第52話 3年生~生徒会選挙②~

「よし、集まったな。小鳥遊後援会の完成という事で、はい乾杯ー!」

 

 小鳥遊の応援演説をすることになった次の日、休みという事もあって俺たちはファミレスに来ていた。俺と小鳥遊以外のメンバーは、真緒、祐樹、ヒマ、ハルだ。

 使えるものは何でも使う。これこそが俺のやり方なのである。


 ヒマが


「それで具体的はどうするの?」

 とまず聞いてくる。


「よし、順に説明していくぞ」


 生徒会選挙は約2週間後。それまでに選挙活動であったり、ポスターなどを作成したり、演説の準備をしたりしなければならない。


「まず祐樹とハルの仕事はな……同学年への布教だ。ハルは2年、祐樹は3年へ小鳥遊の事を自然に広めたりしてくれ。まぁこれは真緒やヒマにもやってほしいが、この2人には別の仕事もあるからな」

 

 成績が良くてビジュアルもよく、交友関係を広く持っている2人を中心にこの事は任せよう。生徒会選挙の投票に関心がない奴も一定数いるため、この活動である程度の票は見込める。


「おう任せろ斗真!」

「まぁアサ君が言うなら仕方ないなぁ」


 2人も納得してくれたようだ。

 

「こちらこそ先輩が仕方なく使ってくれることを感謝しましょうね、クソアマさん」


 小鳥遊とハルは相変わらず仲が悪いが、まぁこれは本人たちに解決してもらおう。


「真緒には軽い映像の編集を頼む。まぁ1分ぐらいだし、活動アピールみたいなものだから簡単でいいぞ」


「あいあいさー」


 真緒には映像の編集とかを主にしてもらう。映像は主に活動アピールが目的で、観た人に好印象を与えて引き込むのが狙いだ。


「それで最後にヒマ。ヒマは俺と小鳥遊が公約やら活動内容を考える時に手づだってくれ。特に先生と話す時にヒマは色々と便利だ」


 バスケ部で明るくて喋りも上手いヒマは、先生と話す時に色々と便利だ。


「つまり私が愛されてる枠ってことね?」

「いや違うから」


 この一瞬で場を急速冷凍しないで? いや小鳥遊さん睨まないで?


「まぁ、皆勉強とか部活とかあるから出来る範囲で頼む。皆で来間と瑞希に勝つぞ!」


「「「「「「おー!」」」」」」





「ねぇ斗真君。手伝ってくれない?」

 

 決起集会をした休みが明け、今日から2週間の選挙期間に入る。そんな中、俺は瑞希に話しかけられた。


「ん? 手伝うって何を?」

 俺は何も知らないふりをする。


「生徒会選挙よ。私は応援演説する事になったし、斗真君も手伝ってくれると嬉しいな、なんて」


「なるほど。そりゃ大変だな」


 ここで俺は考える。もしかして瑞希側の情報が手に入れられるのではないか、と。

 ただそれはないな、という思考になった。瑞希には正々堂々と勝ちたい。まぁ俺のやり方も結構ひどいが、わざわざ裏切るみたいなことはしたくない。やるならコソコソと敵情視察ぐらいがいい。まぁこれは、俺の流儀と言うか考え方なんだけど。


「残念ながらそれは無理だな」


「え?」

 

「俺は小鳥遊側につくからな。俺は俺のやり方でお前に勝つ」


「そう、なの」


「別に瑞希が嫌い……とかいうわけじゃないからな。瑞希に初めて勝って、支えてもらうばかりの俺じゃないことを証明するだけだ」


「そっか」


 瑞希は俺の言葉を聞くと、嬉しそうに


「望むところ」

 と瑞希は笑いながらこう言った。今度は俺が勝って、天変地異を起こしてやるよ。

 






 その後、俺たちは順調に選挙活動をしていった。祐樹を筆頭に広報活動をしたり、動画を制作したり……そして今日は活動内容を考える重要な日だ。


「ヒマ悪いな。せっかくのオフなのに付き合わせちゃって」


「今度クレープね」


「へいへい」


 どうやら俺の周りには生意気と言うか現金なやつが多いな。


「それで先輩、どうするんですか?」

 小鳥遊が不安そうに聞いてくる。


「とりあえず集めた意見をまとめると……もっと設備を充実してほしい、エアコンを全教室に設備してほしい、携帯を自由に使えるようにしてほしい、テストが嫌だからどうにかしてほしい、もっとイベントを増やしたり豪華にしてほしい、といったところだ。全部ぶつけよう」


「えっ、全部ですか?」


「どうせ瑞希たちは、ある程度の事は不可能だから切り捨てるはずだ。あいつらはそれよりも実績とかをどんどん出してくるはず。だからこっちは、全部拾おう」


 俺らは常に“寄り添う”っていう事を押し出して、来間と瑞希に対抗する。そのためには先生と話して、実現性を確認する必要がある。



 そして俺たちは、生徒指導かつ生徒会選挙の担当の藤川ふじかわ先生に時間を取ってもらい、生徒の意見を確認してもらうことにした。


「そうだなぁ。どれも難しい、っていうのが先生の意見になるな」

 藤川先生は、意見を見るなりこう言った。


 ただこれは想定済みだ。ここからどれだけ譲歩してくれるかの戦いになる。


「エアコンを全教室、っていうのは厳しいんですかね?」

 まずは一番可能性がありそうなエアコン問題から攻める。


「そうだなぁ。費用的にいけないこともないと思うが……あまり使わない教室もあるからなぁ」


「といっても週2回ぐらいは最低限使うし、どうにかなりませんか?」


「まぁ協議はするが……期待はできないな」


「そうですか。分かりました」


 正直この問題は厳しいので、ここで食い下がる。協議してくれる、というだけでも大きいし、仮に来間たちがこの話題を出しても影響はない。


「次にテストが嫌、という意見なんですけど過去問の配布とかも無理ですか?」

 俺は次にこの点について攻める。


「そうすると先生側としても色々都合があるからな。これも厳しい」

 藤川先生はまた厳しい表情になる。


「勉強会とか何かできないっすかね」

 小鳥遊がポツリとつぶやく。俺たちは打ち合わせした通りに話を進めていく。


「あっ、じゃあ補講みたいにテスト対策会開くってのはどうでしょう! 気軽に質問とかもしやすいし」

 ヒマが同調する感じで意見を出す。


「それいいな。朝の30分とか、放課後とか昼休みとか少ない時間でも良いので何とかなりませんかね? そこからつかめるテストの傾向もあると思いますし」

 最後に俺がまとめの意見を出す。これでどうだ!


「うーむ……確かに都合はあるが、できなくはないな。一応、プリントなどもあるにはあるし」


「それを行う事で、できなかった人はあまり文句とかも言えなくなりますしね」

 まぁ、俺はあっても絶対に行かないだろうが、それは関係ないのでセーフ。


「まぁ、それは前向きに検討できるな。それについては構わん」

 よし、これで一つ言えることが増えた。このように公約であったり言えることを増やすのが大事だ、



「あとは携帯とイベントですね。イベントは、できるなら新入生歓迎会とか卒業生見送りの会とかでしょうか」


「まぁこれは学校の都合があるからな。難しいだろうな」

 藤川先生の言う通りだ。そう簡単にイベントなんてできない。触れてない形態に関しても勉学の影響でどうたらこうたら言われるのがオチだ。


「えぇ。だから僕たちが考えたのがホームルームの活用です」


「ほう」

 藤川先生は興味深い、と感じたのか多少前のめりな姿勢になった。


「ホームルームは具体的にすべての時間することが決まっていません。だからこそ、その時間が使えると思ったんです。生徒会主催で何かやることはもちろん、クラスで各々やってもらう形でも構いません。あとは新入生に4月に先輩が話す機会を作ったり……どうでしょう」


 わざわざ大きいイベントを考える必要はない。楽しい時間を増やすという事が重要かつポイントである。ホームルームでやる事が決まっている時もあるが、決まっていない時もある。活かすならここしかない。


「もちろんやる事がある時はそっち優先で構いません。学年別で分けたりも考えられるかと」


「なるほど。協議は必要だが、ホームルームは基本的自由な時間だからな。まぁ1、2回はやれるだろう」


 これで2つ目クリア。次は携帯についてだ。


「次に携帯ですけど、授業とかに支障が出ないようにイベントだけ自由に使えるようになりませんか? わざわざ写真を買ったりするのも面倒ですし」


「まぁそれは、結構協議されるんだ。ただ、日常での悪影響は懸念されてな」


「なら、違反した罰則を厳しくするとか。それで何とかどうでしょうか」


「確かにそれなら大丈夫そう。違反した人の責任でもあるしね」

 ヒマも意見の後押しをしてくれる。


「使い捨てカメラなども準備もありますし、基本的にスマホが使えないのは何かと不便かと。文化祭や体育祭ぐらいはいいんじゃないでしょうか? 後は携帯を使って、何か企画できるかもしれませんし」

 今度は小鳥遊がまとめに入る。


 今は、オンライン会議なども行われるようになり、色んなアプリなども出た。スマホだと簡単に写真も撮れるし、シェアもできる。


「まぁ罰則を厳しくしたり、多少取り締まりを厳しくすれば可能かもな」


「ありがとうございます」

 俺はそう言いながら、心の中でガッツポーズをする。


「それにしても対策というか案がしっかり練られていて驚いたな。これほどとは思わなかった」


「いえいえ。真剣かつ心配性だからですよ」



 選挙に勝つのに一番大事なのは、間違いなく活動内容である。どのような公約を掲げるか、そして実現させることができるかという2点が大切だ。


 そこで話し合って、生徒の要望こそがやはり一番重要だという意見になった。ヒマのサポート、小鳥遊の選挙への真剣さ、俺の心配性があるが故に考えられる懸念点への対策……それらを活かし、良い結果になった、ということだろう。



「「「ありがとうございました」」」

 と藤川先生に挨拶をして、俺ら3人は帰りながら今日の結果を喜び合う。


「上手く行きましたね……先輩のおかげです」


「率先してやったりもしたけど、元は小鳥遊の考えだし、真剣だからってのもあるぞ。あとは当選して良い学校にしてくれ。俺は知らん」


「全くこれだから先輩は」


「というか私必要なかったじゃん! ほとんどアーサーが喋ってたし」

 ヒマは何だかご立腹な様子。


「いやなんかエンジンかかっちゃってさ。狙い通りに上手く行くし。まぁでもヒマがいるから安心できた、からかもな」


「ふふん、なら許そう」



 

俺たちは着々と準備を進めていく。




そしていよいよ選挙の日がやってくる――

 








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