第51話 3年生~生徒会選挙①~

 夏の大型イベントと言えば夏休みだろうか? ただその前に、俺たちには大きいイベントがあった。それは生徒会選挙。去年はカラメル対瑞希で瑞希が勝った。俺らもあれやこれやと工夫したが、瑞希と祐樹のハイスペックさというか完璧な演説にやられてしまった。


 そして今年は、来間対小鳥遊という構図になった。また、生徒会人気が高まったのか立候補する人が多い。チャラ系に真面目女子など多種多様である。あいつらもラブコメするのかな、というオタク脳もまだ健在である。


 生徒会選挙と言えば演説が決め手になるが、応援演説も非常に重要である。


「先輩、お願いするっす」


 俺は小鳥遊に応援演説を頼まれた。


「あれ? これって同級生に頼むもんじゃないの?」

 先輩後輩のイメージがあまりない。


「いやいや、私あんまり仲良い人いないですし。先輩は去年も経験してますし」


「まぁ規定はないし、いいけどな。ハルとかはどうなんだ?」


「あのアマは嫌っす。好きな人だからいいって……先輩その気持ち分かりませんか?」


 やめろ! 上目遣いで見るな! それは俺に効く! 生意気なくせに可愛いからたちが悪い。


「分かった。まぁやるからにはお前を会長にしてやるよ」


「……ありがとうございます。先輩も言うようになりましたね」


「そうか? あまり変わってないと思うが」

 自分の変化って気づくところもあれば、気づかないところもあるんだな。


「いやいや、どんどん良い人になってますよ。まぁクズな部分も残ってますが。それより“あっち”の応援演説する人知ってます?」


「えっ誰だ?」

 来間は交友関係広そうなイメージだが。


「瑞希会長ですよ。一番説得力がある人ですよね」

 ふーんなるほど。ふーん。ふぅぅぅぅぅうん。


「去年のリベンジってわけね。瑞希に一回ぐらいは勝ちたいしな。お前も来間に勝ちたいし」


「はい。よろしくっす」

 こうして俺と小鳥遊の戦いが始まった。



 去年、瑞希と祐樹に戦う時は小手先の面白要素を入れたり、理想論などを色々と言う戦法で言ったが負けてしまった。最終的には完成度の差が出てしまった感じだ。


「だから今回は振り切ろうと思う。めちゃめちゃ媚を売るし、理想論を言いまくる」


「えっ、でもそれじゃ」


「分かってる。ある程度、実現性も必要だ。そこは先生と話し合って考えるとして……瑞希と来間はどっちも真面目で正攻法かつ少し工夫してくる感じだろう。真正面でも戦っても負けるだけだから、こっちは邪道で行くぞ」


 瑞希と来間は真面目だから、基本は正攻法なのは間違いない。そこで説得力が必要になってくる。使うとしたらあの体育祭の一件か、今までの活動実績か。まともに戦って勝てる見込みはほとんどない。


 だからこそ、こっちは邪道で行く必要がある。先生と話し合って実現性だけ加えることができたら勝率はグッと上がる。こういう戦い方は得意だからな。


「まぁ一から述べていこう。お前の印象は?」


「えと、チャラくていつも怠そうな感じで人付き合いとかあまりしない感じ、っすかね」


「そうだ。だからこそ選挙期間中は絡みまくれ。人に優しくしろ。特にオタクには効くぞ。こういうの弱いからな」


「は、はぁ」

 後で小鳥遊にも布教しておこう。


「ただ、やり過ぎは良くないからそこは気を付けて。ある程度自然な感じがベスト。やり過ぎると媚を売っていることがもろに出ちゃうからな」


「な、なるほど」


 ちょうどいい塩梅で優しさを出していくことで、とても良い印象を与えられる。


「まぁお前が明るく振る舞えは、面白いし可愛いんだからそこから票は集められる。お前はちょっとギャル気質なんだから、今度選挙あるけど投票してください、とか気楽に言っておけ」


「先輩、こういう時ズルいんすから……全くもう」


「どうせ色々広報活動するんだから、そのついでに話せそうと思う奴がいたら話すことだな。そこで仲間を増やそう」


 実際の選挙ならとやかく言われてしまうが、まぁ高校生ならセーフでしょう。


「新入生は学校の事がまだ完璧に分かってないから、そこは理想論で票集め出来る。2年生はそうだな……小鳥遊のクラスから仲間増やす感じで行くか。俺たち3年は、瑞希の影響が強そうだが……友達に協力してもらうか」


「ほうほうそこまで考えが」


「演説は確か後だったよな? 先に相手が見られるならそこからある程度対応できるだろ。まぁ俺は緊張に乗り越えれるかなんだけど」


「それは私得意なんでどうにかするっすよ」


 俺はとても緊張してしまうタイプなので、ここは小鳥遊に任せよう。お互いに出来る事をやる、という適材適所で働く事が本当に大事だ。


「あとは敵情視察はマストだな。俺が応援演説することはなるべく誤魔化しといてくれ。あとなんか説明するスライド? とかポスターとか簡易的なの作ってスクリーンに映し出すだろ? あれって何でもいいんだよな?」


「確か何でもよかったと思いますけど」


 だいたいスクリーンに映し出すものはポスターが多い。真面目な奴もあれば、ウケ狙いの奴もある。


「なら真緒に頼んで簡易的な映像を流そう。あいつも結構オタク気質だし、軽い動画編集はできるって言ってた。まぁ、短い紹介動画だから時間はそこまでかからないだろう。所詮学生だし、クオリティーは二の次だ」


 俺が1年の時に映像を使っていた人を一人覚えている。それもいいんだ、と思ったので印象に残っていた。

 インパクトを与えるなら映像一択だと考えていた。百聞は一見に如かずという言葉もある。


「凄いっすね、先輩。なんかこういう仕事向いてるんじゃないですか?」


「俺がやってるのは全部抜け道だよ。どうすれば楽にできるか、簡単に生きれるか、努力しないで済むか……そんな事ばかり考えてるからな」


「そりゃダメじゃないっすか」


「だからニートになりそうなんだよなぁ」

 社会不適合者の匂いがプンプンする。



「先輩、絶対勝ちましょう」

「おう」



 瑞希、今度は負けないからな。お前に支えてもらった分を参考にしながら、仇で返すわ。



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