第53話 3年生~生徒会選挙③~

 選挙の準備期間も終わり、いよいよ生徒会選挙当日となった。俺と小鳥遊、そして来間と瑞希も体育館裏で最終準備をする。


「斗真君、どう?」

 瑞希がそう話しかけてきたので、


「安心しろ。大丈夫だよ」

 と答えておいた。今日、俺は瑞希に勝つ。




 まずは来間と瑞希の演説からなので、緊張しながらもその様子を確認する。


「前会長の私が言うように……」

 と瑞希は予想した手を使っている。実績、人柄、生徒の声を聴くといった多くの点を簡潔に分かりやすく演説している。


「完璧ですね」

 同じく待機している小鳥遊がそう言ってくる。


「まぁそうだな。ただ、瑞希には足りないところがある」


「ずる賢さ、ですか」


「そう。勝つためにはズルい方法が、決定打になったりするんだよ。だからこそ織田信長も石田三成もやられたんだぞ」


 歴史に残る戦でも、“裏切り”が大きなポイントになっている。ずる賢い方が得をするときもあるんだ。


「物は言い様。ですね」


「まぁ俺の場合、ずるいというか楽しているというかだらけているというか……」


 そう話しているうちに瑞希の演説が終わり、大きな拍手の音が聞こえてくる。ふと裏で待機していた俺を見て、笑ったような気がした。


 来間は、瑞希の演説をベースにしつつ、自分の性格や公約を説明してくる。うむ、普通に良い演説だ。


「しっかりしてるな」

 そうポツリと俺は呟いた。


「そう、ですね。非の打ちどころがないというか」


「ただ俺にとっちゃ好都合。こっちの方が“出来”がいいと思うぞ」


 こういうプレゼンや発表、演説など伝える時には重要な点が2つあると思っている。瑞希や来間も両方あるが、俺たちの方が上だと俺は感じていた。



 そうして次に俺たちの演説となった。俺がやる事は、この雰囲気を変えて小鳥遊の演説の場を整える事だ。


「えーまぁ、先ほどは会長でしたがこちらも一応生徒会所属なので、まぁ説得力はあるかと」

 と少し軽い感じで、雰囲気をこっちに手繰り寄せる。


 その後、小鳥遊の人柄や良い所などを簡単に説明した後、


「ぶっちゃけ学校って面倒な事だらけですよね。選挙期間中、色々な意見が集まりました。そこら辺をこの出来る後輩が演説で説明してくれるので、是非聞いてやってください。あっ、その前に映像をどうぞ」


 瑞希と来間は普通のポスターみたいな感じだったが、こっちは映像だ。


「あーこれは良い人の笑顔ですね。演技じゃできないですよ」

 と映像に俺はツッコミを入れながら補足する。ウケも一番良い。


 そして短い映像が流れた後、


「僕の応援演説は以上です。ご清聴ありがとうございました」

 と言うと、瑞希の演説終わりと同じぐらいの拍手の音が聞こえてくる。


 ただこれだけでは瑞希に負けてしまう。去年、瑞希に負けたのはもう一つの部分が足りなかったら。


「えーと小鳥遊木葉です。私は実績を残す、生徒に寄り添う学校にしたいと考えています」

 そして生徒の意見、考えた対策案を説明していく。生徒からも好意的な声が聞こえてくる。


「この点は藤川先生と話をして,協議中なので文句を言うなら先生に言ってください」


 そういうボケも入れつつ、先生と話をしているという事で実現性もアピールできる。その後もスムーズに話していき


「これで演説は終わりです。ご清聴ありがとうございました」


 と言うと、今日一番の拍手の音が聞こえてくる。俺と小鳥遊はお互いに目を合わせて、少し笑った。




 開票結果は明日、という事らしいが、勝ち負けは既に俺たちには分かっていた。俺と瑞希は放課後、人がいなくなった教室で話していた。


「私の負けね」


「今回はリベンジだからな。こっちとしても負けられなかったから」


 去年は瑞希に負けてしまった、っていうのもあったし色々と俺の考える所もあった。


「本当、今回は斗真君にやられた」

 瑞希は笑いながら言う。


「瑞希は完璧な所は完璧だけど、ずる賢さはないからな。こういう手は俺の得意分野だ」


「私としても上手くいったつもりだけど、それ以上だったわね……」


「こういう時に大事なのは“活動”と“引き込み”だからな。前回は小手先すぎてやられたが、今回は活動も完璧に考える事ができたからな」


 去年の事があったからこそ、上手く行ったってのもある。上手く引き込みつつ、公約や活動内容を伝える事も出来た。


「まさかあそこまで振り切るとは思わなかったわ」


「……これで俺は支えられる方から脱却、かな」


「何よそれ」


「俺はお前にいつも支えられてきたし、助けられてきた。出会ったとき、告白するとき、カラメルがいなくなった時……いつだって瑞希は、俺の横にいた」


 いつだって俺は瑞希に支えられていた。だからこそ俺は、瑞希に勝って証明したかった。俺だって成長して、支えられるだけじゃないと――


「うん」


「だから俺は対等になりたかった。俺も、もう少しやればできるんだぞと証明したかった。挑戦だったけど、変われた俺がいたから頑張れた。ありがとう」


「……うん」


 俺と瑞希は、こうしてしばらく選挙の余韻に浸った。



 そして次の日、選挙結果が伝えられて、小鳥遊が会長になった。後輩たちがまた頑張ってくれたらな、と強く思う。


 そして季節は夏へ――



 

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