い目、黒い毛並みまでなら兎と呼べるんだけどね。僕らを見つけた瞬間、そいつらはひょこっと立ち上がったんだ。しかも、手先からは鋭く長い爪が伸びている。あんな危険そうなウサギは見たことも聞いたこともない。だから、たぶんあいつらはウサギではないと思う。
『
違った、ウサギだった。
この世界ではあんな危険そうな奴もウサギ分類なのか。ひょっとすると、この世界のウサギはみんなあんな風に鋭い爪を持っているのかな。
いや、さすがにないか。もしそうなら
「あれは魔物?」
『そうです。見た目はウサギですが、かなりの強敵ですね。並の戦士では一人で二体を相手にするのは厳しいかもしれません。ですがトラキチなら対応可能でしょう』
たしかに、体格差を考えるとトラキチの方が圧倒的に強そうだ。事実、戦いは一方的な展開となった。死爪兎の一体が飛びかかってきたところを、トラキチが巨大猫パンチで迎撃。いや、爪を出しての切り裂き攻撃だ。痛打を受けたウサギは勢いよく地面に叩きつけられて動かなくなる。一発でノックアウトだ。
トラキチの攻撃は終わらなかった。残る一体は、仲間が一瞬で返り討ちになったことにショックを受けたのか硬直して動かない。その隙を見逃さず、トラキチは強烈な一撃をお見舞いした。結果はさっきと同じ。パンチを食らったウサギは地面をずざざと滑り、ピクリとも動かなくなった。トラキチの完勝だ。
「トラキチは強いね!」
「きゅいきゅい!」
僕とモルットで褒め称えると、トラキチはまんざらでもなさそうだ。よしよしと頭を撫でてあげると、機嫌良さそうに喉を鳴らす。
ひとしきりトラキチを褒めちぎったあとは、死骸の処理だ。
「うーん。ユニット素体にするか。それとも資源ポイントにするか」
『私としては資源ポイントにするのをオススメしますよ』
「そうなの?」
『はい。マナポイントを確保しておいて損はありません』
魔物と動物の違い。その最たるものが、体内に魔石を宿すか否か、なんだって。で、その魔石を吸い込むことで、ブランはマナポイントを獲得することができるんだ。
マナというのは、異世界特有の魔法エネルギーらしい。この世界、やっぱり魔法が存在するんだね。マナを動力とする便利な道具……いわゆる魔道具を作るにもマナポイントが必要みたいなので、積極的に確保していきたいところだ。
というわけなので、ここはブランのオススメに従っておこう。資源ポイントに変換すると、一体につき、食料1、動物3、マナ3というなかなかの成果。二体いたので、それぞれ2倍だ。
動物ポイントは毛皮とか毛織物なんかと交換できるそうだ。今は夏なのかとても熱いけど、冬場は冷え込む可能性だってある。そんなとき、動物ポイントが役に立ちそうだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます