第50話 3年生~春~
あの後の修学旅行は、色々な気持ちで楽しめなかった。どうやら祐樹は見事にフラれたらしく、瑞希がいたたまれなくなってその場を去った時に男たちに絡まれたのだそう。
カラメルにも避けられ気味だったが、俺はどうしてもカラメルと話したいと思って最終日の遊園地で観覧車に誘った。カラメルと話したこの時間は、俺にとってすごく短く感じた。
「カラメル、あのさ」
「分かってるよ、斗真の言いたい事も分かってる。まぁでも、私たちは一回さ、離れてまた別の世界を経験してみるっていうのが重要なのも事実。失敗から学んで、他の人ともまた触れ合って……」
「それは確かに納得できるところもあるけどさ」
「分かってるって。私はただ親の都合に合わせて逃げちゃってるだけ。ごめん」
「そう、か。まぁ今は携帯もあるし、日本にいるから会おうと思えば会えるしな」
俺はカラメルが分かってないだろう、という個人的な考えをしていたが、俺が思ったよりも冷静で大人だった。今、自分と向き合って戦っている。
「……うん。あ、もしぴったり合う恋人ができたらさ、それでもいいし……新しい恋愛を始めたっていい。でも。何年後か何十年後か分からないけど……まだ一人で、まだ好きで、感情が冷静でいて大人になっていたら」
「……」
「その時はまた付き合ってもいいかもね。もしかしたらお互いに結婚して再開するパターンもあるかも」
「未来は分かんないからな」
これが俺とカラメルがしっかりと話した最後の時になった。俺の初めての異性の親友であり、初めての彼女。恋愛は失敗してしまったが、また疎遠になったわけじゃない。きっとこの時も懐かしく思える時期も来るだろう――
「あぁあああ、うるせぇ!」
いつになっても朝のアラーム音は耳障りだ。今日も何とか起きる。
今日はぐっすり眠れなかった。久しぶりに修学旅行の時を夢に見てしまったからだろうか。なんやかんやで引きずってて草生える。いや、やめよこのキャラ恥ずかしい。
あの修学旅行から少し時は経ち、俺たちも3年生となった。カラメルは、お父さんの実家がある広島の方に引越しした。別れの会話はあまりしなかった。今はどこでも携帯などで繋がれるし、お互いの気持ちも理解してたから。まぁ広島だから会いに行くとも出来るが……あいつ、かたくなに自分の居場所言わないからな。マジで一回完全に離れるつもりだなあいつ。
カラメルともちょくちょく連絡は取っている。付き合っている時と比べればそっけない会話だが、まぁ疎遠にはなっていないので良しとしよう。
祐樹は瑞希にフラれてから、また自分磨きをして新しい彼女を作ろうとしている。瑞希を後悔させたいのだそう。真緒や後輩たちは、カラメルがいなくなってからやけにスキンシップ……と言うかボディータッチとかが多い気がする。別に大丈夫だよな? そうだよな? まぁ瑞希には鬼のような目線で見られているけど。
そういえば東雲さんとはだいぶ仲良くなった。いつの時か東雲さんが
「私たちももうだいぶ仲良くなったんだし、ニックネームとかで呼ばない?」
と言い出した時があった。
「ニックネーム? そうだなぁ、日葵だからヒマとか?」
「いいじゃん! それ採用! じゃ私は、安佐川君だからアーサーにしようかな」
いや円卓の王になっちゃったよ。それにソシャゲの当たりキャラじゃないんだから。
瑞希とは相変わらず生徒会で一緒だし、前よりさらに仲が深まった気がする。後輩達からも俺は何者だと色々調査されてるし、小鳥遊に
「先輩、乗り換えるの上手いっすね」
「ちげぇわ」
などと茶化される。まぁ瑞希とは、以前よりもお互いに助け合ってるし相棒感が強まったような気もする。
あと重要なのは進路の事だろう。俺たちもどの道に進むか決めないといけない。
真緒や瑞希は偏差値の高い国立大の入学を目指して頑張っている。祐樹は推薦に主に力を入れて公立大学入学を目指して頑張っている。
俺はご存じの通り、頭が悪いので私立大になりそうだ。得意教科で高い点数を取り、学費が安くなることも狙っている。社会系とライトノベルで身に着けた読解力で国語はできるからな。英語と数学は宇宙人がやるものだ。あれは人間がやっていい代物ではないし、母国の心をもっと持った方が良い。間違いない。
「ねぇ、アーサー? 私立なのは良いけどそこでもたくさんあるよ。どうするの?」
ヒマの問いに俺は答えられ菜ヵった、正直、俺は将来の夢を明確に持っていない。なのでどこの大学にするか悩んでいた。趣味や興味からメディア系や文学系などはある程度候補に入れていたが、どこにするか絞り込めてなかった。
ただある時、俺はとある大学のパンフレットが目に付いた。
「広島経常大学……」
学費もそこまで高くない、面白そうな学部がある、就職実績が強い、何なら推薦で学費が安く済むかもしれない……とそんなことはあまり気にならなかった。
「そうか。ハハッ、俺は馬鹿だ。その手があったじゃねぇか」
「うーん? あーなるほどね。アーサーらしい考えだ」
ヒマもパンフレットをのぞき込んで分かったみたいだった。
「だろ? 広島ならワンチャン会えるかもしれない」
「でも唐沢さんは離れたいんじゃないの? もしかしたら新しい友達とか新しい恋人がいるかもしれないし、会えるかの確証はないよ」
「別にそんなに問いただしたり復縁しようとか迫るんじゃなくてさ、ただ“友達”として絡みに行くだけだよ。それに同じ県ならやりようもあるでしょ、たぶん」
「……そっか」
別に元通りになろうとはしていない。新しい彼氏や友達がいてもいい。ただ俺もカラメルとは“親友”だから。また新たな関係で仲良くできたらいいんだ。お前のストーリーの中キャラぐらいでもいいからさ。
「じゃあ私もここにしよーかなー」
「え!?」
「私も明確な夢とかないし、アーサーがいるなら楽しそうだし」
いやそんな簡単に進路決めていいの? と思ったが俺が言えるような人物じゃなかったわ。まぁともかく、これで俺たちの進路が決まった。
全く、3年生というのは何事も最後で寂しくなるな。ほんと辞めてほしいものだ。
体育祭は、去年と違って事件も何もなく無事に終了して生徒会の役目を終えた。ちなみに今年の生徒会種目は借り物競争だった。今年は各クラス一人で、俺らのクラスからは東雲さんが出ていたが
「ねね、アーサー? ちょっときて」
と言われ、お題が一番大事な人という事が判明し気まずくなったことは絶対に忘れない。
「斗真君って本当誰でもいいんだね」
なんで瑞希は正妻ポジションなんだよ。
「あー君さぁ? ちょっとこようか」
真緒、やめて! おいこらペットボトルを投げるな。
打ち上げでは、後輩たちが珍しく泣いてたっけ。小鳥遊の泣き顔は、後々使えそうなので写真を撮った。相変わらずクソみたいな性格も残っている。
そんな事をしているうちに季節は夏になる――
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