第49話 修学旅行⑧

 3日目。今日は長崎に移動して自由行動だ。平和記念公園や天主堂に長崎駅など色々な所に行く予定だ。でもそれだけではない。俺やカラメル、瑞希に祐樹……俺らの関係が変わる日でもあるだろう。


 まず俺たちは天主堂に行ったり、平和記念公園に行った。正直、長崎には興味を持ってなかったが歴史や名所を知る事で、とても良い所で大事な所だと思った。


 俺たちも至って普通だった。俺とカラメルも普通に話しているし、瑞希や祐樹もそう。真緒はなんだか仲間外れにされて不満そうだったけど。それはスマン。


 東雲さんは、出島とかの方に行ったのだそう。メッセージが来ていた。


『出島って島が出てるのかなぁ。それなら私にも出島が2つ……』


 よし、既読スルーしよ。




 俺らは昼食や休憩もかねて長崎駅に来ていた。効率重視の時間も決められているので、適当に昼食を済ますのは残念だがしょうがない。ここでお土産もたくさん買っておこう。


 祐樹と瑞希は昼食をすぐに食べ、先にどこか行ってしまった。ここが伝えるチャンスと思ったのだろうか。真緒も気になって2人に気づかれないようにコソコソとついていった。よって、俺とカラメルの2人になる。


 俺がハンバーガー、カラメルがラーメンと長崎に何の関係もないものを食べながら話し出す。


「久しぶりにこう話す気がするね」


「ほんとだな」

 ずっとカラメルと一緒にいたからか、2人でいるのがとても久しぶりに感じる。


「はぁ、失敗しちゃったな」


「俺のせいでもあるからな。カラメルはそう抱え込むな」


「うんうん、そんな事ない。実際さ、本当に重いなぁとも思ってたんだよ。でも歯止めが効かないというかさ。斗真達の事、何も考えずに行動しちゃった」

 カラメルは俺が思ってたよりもずっと冷静だった。


「俺もまぁ自分の事ばかり考えてた。もう少しカラメルと寄り添って、考えられたらよかった」


「斗真は優しいね」

「カラメルもな」

 それで俺とカラメルの会話は終わる。


 その後、少しの沈黙が続いた。その重い沈黙を破るようにカラメルが


「斗真はさ、私との関係どう思ってる?」

 と俺に問いかけてくる。


「正直、俺とカラメルの今の気持ちがどうか、ってことだな。カラメルは今どう思ってる」


「ちょっと話変わるけどさ、私の家庭事情知ってる?」

 ここでその話が出てくるか、と俺は思う。


「今大変なんだってな」


「……そこまで知ってたんだ。せっかく元に戻りかけてたのにさ、理不尽だよね」


「そう、だな」

 人生は何もかも上手く行かない。


「今日の朝さ、連絡がきてたんだ。色々と少し落ち着いたらしいんだけど……結構大変でさ、もしかしたら私転校するかも」


「て、転校!?」

 予想してないカラメルの言葉に思わず動揺してしまう。


「パパの実家の方に行く可能性が出てきてさ、今のままの生活はできないかもしれないんだ」


「え、えっそうなのか」

 俺は未だ状況がつかめない。


「まだ分からないけど、結構可能性高そうでさ」


「そ、それはどうにかならないのか?」


「結構いろんな問題があるみたいで、どうも思い通りに行きそうにはないんだよね」


 え? じゃあカラメルとは離れ離れになるのか? ちょっと待ってくれよ。


「私もさ、悲しいし何でこんな事になったんだって思ってる。でもいい機会じゃない?」


「いい機会?」


「私と斗真もちょっと離れる時期が必要だったわけだし。今どきスマホもあるし、大学生とかで暇になったら会えるかもしれないし」


「お、おいちょっと待てよ」


 なんでそんな話が進んでるんだよ。まだ俺は何も伝えられてないってのに。

 別に仲を戻そうとかそんな都合の良い話はしない。ただ、俺とカラメルで本音でぶつかって分かり合えればなとか思ってたのに。


「じゃ、トイレ行ってくるね」

 カラメルはそうやって逃げるようにトイレへ行った。


「いやまだ分からないし……今は携帯で連絡取れるし」

 俺はそう言い聞かす。


 初めての恋愛、失敗しちゃったな。カラメルも離れてもしかしたら新しい恋愛を始めるのかな。その前に俺の気持ちは伝えないと……などいろいろと考えていると、


「や、やめてください」

 という女の子の声が聞こえた。何だか嫌がる声だった。


「おい、静かにしろ。その制服ここらでは見ねぇな? どっから来たんだ?」

「人が多いから助けを求めようなんてそうはいかねぇぜ」


 確かに人は多い。修学旅行、ということで俺らの学校の先生や生徒もいるし、地元の大学生もいる。一応平日なのに遊んでいる人も見るし。


 まぁ、ナンパか。こういうのってどの時代もあるよな。うん? ここら辺で見ない制服? もしかして同じ学校の生徒か? 


 俺はそう思って周りをグルリと見渡す。人が多いので、あまり分からなかったが女の子が絡まれている姿が確認できた。


 俺に限って何だか多いな、と思いつつ俺は見なかったふりをする。今はそういう気持ちじゃないしな。いや、でも、うーん……


「やめてください、ちょっと」


 歩いてる人も皆見ないふりと言うか無視だ。俺も無視しよう、そうしよう。そう悪くの気持ちを持ったが、気持ち悪いので俺は助けることにした。瑞希との出会いの件を思い出したから。


 俺は急いで連れ去ろうとする男たちを追う。追いつくと、そこには俺の知った女の子がいた。


「あれ、瑞希じゃん」

 思わず口からこぼれ出てしまった。


「斗真君……」


「なんだぁこいつ?」

「ひょろいな」

 男たちは俺を舐めた目で見ている。


「同級生なんですよ、この女の子。先生も呼んだのでもうすぐ来ると思いますが、それでも大丈夫なら殴っていいっすよ。まぁ最終的には捕まりますけどね」

 俺は得意の出まかせをペラペラと喋る。


「「ちっ」」

 男たちは面倒くさそうにその場を立ち去って行った。



「あ、ありがとう。斗真君とはこんな事が多いわね」


「一度目は無視。二度目はまぁ素直に助ける。三度目は無視しかける寸前だったけど助けたって感じだな」


「? 斗真君、なんだかひどい表情だけど……」

 やべっ、カラメルの事が顔に出ちゃってるか。


「まぁ、カラメルの事でな。ちょっと」


 俺はそうして瑞希に簡単に説明する。


「そう、だったのね」


「まぁ失敗しちゃったな、って感じだ」


「まだ分からないでしょ。気持ちが伝えられなくなったわけでもないし」

 瑞希の言う事はごもっともだ。


「そうだよな。まだやりようはある」

 カラメルと離れる前までに気持ちは伝えないとな。


「まぁ、斗真君が苦しんでたら私が助けてあげるから」


 ああ、そうか。君もいつも俺を支えてくれる。


「今度は美少女を無視しかけた事から俺の青春は始まっていく、なんてな」

 

「えっ、何の話?」


「いやいや、こっちの話」


 未来は誰にも見る事が出来ない。だからこそ、一日一日を頑張って生きていくしかないのだ。

 上手く行くのかもしれない、失敗するかもしれない、絶望するかもしれない.




 さて俺の未来はどうなる事やら……



 

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