第55話 3年生~秋~

 季節は秋になり、今年も文化祭の時期だなと感じる。まぁ俺らは3年生だしあまり楽しめないと言えば楽しめないが……


 小鳥遊によると、今年の文化祭は


「真面目かつ大胆に行きたいっすね」

 との事だった。


「ある程度真面目に良い感じを見せれば、色々と評判も上がって自由にやれそうですし」

 うむ、流石は俺の後輩だ。立派に成長しているな。

 


 俺はふと、去年の文化祭を振り返る。去年はほぼ私物化して、告白をしたのが懐かしい。

 今年は受験の事を考えてピリついてるし、カラメルもいない。最後の文化祭、と言うと聞こえは良いが、あまり楽しめないので難しいところだ。


 瑞希に言われたことを思い出す。皆は常に進み続けている中、俺はまだ止まっている。俺も考えて歩き出そう――






 俺らのクラスは、各々好きなモノをつくって展示をすることになった。フォトスポットであったり、好きな事を広める何かを作ったり……自由に作成できるし、時間もかからないので全会一致で決まった。


「真緒は何作ってるんだ?」


 文化祭の準備の時間、俺はアイディアが出ず、皆の作品を見てみることにした。適当に終わらせて勉強している奴もいる。


「スクープ! 謎の男と言われる安佐川斗真は何者なのか!? っていう新聞みたいなものを作ろうかと」


「やめなさい」

 一体何を作ろうとしてるんだ。


「瑞希はチラッと見たけど、問題集作ってた。良問集らしい」

 意識高すぎるだろ。相変わらずの怖さだな本当に。



 気になったので瑞希の方を見ると、思った以上に問題と解説がびっしり書かれていた。なんでそんな楽しそうな顔をしてるんだよ。

 祐樹は無難にスポーツの歴史みたいなのをまとめていた。そうそう、それでいいんだよ。さてヒマは……


「人生について、かな」

 いや文化祭には重すぎるだろ。急に哲学押し付けてくるな。



 まぁそんな感じで参考にならなかったので、適当に自分の好きな趣味とかを画用紙にまとめて終わりにした。まぁ俺は、文化祭見る専だし別に問題はない。


 そしてもう一つ問題がある。今年の文化祭はどのように行動するか、だ。皆で色々楽しめるのも良いが、瑞希たちから個別に2人でどう? といった誘いが複数来ている。


「改めて、か」


 俺は今誰が好きで、どうしたいのか。カラメルとの件の後、置いておいたというか蔑ろにしていた問題について俺は向き合う。


「イケメン男ムーブするか? いや、それは変な噂とかが広まっちゃうしな」


 変な噂によって、色々と問題が起きるのはうんざりなのでこの案はないことに。ならここは無難に皆で楽しむか? 


「うん?」

 そうやって考えていると、携帯の通知音が鳴った。メッセージを確認すると


『アーサー、今度の休みさ、市内に遊びに行かない?』

 とヒマからのメッセージだった。


「まぁいいか」

 

 文化祭まではあと2週間ぐらいあるし、俺はぎりぎりまで考える事にした。今はとりあえず、一人一人と向き合って考えていこう。






 そしてヒマとのデート? の日になった。ちなみの俺の服装は、パーカーとジーパンというシンプルな服装である。未だにファッションは学ぼうとしていない。

 ヒマとは結構遊ぶこともあったが、ヒマもラフな感じだし別に気にしてはいなかった。ただ、今日は違った。

 いつも違って大人っぽいロングスカートで、秋にピッタリ合うジャケットを着てアクセサリーもつけている。


「あれ? 俺間違えた?」


「いや、それはその、いつもと違う感じがいいと私が思っただけと言いますか、そのね、うん!」

 ヒマの言う事は。いまいちよくわからなかったがそこはスルーしていつも通り遊ぶことに。


「ここ行きたい!」


 急にヒマがそう切り出して、携帯の画面を見せてきた。市内とか街中とかでしか見ないオシャレなカフェと言った感じだった。


「へぇ、最近ここら辺にできたのか。行ってみるか」


「やりぃ」



 そういってカフェに行くと、行列ができていた。どうやら大人気のようだ。


「せっかくだし並ぶか」


「う、うん」


 そして気になっている点が一つあった。今日のヒマは何だかよそよそしい。


「なんかあったか?」


「いや! 何でもない!」


 質問してもはぐらかされるし、答えてはくれない。俺なんか悪いことした? めっちゃ不安になるんだけど?



 



 その後、40分ぐらい行列に耐えて何とか入ることができた。何だかよく分からないオシャレなケーキセットとコーヒーを注文し、一息つく。


「ご、ごめんね。無理言って」


「なら俺も無理を言わせてもらおう。今日の狙いは何だ?」

 俺は逆にヒマに質問する。


「ここで言わなきゃダメ?」


「言わないと俺はヒマのケーキも食べてしまうかもしれないな」


「フフッ、何それ」

 とヒマは笑って、本音を語り始めた。


「アーサーとね、初めての場所行きたかったんだ」


「初めて?」


「私たちも知り合ってさ、軽口とか冗談も言い合ってた。でもね……関係性の長さには勝てないものもあった」


 ヒマが言っているのは、カラメルや瑞希の事だろうか。どれだけ仲良くなっても、昔からの絆には負けてしまう……それがヒマには嫌だったのだろう。


「別に気にしなくていいし。ヒマも大事な友達だろ」


「そうだね。いつどんな言葉で、どんなキャラでもアーサーは接してくれた。でも私は嫉妬した。だって私は……大好きになっちゃったもん」


「え?」


「アーサー、好きだよ。私は、安佐川斗真という一人の男の子が大好き。その弱さも、性格も、色んな事を経験して成長していった姿も全部好き」


 正直、ヒマにそういった素振りを感じる時もあった。けど俺は、恋愛から目を背けた。


「私が全部塗り替えてあげるからさ、ってこれじゃ私も重い女か」


 そう軽く笑うヒマに、


「考えさせてくれ」

 と逃げた。


 あぁ、そうだ。俺はいつだって逃げている。


 俺は自分が分からない。いったい俺は何がしたくて、何を叶えたいのか。あの件以降、どこかに置いてきてしまったのだろうか。



 そして高校生活最後の文化祭が始まる――


 





 


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