11. おや、ブランの様子が……!
「トラキチは頼りになるねぇ」
「ニャニャ」
素直に褒めると、トラキチは謙遜したように首を横に振る。いやいや何でも分かるわけじゃない、って感じかな。まあ、あくまで知識による識別だから、知らないものについて判別できないのは当然だ。とはいえ、この周辺にあって手の届く範囲にあるものなら大抵わかるみたい。言葉はわからないから半分くらいは僕の想像だけど。
でも、そうなるとモルットの役割って……?
もちろん、まだまだモルットの活躍の場は残っている。この樹海はとても広いらしいから、トラキチが知らない物もたくさんあるはずだ。とはいえ、この近辺の探索においては出番がなくなってしまうのも事実。自分の仕事を奪うトラキチをモルットはどう思うだろうか。
ちょっと心配になったけれど、それは杞憂だった。というよりも、トラキチの知識を何よりも絶賛したのがモルットだ。今もトラキチの周りをくるくると回って「きゅいきゅい」と褒め称えている。トラキチもまんざらではないみたい。「ニャ!」と誇らしげに返事をしているね。うん、どうやらすっかり仲良しみたいだ。
まあ、毒味は危険なお仕事だしね。ユニット特性として死ぬことはないとはいえ、毒物を摂取すれば苦しいし、仮死状態で動けなくなることもある。モルットとしても積極的にやりたいわけではないみたい。トラキチが大部分の植物の毒の有無を判定できるなら、無理してモルットに毒味をしてもらう必要も無いかな。
ということは、やっぱりモルットの役割は……。
「ペット枠……かな?」
「きゅい!?」
思わず漏れた呟きに、モルットが大きな反応を見せる。どうやら、自分の立場が揺らいでいることに今さら気がついたみたい。
モルットは手足をしきりに動かして、何かアピールしはじめた。意図するところは、「自分、役に立つっス」って感じかな。意気込みは凄いけど……うーん。まあ、ペットは癒しだし、大事な仕事だと思うよ。
「きゅい! きゅいきゅい!」
僕の反応が思わしくないと見て取ったのか、モルットは作戦を切り替えたみたい。何かを探すかのようにきょろきょろと周囲を見回したかと思うと、とある木の根元に移動した。そして、その足元を掘るように急かす。
「え、何? 何かあるの?」
『さあ? 被験者にそんな能力はないはずですが……』
「まあ、とりあえず掘ってみようか」
モルットに宝探し能力なんてないはずだけど、それでも必死に訴えるものだから、掘るだけ掘ってみることにした。何か見つかればいいかなってくらいの軽い気持ちだったんだけど――……
「……これ何だろう? 光ってるよ」
『本当ですね。ただの石ではないようです』
なんと、モルットが示した場所からは、
まあ、とりあえずは、役に立ったという判断にしておこうかな。別にペット枠でも可愛くていいと思うんだけどね。
「で、この石は何?」
「きゅい?」
尋ねてみるけど、モルットもわかってないみたいだね。
石には不思議な紋様が刻まれていて、薄っすらと青白い光が明滅を繰り返している。ただの石ではないとは思うんだけど……。
でも、この紋様、どこかで見たことがある気がするんだよね。ごく最近、しかも、わりと頻繁に見ているような……?
「あっ! ブランの背表紙に書かれてる文字に似てるんだ!」
全く同じではないけど、雰囲気は似ている。たぶん、同じ文字だと思うんだけど……。
『そうなんですか? 自分じゃ背中は見えなくって……』
肝心のブランの反応は、こんな感じ。少なくとも、読めるって感じじゃないね。関係はあると思うんだけどなぁ。
「ブラン、吸い込んでみてくれる?」
『これをですか? 構いませんよ』
もしかしたら、貴重な石なのかもしれないけど、現状では何に使うかわからない。ブランに関係がありそうだし、とりあえず吸収してもらうことにした。得られるポイントで、どんなものなのか推測できるかもしれないからね。
ブランが生み出した黒い球体に、不思議な石が吸い寄せられていく。石が完全に飲み込まれた瞬間、ブランに変化が起きた。彼女が吸い込んだ石のように、青白い光を放ち始めたんだ。
「ブラン! 大丈夫!?」
『どうしたんですか、マスター。そんなに慌てて』
「何ともないの? 光ってるよ!」
『はぁ……?』
今までにない変化に心配したけど、ブランは何ともないみたい。少なくとも、悪いものを食べてお腹を壊したとかではなさそうだ。
変化は一時的なものだったようで、そうこうしているうちに青白い光は消えてしまった。結局、なんだったんだろうか。
「そういえば、何かポイントはもらえた?」
『……もらえたのは“きゅうしん”ポイントですね』
「きゅうしん……? 何それ?」
『それが、私にも心当たりがなくて……』
ブランが言うには、手に入ったのは
うーん、なんだかよくわからず、モヤモヤだけが残っちゃったなぁ。
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