第54話 3年生~夏~

 季節は夏になった。今年の夏は、それほど暑くなくて過ごしやすい。そして今年も俺たちは夏祭りに行くことになった。俺、瑞希、祐樹、真緒、ヒマ、小鳥遊、来間、ハル……で行く予定だったが、祐樹は推薦の準備が忙しいので来れないとのことだ。

また、ハルは親戚の用事、真緒は夏期講習、小鳥遊と来間は2人で旅行と今年は、皆各々の用事があった。よって……



「今年は俺と瑞希とヒマだけだな」


「いやなんでTシャツなの」

 瑞希にツッコまれる。


「浴衣は嫌いなんだよ」

 なんか去年もあったなこのくだり。


 俺と瑞希とヒマだけになるとは思わなかったので、何だかムズムズする。


「そういや去年も先輩は来てなかったな。瑞希は大丈夫なのか?」

 3年生は受験が常にまとわりついているからな。


「私は大丈夫よ。そういや2人は志望校同じだっけ?」

 瑞希はやっぱり凄いな。と言うよりもはや恐怖。もう怖い。


「まぁ瑞希と違って学力はそれほどだけどな。まぁ得意教科で勝負できるし、こっちも余裕かな」

 そこまで学力も高くなく、得意教科で勝負できるのでこっちも余裕があった。まぁ勉強から逃げている節もあるけど。てへぺろ。


「ねー楽勝だよねアーサー?」

 東雲さんは笑いながら俺にハイタッチを促してくる。


「随分と仲良くなられたことで」

 いや瑞希だから怖いって。



「だいぶ1年って早くて、色々変化するものなのね」


 瑞希の言うようにこの1年とても早かったし、変化も色々あった。カラメルの件もそうだし、瑞希や後輩たちにヒマ……1人1人の関係も変わっていった。


「ああ、色々あったな。本当に色々あった」


 本当に人生は気まぐれと言うか不確定だ。ずっと平穏で何も起きない日々でも俺は良いんだぜってな。


「まぁ私たちも色々仲良くなったし。ねっ、アーサー?」


「お、おう」

 おいヒマ! そのキラーパスやめろ! 瑞希の視線が怖いから!


 その瑞希の様子を見てかヒマが、


「あのさーみずきゅんってさ、アーサーの事まだめっちゃ好きだよね」


「「ぐっ!」」

 俺と瑞希は意表を突かれて、唾が変な所に入ってしまう。


「いや、あのその、ね。え、えとね。ブロッコリーサラダって良いと思うの」

「そ、そうだな。お、おおおう。押忍って感じだな?」


 いや瑞希も俺も誤魔化し方下手すぎるだろ。


「まぁ別に良いと思うけどねん。今フリーだし」


「まぁそうだな。もう自由というかなんというか」


 カラメルへの気持ちもあるが、それは“友達”としての意識だ。お互いに合わなかったから新たな恋愛をしてみようとも話してたし、何ならカラメルは新しい彼氏とイチャイチャしてるかもしれない。俺だって自由なわけで。


「じゃあさ、アーサー? 私と付き合う?」


「ゲホッゲホッ!」

 今度は2人とも飲んでいたジュースが変な所に入ってしまう。


「別にいいでしょ?」


「まぁいいっちゃいいけどうーん……」


 俺は、カラメルの事があってから“恋愛”と言うのに離れてしまった。忘れられないという女々しい気持ちや好きな人がいないから、と言った理由ではなく単に疲れてしまったから。


「まっ、その辺は今度話すとして花火始まっちゃうよ!」


 そのヒマの声で俺と瑞希は、この夏祭りの世界に戻されて身体を動かした。




 花火を見るにあたってよい場所が取れた。なんで俺が真ん中なのかは置いておこう。


 座ってすぐに花火が打ちあがった。最初は赤やら緑やらカラフルな小さい花火が綺麗に打ちあがる。ヒマは


「やばっ。これ映える~!」

 と写真を撮るのに夢中になっていた。



 俺は花火を見ながら、1年を振り返っていた。そして来年はどうなるか、と考える。皆進学して離れ離れになっちゃうんだろうか。いや夏休みには集まる? 小鳥遊たちは俺たちがいなくなって、どうするんだろうか? など未来の事を考えようとして辞める。だって何が起きるか分からないから。いくら考えても無駄だ。



 人生は計画性を持って生きよう、だとか人生行き当たりばったりだ! という言葉がある。これはおそらく両方正解なのだろう。ある程度の計画性、目標を持ちながら臨機応変に対応したり、好きなことをする。そんな人生が理想なんだろうな。




 

 打ちあがる花火のサイズは大きくなっていく。今は中ぐらいだろうか? 俺は未来の事を考えるのをやめ、自分自身について考える。


 横目で瑞希とヒマを見る。どちらも美人で凄く可愛くて優しい良い人だと思う。いったい俺の今好きな人は誰なんだろうか? それとも恋愛に逃げている? なら新しい恋愛を初めて見る? と考えていくうちに分からなくなって思考を放棄する。


 俺は今後どういった行動を取るのか、と思うが未来の事は分からない。ここは何も考えず未来の俺に託そう――





 花火もクライマックスといったところだろうか。次から次へと花火が打ち上げられていく。ヒマも撮影するのをやめて、花火に見惚れていた。


 俺も集中していて見ていたが、横から肩をトントンと叩かれた。


「うん? どうした瑞希?」

 花火の音が大きいため、かき消されないように大きな声で話す。


「斗真君は今、どう思ってる?」

 何について、は言わなくても分かった。


「どうなんだろうな。恋愛をしたくないけどしたい、みたいな意味が分からない思考になってるな」


「やっぱり私じゃダメ?」


「ダメってことはないけど……」

 そういや瑞希は急に積極的になるんだった、と俺は思い出す。


「じゃあ、また考えてほしい」


「というと?」


「今斗真君がどうしたいか、ってことだよ。それは長く考えてもいい。今の関係のままで過ごして、改めて考えて……」


「ああ、なるほどな」


 あの時のように考えてほしいってことか。自分の気持ちを改めて考えた上で、瑞希はそう言うんだな。全くまた難しい課題を提出しやがって。


「仮の彼女とか、言えるような関係じゃなくても良い。けど私は、斗真君のそばにいたい」



 さてどうしたものかと考えているうちに暑さは過ぎ去ってゆく。


 そして季節は秋になる。今度は文化祭がやってくる――



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