10. 猫だって知識チートします

 準備ができたら、洞穴周辺の探索を開始だ。目印も無く、視界も悪い森の中。下手に歩くと迷ってしまいそうだけど、トラキチがいれば大丈夫。“気まぐれな探索者”はユニット特性のおかげで方向感覚に優れているみたい。適当に歩いても洞穴の位置が正確にわかるそうだ。というわけで、気が向くままに歩いて行けばいい。


 基本的に既知の食べ物はブランに吸い込んで貰ってポイントに変える。ポイントにしておけば、駄目になることもないからね。森の動物や魔物が食べる分まで採取してしまうと何らかの悪影響があるかもしれないけど……森は広いし僕らがちょっと頑張ったところでそれほど影響はないはず。というわけで、気にしない方針。もう少し生活に余裕ができたら考えるかもしれないけど。


「ん? あれは食べられそう。初めて見る奴だよね?」

『そうですね』


 わりと洞穴に近い位置で、初めて見る食べ物を見つけた。低木に紫色の実がなっている。見た目はブルーベリーに似ているかな。


「よし、モルット! 出番だよ!」

「きゅい」


 抱きかかえたモルットをベリーらしきものに近づけると、彼は短い手を伸ばして一粒もぎ取った。そして、小さな口でもそもそと食べ始める。僕の頭に浮かび上がった判別結果によると、このベリーはほぼ無毒みたいだ。


 ひと仕事終えたモルットは、ふぅと息を吐いて額を拭うような仕草をした。手が短いせいで届いていなかったけど。その様子を見たトラキチが労うように「ニャ」と声をかける。モルットがびくんと体を震わせたけど、どうにか「きゅい」と返事をしていた。まだぎこちないけど、少しは打ち解けてきたかな。


 毒がないことがわかったので、いくらか摘んで食べてみる。かなり酸っぱいけど仄かに甘みも感じられておいしい。少なくともピンク色の謎の果物よりはいける。ポイントも親指の先くらいのサイズなのに、一粒0.1ポイントとなかなかの交換率だ。群生しているので、一気にポイントが増やせそう。


『マスター。食べ物ばかりポイントに変換していますが、他のものは変換しなくていいんですか?』


 ベリー採取に励んでいると、ブランがそんなことを言い始めた。たしかに食べ物中心にポイントを集めているけど、良さそうな石や枝を見つけたらそれらもポイントに変えている。食料だけってことはないと思うんだけど。


「石や枝以外ってこと? 何かあったっけ?」

『例えばですけど、植物の中には薬草のたぐいがあると思いますよ。負傷したときのことを考えて、そちらも集めておいた方がいいかと』


 なるほど、薬草か。薬草そのものがどれくらいの効果があるのかはわからないけど、たくさん集めれば地球の医療品と交換できるかもしれない。集めておけばちょっとは安心できそうだね。


「じゃあ、ブラン。その辺りの草を吸ってみてよ」

『残念ながら、地に生えている植物をそのまま吸うことはできないんです。一度刈り取るなどしてもらわないと』

「そうなのか……」


 ちょっと面倒だけど、できないなら仕方が無いよね。

 とはいえ、モルットの仮死の要因となった毒キノコは、触れるだけで炎症を引き起こすような猛毒だった。この辺りの草はそこまで毒々しい感じじゃないけど、直接触れるのは躊躇しちゃうよね。たぶん考えすぎだけど。


 考えた結果、資材ポイントを使って石のスコップを作った。土ごと掘り返してしまう作戦だ。これだと、木の葉っぱなんかは採取できないけどね。その辺りで目についた草を片っ端から掘り返していく。なかなかの重労働だ。これは大変だぞ……と思っていたところでトラキチがツンツンと僕の腰をつついた。


「どうしたの、トラキチ?」

「ニャ!」


 トラキチの言葉はわからないけど、何となく言いたいことは伝わってくる。どうやら、自分に任せろと言っているみたいだ。でも、何を任せればいいんだろう?


 わけもわからず、ただトラキチの様子を見守る。彼は掘り返した植物の前に立つと、それらを前足で選り分けはじめた。


「わぁ! 駄目だよ、トラキチ! 毒があるかもしれないんだから」

「ニャニャ!」


 止めさせようとすると、トラキチはそれを否定するように首を横に振った。


「……もしかして、毒があるかどうかわかるの?」

「ニャ」


 すると、今度は首を縦に振った。どうやら本当にわかるみたい。


「これも“気まぐれな探索者”の能力なの?」

『いえ、そんな能力はないはずですよ』

「だとしたら、素体とした虎の記憶が残ってたのかも」

『そんなはずはないのですが……』


 ブランにとっても予想外のことだったみたいで、困惑している。


 トラキチに色々と聞いて判断したところによると、記憶が残っているわけじゃなくて、生まれつき知っているという感覚みたい。「薬草の判別ができる」という能力だけを引き継いだ形なのかもね。


 まあ、それはともかく。

 トラキチは掘り返した植物を選別していく。選り分けた三種類の植物が薬草。土をかけた二種類が毒草。残りがただの雑草みたい。確認のためにまず薬草と分類された草をブランに吸収して貰う。


『間違いなく薬草ですね。薬効ポイントが合計で0.8ポイントになりました』


 三つで0.8ポイントだから、薬効はたいしたことないんだろうけど、トラキチの判別に間違いはなかったみたい。


 すごいぞ、トラキチ! 薬草と毒物の判別までできるなんて!

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