5. ユニットはぼわんと出る

 現時点での第一目標は安全の確保。とにかく、日が暮れるまでには安心して休める場所を見つけたい。できれば人里でもあればいいんだけどね。


 とりあえずは、道具作成の確認もかねて武器でも作ってみようかな。武器と言えば剣というイメージだけど、僕に扱えるとは思えない。槍みたいにリーチのある武器は安心感があるけど、森での移動を考えるとちょっと不便そうだ。


「まあ、ブランが言ってた石斧でいいか」

『石斧を作るんですか? 木材と石材のポイントが1ずつ必要ですよ』

「了解!」


 その辺りに落ちている石と木の枝を拾ってブランに吸わせる。小石に小枝ではポイントの加算がほとんどないので、ちょっと大きめのものを狙った方が効率よく集められそうだ。幾つか吸わせたところで目標ポイントに到達した。


『早速、作りますか?』

「うん、お願い」

『わかりました。手を差し出してください』


 言われた通りにすると、ポンという軽快な音のあと、手の上の何かが出現した。木の持ち手に石の刃。たしかに石斧だ。石の刃は細めの縄のようなものでしっかりと固定されている。要求される素材に縄はなかったはずだけど、そういう細かい素材は勝手に補完されるみたいだ。刃の部分は研磨されているけど、とても鋭利とはいえない。でも、その辺りで拾った石と枝で作ったと思えば十分な出来かな。


 試しに少し振ってみる。しっかりとした重さが頼もしいね。武器があるだけで安心感が違う。もっとも、これで虎と戦えと言われたら全力で拒否するけど。


 とりあえず、周囲の状況がわからないことにはどうしようもない。怖いけど覚悟を決めて周囲を探索してみることにした。邪魔な草木をかき分けて歩くのは大変だけど、それでもどうにか進んでいく。


 豊かな森だからか、それとも人が立ち入らないからか、意外と食べられそうなものが見つかる。それを片っ端からブランに吸わせていくと、食料ポイントが18まで貯まった。


「これさ。思ったんだけど、ちょっと効率が悪くない?」

『何の話ですか?』

「ポイントの話。だって、この大きさの果物五つで1ポイントなんだよ」


 この森でよく見かけるピンク色の果物。サイズは林檎と同じくらいだ。五つであんパン一つだと、交換効率はあまり良くない気がする。


『パンのような加工されたものだと少し交換効率が下がるかもしれませんね』

「そうなの? じゃあ、林檎だと1ポイントで何個貰える?」

『一個ですね』

「駄目じゃん!」


 果物五つが同じくらいの林檎一つになるなら、単純計算なら五分の一だ。毒の可能性もあるから直接は食べないことにしたけど、さすがに効率が悪すぎると思う。


『まあ量だけを考えれば効率が悪いのはたしかですね。とはいえ、マスターの世界の食品は質が高いので仕方がありません』

「質かぁ。この果物は食べられるけど、美味しくはないってことか」

『嗜好には個人差があるので何とも言えませんが……。まあ、一度食べてみればわかりますよ。毒の有無は“献身的な被験者”がいれば判断できます』


 ああ、ユニットか。そういえば、まだ試していなかった。食料ポイントは十分に貯まっているし、5ポイントくらいなら使っても大丈夫だろう。


「じゃあ、その“献身的な被験者”っていう奴を作ってみようかな」

『わかりました。ではいきますよ』


 ブランが宣言した瞬間、ぼわんというコミカルな音とともに、もくもくと煙が発生した。煙が晴れて姿を現したのは手のひらサイズの小型な生き物だ。つぶらな瞳と短い足が特徴的なそいつは、僕の知っている動物によく似ている。


「モルモットじゃん!」

『“献身的な被験者”ですよ。まあ、どう呼ぶかはマスターの自由ですが』


 何かの間違えかと思ったけど、あれがまさしく生産したユニットみたいだ。見た目はモルモットそのものなんだけどね。名前に被験者とついているだけに、何をさせるかは想像がつく。


「モルモットに果物を食べさせるってこと?」

『ご明察です。“献身的な被験者”――モルモットは対象物がマスターにとって有毒かどうかを判別することができます。遅効性のある毒物でも即座に結果がわかるので便利ですよ』

「へぇ」


 さすがにモルモットそのものではないみたいだ。遅効性の毒でもすぐに判別できるなら、毒味役にはぴったりだね。早速、ピンク色の果物をモルモットに与えると、小さな口でちょこちょこと囓り始める。


「あっ……」

『結果が出ましたね?』


 不思議なことに、判別結果が自然と頭に浮かんだ。それによると、この果物はごくごく弱い毒があるみたい。と言っても、一日に50個以上食べたらお腹を壊したり、嘔吐の症状が出るという程度。実質的にはほぼ無害だ。


 というわけで、一つだけ食べてみる。思いっきり囓ると、触感は林檎よりも梨に近い。瑞々しいといえばそうなんだけど……とにかく渋い! 甘みもあるんだけど、感じるのは口に含んだ一瞬くらいだ。あとはひたすらに渋さだけが残る。


「うえぇ……」

『口に合わなかったみたいですね』


 僕の様子を見て、ブランがくすくすと笑っている。絶対に結果がわかってたでしょ。


 ただ、食べてみたから分かる。この実一つで0.2ポイントが貰えるなら交換率は悪くない。むしろ、ガンガン交換した方がいいレベルだ。他の食べ物も今のところ似たり寄ったりなポイントだし、味は期待できなさそうだね。ブランに交換してもらった食べ物以外は食べないようにしようと改めて心に誓った。

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