第56話 3年生編~文化祭~
「それで逃げてきたってわけね」
結局、ヒマからも逃げて文化祭当日になってしまった。俺は瑞希に事情を話して、2人で文化祭を回ることにした。
「面目ない」
「それで私は良いけど、皆に説明したの?」
「い、一応」
明らかにヒマとか気まずそうな顔をしていたし、小鳥遊も
「これだから先輩は」
とあきれ顔だった。
「まっ、でも私を選んでくれたのは選んでくれたし、嬉しいかな」
その瑞希の表情はとても可愛い、と俺は思ってしまった。
「結局さ、まだ斗真君は好きなんじゃないの?」
瑞希が買ったわたあめを食べながら、俺にそう言った。
「そう、なのかな。でもヒマに告白された時も嬉しかったし、瑞希に言われた時も嬉しかった」
「いやそれキモ男の解答になってるよ?」
「いやそうじゃなくて、なんていうかな。分からないんだ、自分が」
「分からない?」
瑞希は不思議そうに俺を見つめる。
「自分が何も分からない。積み上げてきたもの、夢や目標、誰が好きか……何も分からない。いや、何も考えたくないのかもしれないな」
俺はどこかで蓋をしてしまったのかもしれない。
「なるほど、ね。斗真君は本当に考え込むからいけないんだよ」
「そうか?」
「そりゃぁ、ちゃんと人生設計している人もいるよ? でもみんな完璧じゃないし、上手く行かないこともあるでしょ? それに考えたいならずっと考えたらいいんだよ。私たちが見捨てる人に見える?」
「見えない、な」
そこで俺は気づかされる。周りに助けを求めて、周りをもっと見ろと言われているような気がして……俺を肯定してくれている気がして。
「気づいた?」
「あぁ、もう少しシャキッとしっかりと生きるよ」
すぐに答えが出ないなら……いくらでも力を借りて、助けてもらって、考えに考えて。選択したものを正解にするために頑張っていくんだ。
「そろそろ喪に服す期間も終えたしな。悩みに悩ませてもらう」
俺もいつまでも抜け殻ではいけない。失敗をもとに成長していくんだ。
「うん、その方が斗真君らしい」
「じゃあ、ちょっとヒマと語りあってくるわ」
「了解。あっ、最後のあの時間だけは一緒に過ごしたいかな」
あの時間とは、俺が去年カラメルに告白した“フィナーレ”の時間だろう。
「空けれたら空けとく」
そういって瑞希に手を振り、ヒマにメッセージを送ってその場を去った。
ヒマからの返信は早かった。
『休憩スペースみたいなベンチに座ってるよ』
とのことだったので、急いでそこに向かった。
ヒマは一人でクレープを食べていた。俺は何も言わず、隣に座る。
「一口もらっていいか?」
「え!? ど、どぞ……」
「うん、美味しいな」
学生レベルとは思えない美味しさだな。あとでアンケートに、最優秀賞間違いなし! と投票しておこう。
「そ、それで?」
何の用? とヒマは俺の言葉を促した。
「ただ単純に謝ろうと思って。そしてもう一つはお願いだ」
「お願い?」
「いつになるか分からないけど、“答え”を待ってほしいんだ」
「……」
ヒマはずっと俺を見つめている。
「まぁなるべく早く答えを出すつもりだ。俺もちゃんと向き合う。だから待っててくれ。とりあえず今は“親友”として」
「う、うん!」
どうだカラメル、そっちは元気か? 俺は時間がかかったけど、立ち直ったぞ。いつかお互い大人になって、楽しく話せたらいいな。
まぁ待ってろカラメル。俺も成長して、お前に会いに行く。その時はお前も“親友”として楽しく遊ぼうぜ。
文化祭2日目、“フィナーレ”の時間。俺は瑞希との約束があったので、体育館裏に来ていた。
「斗真君はやっぱりその感じがいいよ。それが一番良い」
「お陰様で」
「後すぐ調子乗るところもね」
夕焼けに流れているしんみりとする曲が流れていて、思わず俺は泣きそうになる。今までの思い出であったり、関係であったり……色んな事を思い出してしまうものだ。
「斗真君、私が好きだよって言ったら?」
「また悩んで病んじゃうな」
「本当元通りになったわね」
「まぁなんやかんやで、瑞希に色々助けられたし関係も深いってのはある。カラメルやヒマ、真緒に後輩や先輩、旧友のハルとかとは違った糸で結ばれている、って感じだな」
特にカラメルや、今だとヒマとよく一緒にいるけど、瑞希はまた違ったベクトルの関係であり、深い関係でもあると思っている。
「それは、嬉しいかな」
「瑞希を元に俺の物語はいつだって始まってたしな。感謝もしてるし運命だとも思っている。可愛いと思ったことだって、もちろんある」
「それも嬉しい」
「だから瑞希の事も改めてちゃんと考えるよ」
「そっか。じゃあ提案なんだけど」
「提案?」
「斗真君がいつ答えを出すか分からないけどさ、彼女面していい?」
「なんでだよ」
いや心から出たわ今。俺ってツッコミ気質なのか。
「まぁ私の事も忘れないで、ってこと。ほら、皆離れ離れになるじゃない?」
「ああそっか」
俺とヒマは同じ大学に進学予定だが、他の皆は違う。今のような日常も、もう過ごせなくなる。
「たまには会いに行くし、大学で何してるかの情報も収集しないと。あとはたまに電話ね」
「重すぎないように注意してな」
「冗談だよ。でも、たまには会いたかったりするし……やっぱり彼女になりたいからさ」
「大丈夫だよ。俺らはいつまでも仲間だ。まぁ瑞希とは度々噂になってたけど」
「だからなんか変な感じと言うか、仮の恋人みたいな感じがするのね」
「それなすぎる」
未来は誰にも分からない――
一日一日頑張って生きていくしかないのだ。
【不定期投稿になります】美少女を無視するところから俺の青春ラブコメは始まっていく 向井 夢士(むかい ゆめと) @takushi710
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